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U-20女子W杯を目指す「新・ヤングなでしこ」が始動。伸びしろ豊かな新世代が登場

松原渓スポーツジャーナリスト
(左から)井上千里、大山愛笑、長江伊吹、山本柚月、藤野あおば

【2022 FIFAU-20女子W杯コスタリカに向けて始動】

 U-19女子代表が、福島県のJヴィレッジで5月16日から5日間の合宿を行った。

 このチームは、来年8月にコスタリカで開催されるFIFA U-20女子W杯を目指すチームとして、新たに立ち上げられた“ヤングなでしこ”だ。

 2年ごとに行われる同大会で、日本は2016年に3位、18年には優勝と、結果を残してきた。しかし、昨年の大会は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により今年1月に延期され、感染の猛威が収まらなかったため最終的に中止に。インドで開催される予定だったU-17女子W杯も同様に中止となり、開催地はそれぞれ次回大会に引き継がれている。

 U−19女子代表は、池田太監督が引き続き同年代を指揮する。また、来年10月のU-17女子W杯を目指すU-16女子代表(通称“リトルなでしこ”)も狩野倫久監督の続投が決まり、先月立ち上げの活動を行った。

 両代表とも、目指すはW杯での世界一だ。日本は唯一、なでしこジャパン、U-20、U-17の各年代で世界一を達成し、育成力は世界でも高いレベルにある。

 池田監督は、U-20女子代表を指揮して今回が3代目となる。過去2代のヤングなでしこは、粘り強い守備をベースとしながらも複数の選手が得点できるチームで、17年と19年のアジア予選2大会、そして18年のU-20女子W杯フランス大会では初の世界一になった。当時の選手たちの中からは、DF南萌華(浦和レッズレディース)のように、フル代表に定着した選手もいる。

 これまでのU-20W杯からは、2つの変化がある。一つは、これまで大会の前年に行われていたアジア予選が、今大会からW杯と同年に行われることになったことだ。U-20女子W杯の予選は「AFC U-19女子選手権」から「AFC U-20女子選手権」と大会名が変わり、来年4月にウズベキスタンで開催される。

 この影響について池田監督は、「予選がW杯と近くなったことで、予選の勢いでW杯に向かうことができることなど、プラスの要素もあると思います。今の(コロナ禍の)状態でどのような活動ができるかは未定ですが、来年の4月のアジア予選までにしっかり準備期間を取れることもあります」と、前向きに捉えている。

池田太監督
池田太監督写真:アフロスポーツ

 もう一つの変化は、日本女子プロサッカー「WEリーグ」が今年からスタートすることになり、選手たちがプレーするカテゴリーが広がったことだ。今回の活動に呼ばれた候補は28名で、所属リーグは、WEリーグ(13名)、なでしこリーグ1部(3名)、同2部(3名)、関東女子サッカーリーグ(4名)、関東U-18女子サッカーリーグ(3名)、高校(1名)、所属なし(※大学入学手続き中/1名)と多岐にわたる。どのようなポイントを基準に選考しているのだろうか。

「各所属リーグによって強度の違いがあるので、選手個々のフィジカル、技術、戦術のレベルを各スタッフがチェックしています。集まった時にはそれをすり合わせるために、この代表チームのコンセプトと狙いを確認した上で、キャンプの中で、その選手がどれぐらいできるかを確認していきます」

 U-17W杯が中止になった経緯もあり、国際大会を経験していない選手が多い。一方で、前回のU-20代表候補に飛び級で入っていた選手が4分の1近くを占めている。19年のアジア予選優勝メンバーであるMF森田美紗希(日体大FIELDS横浜)、DF長江伊吹(INAC神戸レオネッサ)、GK大場朱羽(JFAアカデミー福島)、FW山本柚月(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)の4名も入っている。

 コロナ禍で海外での強化試合は、当分難しいと思われる。そのため、なでしこジャパン同様、国内の男子チームとのトレーニングマッチなどでプレー強度を高めていく予定だ。

 選手とスタッフの初顔合わせともなった今回の活動では、まずミーティングで、「(U-20)W杯を見据えながらも、まずは来年のアジア予選でしっかり出場権を取る」という目標と、「アグレッシブに仕掛けて奪う!」というチームコンセプトを共有した。初日はなでしこジャパンの合宿と重なり、男子チームとのトレーニングマッチを見学した選手たちは、それぞれに、代表選手たちのプレーを熱心に見守っていた。

高い集中力で練習に取り組んでいた(中央は岩崎心南)
高い集中力で練習に取り組んでいた(中央は岩崎心南)

 練習メニューは様々な局面を想定して行われるが、すべての練習に共通するポイントの一つが「連続性」だ。攻守の切り替えはもちろん、シュートへの高い意識づけとともに、セカンドボールが溢れてくることも想定した高い集中力が求められる。池田監督は、選手が常に広い視野で複数の選択肢を持ちながらプレーすることを促し、良かったプレーは言葉で具体的に再現して褒める。元なでしこジャパンの宮本ともみコーチは、同じ視点から声をかけつつ、「いつ、どこで、どういうボールが欲しいのかもっと話して!」と、コミュニケーションの質を高めることも強調しながら選手たちを鼓舞していた。

 合宿4日目には、東日本国際大学附属昌平高等学校の男子サッカー部とのトレーニングマッチを行い、U-19代表が4-0で勝利した。JFA公式のレポートによると、時間が経つごとにアグレッシブな守備が機能するようになり、セットプレーやコンビネーションからのゴールも生まれている。

【WEリーグで活躍する注目選手たち】

 選手たちの環境はそれぞれに異なっており、なでしこリーグやの強豪チームでレギュラーとして活躍する選手もいれば、なでしこジャパンの選手が集うWEリーグの、ハイレベルな競争の中で出場を目指す選手もいる。

 今回は、トップリーグのWEリーグから、U-19代表の注目選手たちを紹介したい。

 GK福田史織(三菱重工浦和レッズレディース)は、飛び級でU-17とU-19に招集されてきた可能性豊かなゴールキーパーだ。チーム内で最年長の年代となる今回は、「自分たちが引っ張っていかないといけない」と、責任感も強くなった。プレーでは、反射神経の鋭さとバネを生かしたしなやかな動きが武器で、「1対1とか、至近距離でのシュートストップは、絶対に負けたくないなと思っています」と語る。

 福田は昨季なでしこリーグ女王の浦和で今季、ユースからトップチームに昇格。浦和の守護神で、代表GKでもある池田咲紀子のプレーを通じてフル代表のレベルを肌で感じ、研鑽を積んできた。

福田史織
福田史織写真:西村尚己/アフロスポーツ

「(池田)咲紀子さんは、コーチングで味方を安心させながら相手に圧力を与えて、FWがシュートを打つ時に『コースがない』と感じさせることができます。打たれる前から周囲の状況を予測してカウンターに繋げるのも上手なので、そういうところを見習ってさらに高めていきたいです」

 今回の活動では、ともに招集された同年代のライバルたちからも刺激を受けたことを明かした。「大場(朱羽)選手はクロスに強いですし、竹下(奏彩)選手は反射神経が良くて、野田(にな)選手は見ているところが良くて、キックも左右蹴れる選手」と、各選手の強みを分析。良いところは積極的に盗み、切磋琢磨しながらGKとしての総合力を高めていくつもりだ。

 また、全日本高校女子サッカー選手権大会で、名門・藤枝順心高校(静岡県)をキャプテンとして初の大会連覇に導いた、FW柳瀬楓菜(サンフレッチェ広島レジーナ)も招集された。WEリーグのプレシーズンマッチ初戦の大宮アルディージャVENTUS戦では、ハードワークとスキルフルなプレーで、期待に違わぬ存在感を示した。

 今年、新規の女子プロサッカーチームとして設立された広島には、2011年のW杯優勝メンバーであるMF近賀ゆかりやGK福元美穂、代表候補のFW上野真実をはじめとした実力派選手が揃う。柳瀬は、「いいポジションをとっていれば必ずボールが出てくるし、一つひとつのパスの精度も高いです。経験豊富な選手たちは、自分にはなかったいろいろなアイデアを持っているので、日々学んで取り入れています」と、新天地で充実した日々を送っていることを明かした。

柳瀬楓菜
柳瀬楓菜

 U-19代表では、藤枝順心高校の先輩で、昨年の大会で柳瀬同様にキャプテンとして高校日本一を牽引したINACの長江伊吹とも再会し、「上のレベルで、また一緒にプレーできることがすごく嬉しいです」と笑顔を見せた。

 来年のアジア予選に向けては、チームの中心選手になって大会を勝ち抜く青写真を描く。「自分の持ち味である運動量で、攻守にわたって常に関わりを持ち続けたいです」と、ハードワーカーの魅力をアピールしていく。

 プレシーズンマッチで、ここまで3試合すべてに先発しているDF竹重杏歌里(INAC神戸レオネッサ)も、今後大きく羽ばたきそうな選手だ。172cmの長身と正確な両足のキックを武器に、最終ラインを安定させるディフェンダーである。

 INACの星川敬監督は、「高い可能性を感じさせる選手なので、サイド(ハーフ)でも使っています。対人の強さは元々持っているもので、長いボールも蹴れる選手」と、将来性の高さを示唆する。

 INACはWEリーグがスタートする以前から全員がプロ同様の環境で、フル代表の主軸も多い。竹重は、「判断のスピードもプレースピードも上がりました。今は自分のプレーをすることで精一杯ですが、先輩たちから大きな刺激をもらっています」と表情を引き締めた。

竹重杏歌理
竹重杏歌理

 憧れの選手は、日本代表のMF久保建英(ヘタフェ)と、オランダ代表のファン・ダイク(リバプール)というスケールの大きさだ。「久保選手はポジションが(自分とは)違うのですが、プレーとメンタリティを尊敬しています。ファンダイクは体が大きくて足も速くて、プレーにガッツがある感じで。そうなりたいな、と思っています」

 そう話す表情は初々しいが、凛々しいプレーを見れば、目指すイメージが腑に落ちる。

 ここ数年、育成年代から頭角を現してくる若い選手たちの中には、技術力を生かしたプレーや機動力など、従来の日本人選手の特徴に加えて、海外勢に対して劣らないほどの身体能力の高い選手もいる。そうした原石たちを、どのように輝かせていくのか。池田監督をはじめ、コーチングスタッフの手腕に期待したい。

 今後は、1年後のアジア予選までに5回ほどの合宿を予定しているという。今年中に、ワクチンの普及や、新型コロナウイルス感染症の拡大の収束が実現して、再びサッカー界にコロナ以前の日常が戻ってくることを祈りつつ、今後の活動を見守っていきたい。

来年4月のアジア予選で優勝を目指す
来年4月のアジア予選で優勝を目指す

※表記のない写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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