マイナビ仙台が、プレシーズンマッチ初戦でなでしこリーグ女王に善戦。WEリーグに向け、スタートは上々

新チームのお披露目となった

【浦和との対戦で見えた現在地】

 9月に開幕する女子プロサッカー「WEリーグ」は、プレシーズンマッチが各地で行われている。

 開幕初日の4月24日に浦和駒場スタジアム(埼玉県)で行われた三菱重工浦和レッズレディースとマイナビ仙台レディースの試合には、1,500人以上の観客が足を運んだ。松田岳夫新監督の下、新体制でWEリーグに臨むマイナビ仙台は、昨季なでしこリーグ女王の浦和に対して一歩も引かず、白熱した試合を展開。結果は1-1のドローだったが、互いに見せ場が多く、WEリーグ本番に期待を抱かせる試合だった。

 各チームが始動してから、プレシーズンマッチまでの準備期間は約2カ月半。浦和は、森栄次総監督の下で2年かけて築いたたしかな土台があり、戦い方に幅がある。各選手が複数のポジションをカバーできるため、個々の好不調の波をチームでカバーできる。その組織化された堅守を破るのは容易ではないが、マイナビ仙台はアグレッシブな守備から突破口を見いだした。

 立ち上がりの7分にFW浜田遥が前線でボールを奪い、クロスバー直撃のロングシュートで会場を沸かせる。その後は時間と共に浦和に主導権を譲り、37分にはペナルティエリア内のファウルでPKを献上し、先制を許した。しかし、GK松本真未子のファインセーブもあり、1点ビハインドのまま前半を折り返す。すると、後半は相手陣内のタイトな守備で主導権を握り、攻撃ではワンタッチパスを使ったテンポの良い流れでフィニッシュまでの流れを作り出した。

隅田凜
隅田凜

 57分、右サイドでMF隅田凜からのサイドチェンジを受けたDF奥川千沙の折り返しを、中央でFW池尻茉由がスルー。走り込んだMF長野風花がシュートを放ったシーンは完璧に崩したが、代表GK池田咲紀子が間一髪弾き出す。続けて、63分にも、隅田がドリブルで中央から持ち込んで放ったミドルシュートがクロスバーを直撃した。

 そして、72分にはマイナビ仙台が鮮やかな崩しで同点に追いつく。センターバックのDF市瀬菜々がロングボールを前線の池尻茉由にダイレクトで送り、そのまま右サイドを疾走。池尻がキープして落としたボールを、ボランチのMF長野風花がダイレクトで市瀬に合わせる。市瀬がマイナス気味に折り返し、フリーで走り込んだFW宮澤ひなたがゴール右上に突き刺した。

 終盤は互いに交代枠を積極的に使いながら勝利を目指す。結果的に浦和は4人、マイナビ仙台は6人の交代枠を使い、長野と宮澤も含めて新加入選手4名がピッチに立った。追加点こそ生まれなかったが、最後まで引き締まった見応えのある試合となった。

【個性が躍動するサッカーを目指して】

 WEリーグ初年度の今季、新体制となったマイナビ仙台は補強も含めて大きく動き、登録選手26名全員とプロ契約を結んだ。そして、松田新監督は、就任から短期間で、チームのサッカーに新たな命を吹き込んでいる。2月の新体制発表で語ったチームの未来図は力強かった。

「サッカーにはいろんな要素があって、相手があってのスポーツです。その都度、判断しながら、表現するプレーも(相手によって)変わりますが、攻守においてアグレッシブに、主導権を握ってゲームを進めたい。チームのやり方に選手をはめていくことは考えていないです。彼女たちの特徴をしっかり見極めながら、出る選手によっていろんな顔を見せられる、そういうチームを作っていきたいと考えています」

 松田監督は、日テレ・東京ヴェルディベレーザや、ちふれASエルフェン埼玉、INAC神戸レオネッサなどから、数多くの代表選手を送り出してきた女子サッカー界の名将だ。来年、指導歴30年目を迎える。

 形にはめず、個性を生かす。その信条は、これまで指導してきたチームでも貫かれてきた。だが、下部組織からの生え抜き選手が多いベレーザや、経験豊富なベテラン選手がいた当時のINACとは異なり、今季のマイナビ仙台は若い選手が多く、出自や背景も異なる十人十色の選手が集まっている。その多様な個性をどうまとめていくのか。松田監督の優先順位は明確だった。

松田岳夫監督(中央)
松田岳夫監督(中央)

「まず、サッカーは楽しくないといけない。今まで彼女たちがどう育ってきたかはわからないけれど、言われたことを一生懸命やろうとすることが多かったのではないかな?と思います。だからこそ、自分の内側にある、サッカーを楽しむ気持ちや、自分が持っているものをストレートに出せるようになることから取り組みました」

 松田監督の練習はバリエーションが豊かだ。相手との駆け引きの中で、複数のプレーの選択肢を持てるように導いていく。そのプロセスで、選手はチームに貢献できる自身の強みや、サッカーの奥深さを見出せるようになるのだろう。

 浦和戦の後半は、ピッチに立つ選手が互いをしっかり見ながら自分の得意なプレーを表現できているように見えた。だが、松田監督は手応えよりも、むしろ物足りないことを仄めかすように「うーん」と間を置き、こう続けた。

「自分の特徴を出した上で、チームにどう貢献できるかが重要だと全員に伝えて、トレーニングの中でも意識してもらっています。サッカーはチームスポーツなので、全体で見られがちですが、まずは『個々の選手が(目の前の)相手に負けない』ことが一番ですしね。そういう意味では球際の強さだけでなく、走りや切り替えもそうだし、できれば、技術や判断力も、すべてで相手を上回りたい、というのが本音です」

 判断スピードを上げ、頭と体を連動させることもそうだが、難しいのはそれを90分間続けることだ。プレシーズンは、シーズンを戦い抜くための体力づくりも重要だが、マイナビ仙台はボールを使わない走り込みはほとんどしていないという。ボールを使って実際のゲームに近い状況を作り、切り替えの速いサッカーで頭も体もフル回転させながら、スタミナも培っているのだ。

「いくらボールを動かしてもゴールに近づけなければいけないので、パスの本数を増やすよりは、どうやってゴールに近づくか。そのために、ボールを追い越す動きとか、ボールの前に人を増やしていくことは、トレーニングの中で入れてきました。それは、今のサッカーに欠かせない要素だと思いますから」

 先発の11人は、「常にその時のベストメンバーを選ぶ」。それも、松田監督が貫いてきたことだ。

 前半の好パフォーマンスでチームに流れを引き寄せたGK松本真未子は、昨年からマイナビ仙台でプレーしている。古巣の浦和とは三度目の対戦で、今回、プレシーズンマッチとはいえ、初の勝ち点を獲得した。

 自陣からのビルドアップには、GKも重要な役割を果たす。そのため、練習では週に数回、フィールドのボール回しにも加わっているという。

「トレーニングでは、常に頭を使ってプレーしています。それは相手を見ることや、予測にもつながるところで、サッカーで一番大事なところだと思うので。自分のプレーの引き出しが増えていくことを楽しんでいます」と、新しいチームで、自身が成長している実感を口にした。

 そして、この試合では、前年度のなでしこリーグ女王に、自分たちが積み上げてきたものがどれだけ通用するか、楽しみにしていたという。

松本真未子
松本真未子

「個人的にはコンディションをしっかりと上げた状態で入れたので、自信を持ってゲームに臨めました。最初の(前半20分の)猶本光選手のヘディングシュートを弾き出したところから調子を掴めて、余裕を持って試合を運べたと思います。防ぎきれないところもありましたが、失点もPKだったので、なんとか崩れずに後半に行けたのは大きかったです。後半は受け身にならずに攻撃的なサッカーができていました。チームの攻撃を見た時に、『これはいけるかもしれない』と思いましたね」

 現在23歳の松本は、2014年のU-17女子W杯で正GKとして日本の世界一に貢献した実績を持つ。「入った」と思ったシュートに、長い手がスッと伸びて、ボールを吸い込むようにキャッチする。的確なポジショニングやそのしなやかな動きに加え、ゴールを小さく見せるような堂々とした振る舞いも特徴だ。大ピンチや、好セーブを見せた後でも、切り替えが早い。それは、10代の頃から年代別代表で世界と対峙してきた中で培われた経験や、ハイレベルなポジション争いの中で戦い抜いてきた努力の賜物だろう。

 同点ゴールを決めたシーンでは、自陣ゴール前で一人、力強くガッツポーズを決める姿が印象的だった。

【ハーフタイムに入った「スイッチ」】

 マイナビ仙台は始動から約2カ月半、男子中学生年代や高校生年代の女子チームとのトレーニングマッチをしてきたという。観客が入った緊張感の中、同じWEリーグの優勝候補を相手に戦った中で見えた課題こそ、最大の収穫とも言える。

 流れを掴んだ後半に同点ゴールを決めた宮澤は、前半から後半にかけて内容が好転した理由について、「ハーフタイムに松田さんに喝を入れられて、後半は自分たちの繋ぐサッカーができるようになったと思います」と明かしている。

左から宮澤ひなた(仙台)、佐々木繭(浦和)、南萌華(浦和)
左から宮澤ひなた(仙台)、佐々木繭(浦和)、南萌華(浦和)

 メンタル面で力強く選手たちの背中を押したのは、どんな言葉だったのか。

「今の時代、そんなに激しい喝は入れられないですよ(笑)。ただ、去年のリーグチャンピオン相手に試合をするのに、終わってから『気持ちの面とか体力面で負けていた』、とか、『遠慮してしまった』とか、そういう課題は出したくなかったので、それを試合前に選手には言っていました。それなのに、チャレンジするプレーが少なかった。前半は相手をリスペクトしすぎて、守備でもリスクを冒さず、ずるずる下がっていました。リスクがあってもボールは取りにいかなければいけないし、それを他の選手がカバーすれば、それが戦術になっていく。『やられたくないから(ボールを奪いに)行かない』と、ネガティブに考えるとチャレンジできなくなるので、そこはかなり強く言いました。誰かにスイッチを押してもらわないと実力を出せないのが現状だと思います」

 そのスイッチを自分たちでコントロールできるようになり、後半のようなアグレッシブなサッカーを前半から展開できれば、そこにはさらなるステップアップが待っているのだろう。

 4月のA代表のパラグアイ・パナマ戦には、浜田と宮澤が選ばれ、東京五輪候補に残った。マイナビ仙台は年代別代表経験者が多く、WEリーグでの活躍次第では、今後A代表入りを狙えそうな選手が多くいる。松本も、次期なでしこGK候補に名を連ねる一人だ。

「ゲームの流れや、相手のフォーメーションを読む力をもっとつけて、安定感のあるGKになりたいです。日本代表のGKになって、W杯や五輪で優勝することを目標にしているので、高いレベルでプレーするために自分が何をしなければいけないか、そのために、しっかりとした準備を大切にしていきたいと思います」

 日本が初優勝した2011年W杯ドイツ大会に多くの教え子を送り出した松田監督の下、再び世界で活躍する選手は出てくるだろうか。9月の開幕に向けて、今後のスタメン争いはさらに熾烈さを増していきそうだ。

 マイナビ仙台のプレシーズンマッチ第2戦は、5月9日に、ちふれASエルフェン埼玉と対戦する。試合はホームのかくだスポーツビレッジ内 角田市陸上競技場(宮城県)で13時キックオフとなる。

左から高平美憂、福田ゆい、池尻茉由
左から高平美憂、福田ゆい、池尻茉由

浜田遥
浜田遥

遠藤優(浦和)、長野風花(仙台)
遠藤優(浦和)、長野風花(仙台)

※写真はすべて筆者撮影