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女子プロサッカー「WEリーグ」のプレシーズンマッチがスタート。4カ月後の開幕に向け、機運は高まるか

松原渓スポーツジャーナリスト
浦和と仙台のプレシーズンマッチ初戦は見どころの多い90分間だった

【新ユニフォームのお披露目も】

 4月24日(土)、日本女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」のプレシーズンマッチが開幕した。 

 前日の23日には、WEリーグが「ビーズインターナショナル株式会社」と、ユニフォームのオフィシャルサプライヤー契約を締結したことを発表。同社のストリートブランド「X-girl」(エックスガール)が、マイナビ仙台レディース、大宮アルディージャ VENTUS、ちふれ AS エルフェン埼玉、ジェフユナイテッド市原・千葉レディース、ノジマステラ神奈川相模原、AC 長野パルセイロ・レディース、アルビレックス新潟レディースの7チームのユニフォームを手がけることとなった。新ユニフォームは、9月の開幕に向けて制作が進められているという。

 三菱重工浦和レッズレディースは「NIKE」(ナイキ)、INAC神戸レオネッサは「hummel」(ヒュンメル)、日テレ・東京ヴェルディベレーザは「ATHLETA」(アスレタ)を着用する。また、新規参入のサンフレッチェ広島レジーナは、男子トップチームと同じ「NIKE」だ。

 INACは今季、ユニフォームのデザインをファッションデザイナーのコシノヒロコさんが手がけ、4月15日に新ユニフォームを発表。斬新なデザインが話題を呼び、24日のプレシーズンマッチ初戦でお披露目となった。

WEリーグ元年のINACのユニフォームはコシノヒロコさんがデザインを手がけた(画像提供:INAC神戸レオネッサ)
WEリーグ元年のINACのユニフォームはコシノヒロコさんがデザインを手がけた(画像提供:INAC神戸レオネッサ)

 Jリーグでは、開幕イヤーの1993年から1995年まで、スポーツメーカーのミズノが全10チームのユニフォームを手がけた。鮮やかな配色とともに、世界地図や幾何学模様、流線型のラインなど、個性的なデザインが印象的だった当時のユニフォームは、今やプレミアがつくものもある。

 WEリーグ元年は、どのようなユニフォームで彩られるのだろうか。

 選手たちはこれまで、3月開幕のなでしこリーグで戦っていたが、WEリーグは9月開幕。オフシーズンが例年よりも長く、11チームのサポーターやファンの多くは、このプレシーズンマッチを心待ちにしていたのではないだろうか。

 25日には新型コロナウイルスの緊急事態宣言が東京、大阪、京都、兵庫の4都府県に出された。当該地域では、有観客試合から無観客試合への切り替えも進んでいる。様々な制限はあるが、その中でプレシーズンマッチを楽しみ、4カ月後の開幕への機運を高めていきたいところだ。

 試合は、インターネット中継でも見ることができる(一部を除く)。イレブンスポーツでは10試合のライブ放送(見逃し配信あり)を実施するほか、クラブ公式のYouTubeで試合が見られるチームもある(各チームのHPなどを参照のこと)。

 24日の初日は、2試合が行われた。J-GREEN堺S1メインフィールド(大阪府)で行われたINACと長野の試合は、INACがFW成宮唯の2ゴールなどで3-0で勝利。

 浦和駒場スタジアム(埼玉県)では、昨季なでしこリーグ優勝の浦和が、新体制になった仙台を迎え、結果は1-1のドローだった。この試合には1,500名を超える観客が詰めかけ、浦和の人気ぶりと、WEリーグ初年度への期待を感じさせた。

【新たな好敵手】

 森栄次監督が3年目で「総監督」のポストに就き、楠瀬直木新監督を迎えて二頭体制になった浦和に対し、松田岳夫新監督を迎えて新たなスタートを切った仙台。新リーグ発足で選手が大きく動いた中、昨季なでしこリーグで優勝した浦和は、レギュラー陣のほとんどがチームに残り、戦力を維持している。一方の仙台は、年代別代表などで活躍した若手実力派選手たちが加わり、戦力はアップした。この対戦は、女王とチャレンジャーの図式で、チームの成熟度や個々の経験値を考えれば浦和に分があった。しかし、フタを開けてみれば、試合は両者が見せ場を作り合う好ゲームとなった。

一進一退の攻防となった
一進一退の攻防となった

 立ち上がり、仙台のタイトな守備に押され気味だった浦和は、徐々にそのプレッシャーに慣れ、テンポの良いパス回しでペースを掴む。そして、37分にMF猶本光の仕掛けからPKを獲得。これを昨季得点女王のFW菅澤優衣香が決めて先制した。

 しかし、後半は仙台がギアを一段上げ、アグレッシブな戦いを展開する。強度の高い守備で浦和のパスワークに乱れを生じさせ、72分には、分厚い攻撃で右サイドを崩し、浦和の堅守を鮮やかに突破。DF市瀬菜々の折り返しを新加入のFW宮澤ひなたが決めて同点に追いつき、試合はこのまま1-1で終了した。シュート数では浦和が13対8と仙台を上回ったが、仙台のシュートがクロスバーに当たるピンチも複数回あっただけに、浦和にとっては満足するには遠い内容だった。

 楠瀬監督は初陣を振り返り、「もう少しできてもいいかなと不甲斐ない部分もありますが、いろいろなものが見えた試合です」と話した。プレー面では、「久しぶりのフルタイムの真剣勝負で、様子を見て入ったつもりでしたが、選手たちも仕掛けを早くして早く点を取りたいと思っていたように感じました。もっとボールを動かしたかったのですが、思った以上にマイナビ(仙台)さんのディフェンスが固く、プレッシャーも強かったです」と振り返り、全体的に強度を上げていくことを課題に挙げた。

 昨季のなでしこリーグを思い返しても、浦和がここまで決定機を作られる試合は少なかった。

 今回、松田監督率いる仙台とは初対戦で情報がなく、戦い方が予想できなかったという点で、劣勢を強いられた立ち上がりの時間帯は必然とも言える。しかし、互いに手の内を見せ合った中で、後半も主導権を握られる時間帯が少なからずあった。また、浦和は4人を交代し、仙台は6人を交代し、選手層の厚さも感じさせた(プレシーズンマッチは7名までの交代枠があり、ハーフタイムを除き、3回の交代を行うことができる)。

 森総監督と松田監督はともに、ベレーザでリーグ連覇を成し遂げた女子サッカー界の名将で、楠瀬監督も読売クラブ出身で同郷だ。若手からベテラン選手、代表選手まで、様々な個性をマネジメントしてきた指導者の競演は、交代のタイミングや、ポジションの動かし方にも見応えがある。浦和にとって、新たな好敵手となるかもしれない。

左から万屋美穂(仙台)、安藤梢(浦和)、市瀬菜々(仙台)
左から万屋美穂(仙台)、安藤梢(浦和)、市瀬菜々(仙台)

 中盤でボランチとして先発し、72分までプレーしたMF栗島朱里は試合後、「後半は体力的にも全体的に落ちてしまったので、前半にもっと自分たちが試合をコントロールして、いくところといかないところの緩急をつけたプレーができたら良かったです。中盤で五分五分のボールを、どれだけ自分たちのボールにできるかで状況が変わるので、そこにパワーを使ってマイボールの時間を増やして、その中でどう攻めていくか。ゆっくり回すときなのか、(それとも早く攻める時なのか)ということを全体で共有してプレーしたいと思います」と、チームとしての改善点を冷静に分析した。

 レギュラー陣がコンビネーションを合わせる時間が少ないのは、代表に多くの主力を送り出すチームの宿命とも言える。代表選手たちは3月中旬から鹿児島で2週間のキャンプを行い、4月は4日から13日まで、パラグアイ、パナマとの2連戦でチームを離れた。代表組がチームに合流したのは、15日から19日まで静岡県で実施した強化合宿の時だった。

 代表組のDF南萌華は試合後、「みんなと合わせる時間が少なく、細かいところで合わなかったところがありました。個人的にも申し訳ないという思いもあります」と、自身のパフォーマンスを客観視して反省の弁を口にした。

 とはいえ、開幕までにはまだ十分な時間がある。主力はほぼ変わっていないだけに、1カ月もあれば、連係の感覚は取り戻せるだろう。また、昨年まではアマチュアだったが、多くの選手は今年からプロになり、プレーを向上させるための時間が増えた。

 GK池田咲紀子は、「今までは夜の練習で、昼間に仕事をするリズムだったのですが、これからは午前の練習で、午後は自分に使える時間になります。体のケアや筋トレはもちろんですが、試合(の映像)を見て頭を整理したり、サッカーの理解を深める時間を作って、体と頭をもう一段階上げられるようにしたいと考えています」と語った。

 パラグアイ戦でなでしこジャパンのゴールを守り抜いた守護神は、この試合でも1対1の場面で打たれたシュートを止めるなど、いくつかのピンチをカバーし、たしかな存在感を示した。

 浦和が次節、プレシーズンマッチで対戦するのはノジマステラ神奈川相模原だ。

 昨季リーグタイトルを獲得しているだけに、対戦相手のチームは常に高いモチベーションで臨んでくることが予想される。南は、「相手の勢いやプレーに対して、いかに対応していくかが大事です。相手の(狙いの)一歩上をいけるように、仕上げていきたいと思います」と、開幕への展望を語った。試合中の調整力や修正力は、今季の浦和の真価の見せどころとなりそうだ。

 浦和のプレシーズンマッチ第2戦は、4月29日に、相模原ギオンスタジアム(神奈川県)で14時にキックオフとなる。

積極的な仕掛けでチャンスを作った猶本光
積極的な仕掛けでチャンスを作った猶本光写真:森田直樹/アフロスポーツ

遠藤優(左/浦和)と長野風花(仙台)
遠藤優(左/浦和)と長野風花(仙台)

※表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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