帝京平成大学が初の全国制覇!堅守の礎を築いた矢野喬子監督と、エースFW今田紗良の決定力

初優勝した帝京平成大学(最上段右が矢野監督/写真:keimatsubara)

【“盾と矛”の頂上決戦】

 1月6日に味の素フィールド西が丘で行われた、全日本大学女子サッカー選手権大会(通称:インカレ)決勝戦は、“盾(たて)と矛(ほこ)”のせめぎ合いとなった。

 過去に行われた28大会中、24大会で関東代表チームが優勝してきたことからもわかるように、大学女子サッカーでは関東勢が圧倒的な強さを誇ってきた。その中でも帝京平成大は、2016年に就任した矢野喬子監督の下で着実に力をつけ、インカレの関東予選に当たる関東大学女子サッカーリーグ戦(通称:関カレ)では2018年、19年に優勝した強豪である。今大会の強みは、大会無失点の堅守と、全試合でゴールを決めてきたFW今田紗良の決定力だ。

 今年の関カレは4位で3連覇はならず、インカレには関東第4代表として臨んでいたが、組み合わせでは関東3位の東洋大学、大会3連覇を目指す日本体育大学など、強豪が揃う山を勝ち抜いてきた。準決勝では過去2大会敗れていた日体大を2-0で撃破し、初の決勝進出を果たしている。

 一方、静岡産業大学は、日本女子サッカーの黎明期を選手として支え、指導者としても数多くの実績を持つ本田美登里監督が就任1年目でチームを改革。8強止まりだった過去の成績を塗り替え、こちらも初めて決勝に進出した。コンパクトで組織的な守備と、「止める・蹴る」の基本を徹底した“繋ぐサッカー”で、堅守の帝京平成大に対して、「2点取られても3点取り返す打ち合いしたい、と思っていました」(本田監督)と、大胆な勝負を挑んだ。

 しかし、いざ試合が始まると、1点が勝負を分ける緊迫した展開に。帝京平成大は強力な“盾”で、静岡産業大の“矛”を通さず、逆に静岡産業大は帝京平成大のエース・今田に仕事をさせまいと、厳しくプレッシャーをかけた。

乘越令奈(静岡産業大・左)と近藤彩優子(帝京平成大・右)
乘越令奈(静岡産業大・左)と近藤彩優子(帝京平成大・右)

 試合が動いたのは終盤だ。前半、攻撃の糸口を掴めなかった帝京平成大が後半は高い位置でボールを奪えるようになり、49分、51分、54分と立て続けにチャンスを作る。そして、72分。敵陣右サイドで得たフリーキックを粘り強くヘディングで繋ぎ、最後は今田が頭で力強く押し込んだ。

 終盤、帝京平成大は静岡産業大の猛攻を受けたが、センターバックのDF石田菜々海とDF藤原瑞季を中心とした守備は堅く、決定的なシュートを許さず、今田のゴールが決勝点となった。

櫻田彩乃(左)と河野有希(右)
櫻田彩乃(左)と河野有希(右)

 監督就任から5年目にして初の大学日本一に輝いた矢野監督は、悪い流れを立て直し、90分間の中で自分たちの弱さを克服した選手たちについてこう語った。

「私たちのチームは、技術的な課題だけではなく、うまくいかない時のアンガーマネジメントが苦手だったので、流れが悪いまま90分間終わった試合もありました。それが、(この決勝戦は)45分間でしっかり立て直せたことは素晴らしかったなと思います」

 今大会は原則無観客で開催されており、表彰式は熱戦の余韻が残る静かなピッチで行われた。キャプテンの石田菜々海が優勝カップを力強く掲げ、その周りで喜びを弾けさせる選手たちを、矢野監督は優しい眼差しで見つめていた。

【大一番で実った堅守と修正力】

 帝京平成大が頂点を極めた理由の一つは、大会無失点の成績が示すように、持ち味である堅守をどの相手に対しても貫いたことだ。それは、元日本代表DFとして活躍した矢野監督による丁寧な守備の落とし込みの成果でもある。「選手時代から、『失点しなければ負けない』という考えを大事にしてきました」という。5年前の就任時から特に強調してきたのは、相手に対する「アプローチ」だ。

「相手に近づいて、寄せるだけで(アプローチに)いっている、と思っている選手は多いと思います。そうではなく、まずは相手の自由を奪うこと。そこから(コースの)限定が始まって、ボールを奪うことにつながっていく。その意識改革から始めました」

 その教えはしっかりと浸透し、堅守の礎を作った。それでも、今季の関カレは例年よりも失点が多かった(9試合で8失点)。矢野監督は、「気の緩みを出してしまう」ことが失点の要因であると指摘。今大会の準決勝と決勝戦では、「一瞬でも気を抜くな!」と、ベンチから何度も声を響かせていた。

 日体大との準決勝ではセンターバックの二人が脚を攣(つ)るアクシデントに見舞われたが、FWの石田永愛やFW川本和ら、攻撃的なポジションの選手たちがユーティリティ性を発揮し、その穴を埋めた。

「うちの選手は以前から足を攣ることが多いので、『攣ってから言うな』と伝えています。だから、試合中に選手が『徐々に脚にきてます!』という情報をこちらに伝えていました。そこから、もう少し引っ張れる選手もいれば、すぐに交代が必要な選手もいるんですよ」

 できるだけ長くピッチに立ちたいと願う選手の心情を理解した上で、最悪の状況にならないよう対策はしていた。そのためには、選手とスタッフの信頼関係も欠かせない。そうした細やかなコミュニケーションも、矢野監督が大切にしてきたことだ。

 また、今大会で帝京平成大が見せたもう一つの強さが、試合中の「修正力」だった。準決勝のように、指揮官の言葉が流れを変えるきっかけになることもあった。それでも、プレーする選手たちがピッチの中から変えていくことができなければ、厳しい戦いに勝つことはできない。石田菜々海キャプテンは、「関カレでは、勝てる試合も引き分けで終わることがあり、毎試合、選手でミーティングを重ねてきました」と、自分たちの弱さと向き合ってきたことを明かした。決勝戦でその日々が実ったことが、矢野監督は何よりも嬉しそうだった。

「選手たちが自分たちに足りないものを話し合って、どう解決するかを導くことができました。(前半の悪い)流れを持ち直して勝つゲームにできたのは、1年間の彼女たちの成長だと思います」

センターバックの石田菜々海(青)を中心に4試合無失点を貫いた
センターバックの石田菜々海(青)を中心に4試合無失点を貫いた

【自分ではない「誰か」のために】

 MVPには、大会4ゴールを決めた今田紗良が選ばれている。

 この決勝を含む4試合中3試合が1−0で勝っており、そのすべてで決勝点を決めているのだから、満場一致の受賞だろう。だが、今田は受賞について聞かれると少し複雑な表情を見せ、「守備でみんなが頑張ってくれたので、あとは決めるだけでしたから。MVPはみんなで勝ち取ったものです。私がいただけたことはラッキーですが、とにかく感謝です」と、感謝を重ねた。

 今田は、全国屈指の強豪校である静岡の藤枝順心高校時代に全国優勝を成し遂げている。矢野監督の目に止まったのは、シュートを決めた時のガッツポーズだった。ゴールが決まると飛び跳ねて、全身で喜びを表していた。「久々に面白い子がいるな」と、獲得に動いたという。

 明るくて積極的なそのキャラクターは、入部して3年目の今は、チームの個性の一つになっている。試合中は、「もっと自分たちでやっていこう、できるよ!」と、チームを鼓舞し、終盤にゴールを決めると、全力で駆け出して仲間と喜びを爆発させた。

今田紗良
今田紗良

 今田が深く感謝していることがある。大学の実習でチーム練習に出られなかった時に、矢野監督をはじめコーチ陣が1週間、個人練習に付き合ってくれたことだ。そこで自分の強みを再確認し、ゴール前で力んでしまったり、慌ててしまうことがある自分の弱さも見つめ直した。

 矢野監督は選手個々の特徴や課題に沿った指導をしてきたが、今田に対するそれは、大学日本一を獲るため、「エースにもう一皮剥けてほしい」という願いだったのだろう。チームの主軸として3年目を迎えた今田の変化について、矢野監督は準決勝後にこう話していた。

「これまでは熱さだけでゲームに入ってしまうところがありましたが、今は熱いところを持ちながらも、冷静にプレーできるようになりました。マッチアップした相手とガンガン戦って負けていたところで、相手と距離をとって冷静に収めたり、前を向いてプレーすることに取り組んできて、大事なところで勝負できるようになりました」

 自分を信じ、期待してくれる監督や仲間たちに勝利を届けたいという思いが、今田の心に火をつけた。そして、その思いは味方だけでなく、自分たちが戦ってきたライバルたちにも向けられていた。

「(前回女王の)日体大に勝ったことを無駄にしたくないと思いましたし、関東はインカレに出場するだけでも大変な激戦区なので、その誇りを持って戦いました。怪我をした選手や試合に出られない選手たちのためにも絶対に勝ちたかったし、きょんさん(矢野監督の愛称)やスタッフのためにも優勝したかった。誰かのために頑張ることは、大きなことだなと思いました」

 コロナ禍で、矢野監督の胴上げはできなかった。4年生になる来季は関カレとインカレの2冠を達成し、その手で監督を宙に舞わせたいと、今田は胸に誓っている。

来季は連覇を目指す
来季は連覇を目指す

【女子サッカー王国復活へ】

 敗れた静岡産業大の本田監督が試合後に口にしたのは、自分たちのサッカーを最後まで表現しきれなかったことへの悔しさだった。

「日本一を取るというより、自分たちのサッカーをちゃんとやろう、それができたら優勝がついてくるだろうし、やれなかったらついてこない。選手たちにミーティングでそう話していたのですが、その通りでした。繋げなかったし、やろうとしたことをやれなかったから、優勝がついてきませんでした」

本田美登里監督
本田美登里監督

 徹底的にパスを繋いでゴールを目指すスタイルは、今大会で際立っていた。パス成功本数は出場チーム中でもトップクラスだろう。この決勝でも前半、ボールを支配したが、効果的な形でフィニッシュに繋げることができず、後半は帝京平成大のプレッシャーをパスでいなすことができなかった。

 それでも、初の決勝で得たものは小さくない。キャプテンのMF乗越令奈は、「初めて決勝の舞台まで来て、初めてにしては手応えを感じた部分もありました。負けてしまいましたが、後輩たちに頑張ってもらいたいですし、ここまでやれる、というのがわかったことはプラスだと思います」と、次の世代への期待を込めた。

 乗越は卒業後、本田監督が指揮するなでしこリーグ(2部)の静岡SSUアスレジーナで社会人選手としてプレーすることが決まっている。アスレジーナは社会人と学生で構成されたチームで、静岡産業大でプレーする選手もいる。今季、アスレジーナはテクニカルアドバイザーとして就任した風間八宏氏から、「止める」「蹴る」の理論を学び、本田監督はその基本を徹底しながら、繋ぐスタイルに磨きをかけてきた。最終的な目標は、「90分間ボールを動かして、相手に渡さないサッカー」(本田監督)をすること。静岡産業大もアスレジーナも、その同じ目標を共有している。

 元祖サッカー王国・静岡で魅力的なチームを作り、「静岡に女子サッカーの火をつける」ことを目指す本田監督の変革は着実に進んでいる。そして、静岡産業大学の挑戦も、2年目に突入する。

準優勝の静岡産業大
準優勝の静岡産業大

※文中の写真はすべて筆者撮影