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新戦力の活躍でオプションが増えたアルビレックス新潟レディース。後半戦の快進撃なるか

松原渓スポーツジャーナリスト
アグレッシブなサッカーで上位を狙う

【新戦力が躍動】

 各地で熱戦が繰り広げられているなでしこリーグは、11試合を終えて、残り7試合となった。10月1日現在、首位の浦和レッズレディースが頭一つ抜け出し、昨季女王の日テレ・東京ヴェルディベレーザと2部から上がってきたセレッソ大阪堺レディースが後を追う。この上位3チームには、3つの共通点がある。育成力があること、同じ監督の下での継続性、その中で個が成長していることだ。一方、各チームの代表クラスや有力な高卒ルーキーを集めてタレント力で勝負してきたINAC神戸レオネッサは苦しんでいる。タイトル奪還を見据えて今季は例年以上の大型補強を敢行したが、ゲルト・エンゲルス新監督の下で新たなスタイル構築に時間を要しており、10月2日現在は2連敗で4位に順位を落としている。

 そして、緩やかに成績を上げているのが、5位のアルビレックス新潟レディースだ。4節でベレーザに引き分け、8節でINACに勝利するなど、上位チームにも積極的な戦いぶりが光る。2008年〜12年以来2度目の指揮を執る奥山達之監督は、チームのゼネラルマネージャーも兼ねており、今季は各ポジションを補強。高さやスピードのある有望な若手選手が前線と最終ラインに加わった。「ゴールにアグレッシブに向かうサッカー」というコンセプトは昨年から変わらないものの、そのフレッシュな顔ぶれを生かしたダイナミックな攻撃が、チームの新たな魅力になりつつある。

 中盤でゲームをコントロールするのは、大黒柱のMF上尾野辺めぐみと、海外経験もあるMF川村優理の2人。後方は代表GKでもある平尾知佳、最終ラインはDF北川ひかる、DFイ・ヒョギョン、DF三浦紗津紀、DF松原志歩の4人バックが並ぶ。GKと4バックを合わせた守備陣の平均年齢は23歳と、リーグ全体の平均でもC大阪堺(約19歳)に次いで若い。そして、前線では日体大FIELDS横浜(現2部)から加入したFW児野楓香が、開幕から8試合で6ゴール、決定率6割という驚異的な数字を叩き出し、チームに活力を与えた。また、ドリブルに特徴のあるMF滝川結女、テクニックのある大学生ルーキーのMF園田悠奈も、新戦力ながらレギュラーとして活躍している。

 9月27日にホームの十日町市の当間(あてま)多目的グラウンドで行われた第11節では、愛媛FCレディースに2-0で勝利。この試合でもニューヒロインが生まれた。

 前節、マイナビベガルタ仙台レディース戦で今季2試合目となる無得点での敗戦を喫し、奥山監督は前線に手を加えた。フル出場を続けてきた上尾野辺をコンディション調整のためにこの試合では外し、2トップには負傷で離脱中の児野と入れ替わるようにして、直近2試合で先発していたMF園田瑞貴と、今季2部のニッパツ横浜FCシーガルズから加入したFW長沢菜月を抜擢。右サイドハーフでプレーすることが多かったMF千野七海を左サイドで起用し、テクニックのあるMF山谷瑠香を右サイドで初先発させた。

 

 十日町市は、同じ新潟県内でも新潟市内からは100km以上離れており、グラウンドへのアクセスは容易ではないが、チームカラーのオレンジを纏った新潟サポーターがピッチ脇の石段のスタンドを埋めていた。ピッチは年代別代表やJリーグクラブのキャンプなどでも使用される国内最高レベルの天然芝。だが、前半は土砂降りの中で水を含んで重くなり、互いにボールコントロールが乱れる場面が多く、試合は膠着した。

 試合が動いたのは、雨雲が切れて晴れ間がのぞいた後半だ。深い位置からプレスをかけて勝負を仕掛けた愛媛に対し、新潟は170cmの長身ストライカー、長沢をターゲットにシンプルな攻撃で攻めた。57分、GK平尾知佳のスローインを受けたボランチの園田(悠)が強烈なサイドチェンジで左サイドの裏のスペースに展開すると、園田(瑞)がシンプルなクロスを入れる。これをファーサイドで千野が一度は相手DFに跳ね返されたものの粘り強く繋ぎ、最後は長沢が蹴り込んで先制。

 このゴールで勢いに乗った新潟は、その3分後に2点目を決めてみせる。右コーナーキックの場面で、愛媛のタイトなマンツーマンディフェンスをかいくぐってニアに走った北川が頭で中に折り返すと、ファーサイドに流れてきたボールを、園田(瑞)がコンパクトな右トラップから左足を一閃。密着マークをものともしない反射的な身のこなしと華麗なテクニックでゴールネットを揺らし、新潟が試合の主導権を握った。80分にも、右サイドのゴールライン際で長沢が相手をかわして中に折り返し、園田(瑞)が左足で決定的なシュートを放つ場面があったが、これは愛媛のGK吉原南美が鋭い反応で掻き出した。結果的にそれ以上のゴールは生まれなかったが、シュート1本にとどまった前半の鬱憤を晴らすように後半は9本を放ち、雨上がりのスタンドを沸かせた。

 89分には、ケガで長期離脱していたDF小島美玖が2年2カ月ぶりに復帰。サポーターの大拍手の中でピッチに立ち、勝利に花を添えた。

2点目を決めた園田瑞貴
2点目を決めた園田瑞貴

【試合を落ち着かせた司令塔】

 試合後のオンライン取材で、奥山監督は「もう少しテンポよくボールを動かして、相手を崩して点を取れればという理想がありました」と、イメージ通りとはいかなかったことを明かした。だが、この試合で初めて2トップを組んだ長沢と園田(瑞)が結果を残したことについて問われると、少し表情が和らいだ。

「(長沢)菜月は力強いシュートや厳しいところに突っ込んでいくメンタリティやパワーを持っている選手なので、チャンスがあれば決めると思っていました。そういう意味では、2人(長沢と園田瑞)が結果を残したことはすごく良かった。出る選手によって(チームの)プレースタイルが変わってくるので、オプションが増えたことはすごく大きいと思います」

長沢菜月
長沢菜月

 地元である新潟に移籍後、初ゴールを決めた感想を聞かれた長沢は、「とにかく嬉しいです!」と、喜びを弾けさせた。前日に先発で出られそうな雰囲気を感じ、嬉しさと裏腹に緊張していたという。だが、ピッチではしっかりと自分のプレーに集中できた。前半にチャンスを作れなかったこと、得意のヘディングで決められそうなチャンスを逃したことを悔しそうに振り返りつつ、「もっとゴールに近いところでプレーしてシュートを狙っていかなければいけないし、ポストプレーなどで起点になれるプレーも増やせるようにしていきたい」と話し、厳しい競争の中で生き残っていく覚悟をにじませた。

 

 また、先発した直近の3試合で2ゴールを挙げている園田(瑞)の決定力も光る。フットサル女子日本代表選出歴もあり、左足のテクニックと決定機での冷静さが魅力だ。これまでにも、ループシュートや角度のない位置から逆サイドネットに突き刺すようなゴールなど、鮮やかなゴールを数多く決めてきた。 

「シュート練習ではクロスからのシュートや、受けた時に相手をひとりかわして打つイメージを持って練習しています。決めきるところはもっと意識していきたいですね」

 今季は前線の組み合わせが変化していることもあり、周囲とのコンビネーションは特に意識している。この試合では長沢のキープ力を生かしつつ、「どちらかが1.5列目に入る縦関係を意識して、2人でうまく崩せるように意識していました」と振り返った。

 60分の2点目は、自らの仕掛けで得たコーナーキックの流れだった。新潟は今季、セットプレーからのゴールが少なく、その課題を一つクリアできたこともポジティブな要素だ。

 中盤では、ポジションに囚われない動きで流動性を生み出したMF園田(悠)の堂々としたプレーも印象に残ったが、やはりその傍でゲームをコントロールする背番号5の存在感が突出していた。

川村優理
川村優理

 新潟市出身の川村優理は、中学生の時に創設されたアルビレックス新潟レディースに入団し、3年生の時には背番号10を背負った。2012年以降は、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースや仙台などでも主力としてプレー。15年のカナダ女子W杯メンバーにも選ばれている。17年から18年にかけてアメリカ女子プロリーグ(NWSL)のノースカロライナ・カレッジでプレーし、同シーズン、クラブはNWSLで優勝。だが、川村自身はシーズン中に右膝前十字靭帯断裂と半月板損傷の大ケガを負って長期離脱。復帰後は左膝を痛めて再び離脱し、日本での手術を経て、19年4月に新潟で復帰を果たした。球際の強さを生かしたボール奪取や、168cmの長身で視線を高く保ち、長い脚でボールを力強く前に運ぶプレーには、どこか日本人離れした雰囲気がある。

 08年から12年まで5年間、川村を厳しく指導した奥山監督も、「申し分ないテクニックや経験を持っている選手」と、絶大な信頼を寄せている。昨年はキャプテンを固定していなかったが、今季は3節から川村がキャプテンマークを巻いている。

 新戦力の活躍で収穫を手にした新潟は、今週末の10月4日にアウェーのJ-GREEN堺で3位のC大阪堺と対戦する。前半戦、ホームで0-1と敗れた相手に、どこまで食い下がれるか。上尾野辺や児野が戻ってくれば、中盤から前線がさらに強固になることは間違いない。そして、勝てば3位まで浮上する可能性がある。

 今季はコロナ禍でリーグ戦が短期集中開催となっているが、夏場の前半戦は各チームの個性がぶつかり合った中で、1点差以内の接戦が多く、昨季3強のベレーザやINACが連敗するなどの思わぬ波乱もあった。後半戦は互いの手の内がわかった中で、各チームが互いの「矛」と「盾」をどのように変化させていくのか、その戦術的な駆け引きも楽しみたい。

※写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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