ジェフレディースのMF山崎円美が開いた新境地。新生チームの得点力アップを支える切り札に

2つのポジションでプレーし、前後半のギアチェンジを可能にしている(写真は開幕戦)(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

【新生ジェフの変化】

 なでしこリーグは開幕から2試合が終了。昨季、上位3強だった日テレ・東京ヴェルディベレーザ、浦和レッズレディース、INAC神戸レオネッサが2連勝を飾ったほか、昨季2部を勝ち抜いて昇格したセレッソ大阪堺レディースがホーム2連戦をものにして好スタートを切った。

 

 一方、上位陣に次ぐ第2グループでは、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースが1勝1敗で10チーム中5位につけている。ここ数年、5位から7位が定位置となっている千葉にとって理想的な開幕ダッシュとはいかなかったものの、試合内容に目を向けると、昨年から明らかな変化が見られる。

 

 昨季までゴール数は1試合平均1点前後で、勝つ試合は1点を守り切る展開も少なくなかったが、今季は開幕から2試合ですでに5得点している。失点数も「5」と多いのだが、そのうち4失点は浦和との開幕戦で50分までに喫したものだ。シーズンのスタートとしてはかなり厳しいものになったが、後半は運動量で上回り、2点を返した。

 今季から指揮を執る猿澤真治新監督はこの試合後、前半に硬さが見られて狙い通りの試合運びができなかったことや、セットプレーから失点を重ねたことを課題に挙げながらも、「後半は声をかけてしっかり自分たちのやりたいサッカーが出来ました」(クラブ公式HP)と、ポジティブなコメントを残している。

 そして、ノジマステラ神奈川相模原と対戦した7月26日の第2節では浦和戦の課題を修正し、3-1で勝利した。

 千葉は、今季オフに両サイドバックのDF上野紗稀とDF若林美里、ボランチのMF西川彩華が移籍。長年チームを支えてきた主軸である3選手が抜けた影響は大きいのではないかと予想していたが、猿澤監督はそうしたマイナスを感じさせないチーム作りを着々と進めているようだ。チームに攻守の新たな指針を与え、経験や年齢にとらわれないポジション争いを促しながらチームを活性化している。

 特に、攻撃面では好変化が見られる。ボール保持者を周りの選手が競うように追い越し、クロスの場面では複数の選手がゴール前に入っていくなど、局面における共通認識とハードワークを徹底。すでに4人の選手がゴールを決めていることも攻撃の多彩さを裏付ける。

 また、猿澤監督は2試合とも、ハーフタイムから後半にかけて4つの交代枠を使った(今季は交代枠が3人から5人に拡大された)。それに伴って選手の配置を変え、戦い方も変化させている。

 個人に目を向けると、司令塔のFW成宮唯が攻撃の牽引役となり2ゴール1アシストと好調だ。また、ドイツのBVクロッペンブルクから今季加入したボランチのMF岸川奈津希が空中戦の強さと長短のパスを使った展開力で中盤を支えている。下部組織出身で去年まではフォワードだった小澤寛がサイドバックにコンバートされたことには驚いたが、チーム屈指のスピードを生かした守備力の高さを見せており、今後に期待が持てる。

 そして、「走る・闘う」をモットーとする千葉のハードワークを体現し、さらなる進化を予感させるのがMF山崎円美(やまざき・まるみ)だ。

【進化を予感させるアタッカー】

 山崎は、なでしこリーグで13年目を迎える経験豊富なアタッカーだ。そのプレーからは、“熱さ”がほとばしる。

 矢のようなチェイシングを見せ、ボールに食らいつくように1対1の勝負を挑んでいく。ゴール前では大きく手を挙げてボールを呼び込み、シュートを外すと天を仰いで悔しがる。そして、味方のゴールを自分のことのように喜ぶ。

 フォアザチームが徹底したプレーもさることながら、その豊かな感情表現にも引き込まれる。

 山崎は高校卒業後にアルビレックス新潟レディースで7シーズンを過ごし、2013年にはなでしこジャパンにも選出されている。その後、AC長野パルセイロ・レディースで約2シーズンプレーし、18年に千葉に加入した。

 千葉への移籍を決断した最大の理由は、対戦相手として苦しめられた「粘り強い走り」や、「気持ちがこもったプレー」に魅力を感じたからだ。そのチームカラーに、山崎のプレースタイルはピタリと合致した。

 今季は4年目のシーズンとなる。

 シュート数は2試合でチーム最多の7本を記録。だが、まだ得点はしていない。「シュートを決めるために一番大事なことは気持ちだと思っています。強い気持ちは常に持っているんですけどね」と、山崎は苦笑しながら悔しさをにじませた。シュートは枠を捉えたものが多く、結果的にそのこぼれ球を味方が決めたり、アシストにつながるパスも成功させている。

 この2試合は、前半に左サイドハーフでプレーし、後半は交代の流れで途中からワントップに入った。ポストプレーを得意とするFW大滝麻未がターゲットになる前半と、山崎がトップに入る終盤の時間帯では、攻守のリズムが変化する。

 前半は周囲とのコンビネーションやドリブルを使った突破を試み、後半はディフェンダーと駆け引きしながら、背後のスペースで味方のパスを引き出すーーポジションによって柔軟な対応を見せ、山崎の新たな魅力が引き出されている。

「猿澤監督はボールの回し方や点の取り方、守り方がはっきりしているのでやりやすいです。選手それぞれの強みが生きる配置を考えてくださっているので、自分の特徴を出しやすくなりました。試合の中でポジションや役割が変わるのはチームとして準備してきたことですし、(サイドでもFWでも)どちらのポジションでも楽しくプレーできています」

 ノジマ戦では70分ごろからトップに入ったが、チームはリードを守ろうとはせず、山崎はさらに一段ギアを上げたような走りでゴールを目指した。湿度88%、気温は25℃という蒸し暑いコンディションだったが、試合終了の笛が鳴ってもまだ走れそうな余裕すら見せた。これまでの山崎よりさらにパワーアップしたと感じさせる姿だった。

 引き締まった筋肉質な身体が物語るように、山崎はオフの日も暇さえあれば筋トレをするほどの“トレーニング好き”である。コロナ禍で4月から2カ月間、練習ができない自粛期間があったが、その影響はまったくなかったのだろうか。山崎は3月からの4カ月間の変化をこう明かした。

「(3月の)開幕が延期されて試合がなくなった時に、『試合がないとつまらないし、練習をやる意味もないな』と、気持ちが落ち込んで何もしない時期もありました。ただ、『時間があるので、有効に使って何か成長できることがないかな』と思ったことがきっかけで、ストレッチや食事、睡眠や体のケアなどにも徹底して気を遣う生活をするようになったんです。それから調子が良くなって、疲れにくくなりました。ノジマ戦は追加点を決めたくて、『まだ(試合が)終わるな!』と思っていました(笑)」

 これまでは好きなトレーニングだけをしていたが、ストレッチや食事や睡眠などの生活の基本を丁寧に見直し、改善した。その効果を試合のなかで実感できたことは大きい。仕事と練習を両立させる中で自分の時間は限られているが、効果的な体の使い方や、速く走る方法など、パフォーマンスを向上させるための知識欲は旺盛だ。「今、毎日が充実しています」。そう語る山崎の表情は生き生きとしている。

 次節は、8月2日(日)に、INACとアウェーで対戦する。過去2年間のリーグ戦対戦成績は3分3敗で、千葉はINACに久しく勝てていない。敗れた試合はすべて0-1だった。

 INACは今季、ゲルト・エンゲルス新監督を迎え、各チームから主力級の選手を補強した。前線には4年連続リーグ得点王のFW田中美南が加わり、これまで以上に手強い相手になっていることは間違いない。

 だが、山崎は恐れていない。

「お互いに監督が代わって初めての対戦なので、すごく楽しみです。INACは個々が上手い選手ばかりですが、ジェフも得点力が上がっているし、チームとしてやってきたことをしっかり発揮できれば勝てる可能性はあると思います。上位チームとの対戦では一つのチャンスを決めるかどうかで勝敗が決まるものですし、チームのためにゴールを決めたいですね」

 

 7月中はリモートマッチとして行われていたなでしこリーグは、8月からいよいよ有観客試合となる。リーグ最多観客数を誇るINACのノエビアスタジアム神戸でのホーム初戦が、千葉にとって完全アウェーの雰囲気になるであろうことは想像に難くない。

 コロナ禍での生活改善や猿澤監督の指導や起用によって新境地を開いた山崎は、逆境でチームを導くことができるだろうか? そして、千葉は、昨季1点も奪えなかったINACのゴールネットを揺らすことができるかーー。

 それは、新生チームの現在地を知るバロメーターになる。