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自粛中も一体感は健在。C大阪堺レディース、なでしこリーグ1部再挑戦に向けオンラインの取り組みも光る

松原渓スポーツジャーナリスト
夏場の試合で粘り強い戦いが光る。17年と19年にリーグカップ2部で優勝した(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

【夏場の試合でスタミナが武器に】

 なでしこリーグは、5月25日にすべての都道府県で緊急事態宣言が解除されたことを受け、翌26日に各チームへの活動自粛要請を解除した。なでしこリーグは、順調にいけば7月に開幕する可能性がある。

 全18節を予定通りに開催するためには、夏場の連戦が避けられない。炎天下のデーゲームでは、暑さとの戦いも厳しいものになりそうだ。

 昨年、2部で2位になり、1部・2部入替戦を制して1年ぶりに1部に戻ってきたセレッソ大阪堺レディース。26名の平均年齢が19.5歳という若いチームだが、その強さを支えた一つが豊富なスタミナだ。

 昨年は18試合で38得点と、2部トップの得点数を記録。そのうち、半分以上の21得点が後半に生まれている。

 昨年8月3日、35度を超える猛暑の中で行われたリーグカップ(2部)決勝では、後半に10本ものシュートを放ち、逆転勝利で優勝を果たした。相手の体力が落ちてくる後半に、粘り強い戦いで追い上げるーー走り込みで培われた走力と若さがもたらす回復力は、今季予想される夏場の連戦で強力な武器になるだろう。

 竹花友也監督も、「夏場の試合は苦手意識がないので、心配はしていません」と、自信を見せる。

 C大阪堺は下部組織にあたるチャレンジリーグのC大阪堺ガールズ出身の選手が多く、移籍などによる選手の入れ替わりが少ない。そして、生え抜きの選手たちによるコンビネーションは、年々高まっている。

 他のチームのように経験のあるベテラン選手はいない。だが、年代別代表で実績を持つ選手が多く、代表選出歴を持つFW宝田沙織やMF林穂之香、DF北村菜々美、なでしこチャレンジ(*)選出歴があるMF脇阪麗奈らがいる。宝田はなでしこジャパンでも昨夏のフランス女子W杯では2部から唯一メンバーに選出され、大きな注目を集めた。

(*)なでしこジャパンで即戦力になれる選手の発掘を目的としたキャンプ。

【オンラインで一体感を大切に】

 4月7日の緊急事態宣言を受けて、各チームに活動自粛要請が出されてから、C大阪堺は定期的にオンラインミーティングを重ねてきたという。

「週に3回のオンラインミーティングを行っています。戦術的なミーティングですが、半分以上は1週間の出来事や、普段はやらないことをするように勧めているので、新しくチャレンジしていることをみんなと話しています。加えて週2日、フィジカルコーチによるオンラインでのトレーニングを1時間こなしています。各選手に対しては、個人別にアプローチ出来るシートを作成して、そのシートをもとに面談をしながら一緒に課題を克服できるように取り組んできました。メンタル面には特に気を配り、オンラインで顔を見ながら話すようにしていますが、何かあればすぐに連絡するように伝えています」

 他にも、SNS講習会や、柿谷曜一朗選手をはじめとするセレッソ大阪のトップチーム(男子)の選手との交流(名称:「夢セレ」)をオンラインで行うなどの取り組みもしていたようだ(「夢セレ」の模様はセレッソ大阪公式YouTubeチャンネルで後日公開予定)。

 竹花監督は2013年から6年間、C大阪堺レディースで指揮を執り、3部に当たるチャレンジリーグから1部昇格に至るチームの礎を作った。

 初めて1部に挑戦した2018年は、2部とは異なるプレー強度や判断スピードに苦しんだが、試合を重ねる中で、1部での戦い方を貪欲に学んでいった。その中で、竹花監督は「いずれ、1部で常勝軍団になれるような底上げも必要だと考えて選手を起用しています」と、ほとんどの試合で3枠の交代枠を使い切った。

2017年にも1部昇格を果たした。竹花監督は左端(写真:kei matsubara)
2017年にも1部昇格を果たした。竹花監督は左端(写真:kei matsubara)

 そして今季、1年でチームを1部に復帰させた岡本三代前監督の後を受け、再び指揮を執ることになった。

 

 選手たち全員にとっては父親のような存在だ。これまでも、選手・スタッフを自宅に招いてBBQなどをするなど、チームの一体感を高めてきたという。

「全員が集まることができた時のために、BBQの準備をしたり、屋上でベランピング(*2)しています」と、コロナ禍が収束した時に向けて楽しい催しを企画しているようだ。

 1部で2度目の挑戦となる今季は、18年からさらに成長した姿を見せるつもりだ。

「昨年は1部に上がるための戦いの中で、戦術面ではアグレッシブにいけない部分が見られました。今季は本来のアグレッシブな戦いが出来るようにトライしていこうと思います。1部でも自分たちのサッカーをして、上位に入ることを目指します」

(*2)「ベランダ」と「グランピング」を掛け合わせた造語。自宅のベランダでできるキャンプやアウトドアのこと。

【ハードワークを支える闘将】

 17年からキャプテンマークを巻いてきたボランチの林穂之香は、今年も中盤で大きな存在感を放つだろう。

 157cmと小柄だが、予測力を生かした力強いボール奪取やパワフルなミドルシュートで、試合の流れを引き寄せる。重要な試合で勝利をもたらすゴールも多い。昨年はリーグカップ決勝や、1部・2部入替戦で決勝点を決めた。

 年代別代表での活躍も強く印象に残る。2018年夏のU-20女子W杯フランス大会では、世界一になったヤングなでしこの中盤を、持ち前の高い戦術眼とハードワークで支えた。初戦のアメリカ戦では、ゴールまで30m以上はあろうかという距離から決勝点を叩き込み、その後に強豪国を次々に撃破する快進撃の端緒を作っている。

 今季、リーグ開幕延期が続いていた中で、「より一層チームメートとサッカーがしたい、試合がしたいという気持ちが強くなりました」と、林は試合への強い思いを明かしている。

 チームメートとはオンラインのミーティングで顔を合わせる機会もあり、コミュニケーションは取れていたようだ。同志社大学スポーツ健康科学部に在学中だが、自主トレーニングにも工夫の跡が窺える。

「1人でトレーニングするので、基礎的なことをやり直しています。苦手な動きの矯正を重点的に行っていて、たとえば、ランニングフォームや筋トレの動きなどを動画で撮影し、自分で研究して正しいフォームで行うようにしています。予定が詰まっていない時は、『動きたい!』とか『今からやりたい!』と思った時にトレーニングを行うようにして、メリハリを付けていました」

 今季はキャプテンとしてプレーして4年目になる。オフザピッチではチームメートとふざけるなどお茶目な一面も見せるが、ピッチでは凛とした静かな佇まいと頭脳的なプレーが印象的で、背番号10と腕章が、その背中と腕にすっかり馴染んでいる。

年代別でも活躍してきた林(写真:kei matsubara)
年代別でも活躍してきた林(写真:kei matsubara)

「もうキャプテン4年目に突入するんだなと思うと、驚きがあります。難しい状況ですが、うまく同じ方向を向いてチームで進んでいきたいと思っています」

 2部での厳しい戦いを乗り越えて、再び1部への挑戦権を得たC大阪堺。桜色のユニフォームに身を包み、2年前から一回り成長した選手たちは、どんな戦いを見せてくれるだろうか。

(※)文中のインタビューは、質問にメールで回答して頂く形で行いました。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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