四国からなでしこリーグ1部初参戦!「ボールを大切にする」サッカーで、“愛媛旋風”は巻き起こるか?

拮抗した2部を勝ち抜き、四国から1部に初参戦する(写真提供:愛媛FCレディース)

【チームの魅力を発信】

 5月25日、新型コロナウイルス感染症の影響で発出されていた緊急事態宣言が全国的に解除された。

 県境をまたぐ移動にはまだ制限はあるが、6月27日にJ2の再開とJ3の開幕が決定、J1の再開は7月4日に決定し、スポーツも徐々に再開の流れにある。3月21日に予定されていた開幕が延期となっているなでしこリーグも、近日中に開幕の見通しが立ちそうだ。

 今季なでしこリーグ1部に初参戦する愛媛FCレディースのキャプテン、FW阿久根真奈は、試合ができないこの期間中に何ができるかを考え、こんなことにも挑戦した。

「ピッチでサッカーをしている私たちを楽しみにしてくださっていた皆さんに、その姿をお見せできないので、みんなの元気な表情をSNSを通じて頻繁に発信できるように、メンバーで企画し合いながらやってきました」

 愛媛の公式インスタグラムやTwitter、ブログなどを通じて様々な情報を発信。阿久根はクラブの公式インスタグラムで選手をゲストに招いてトークをする「あくねのへや」というコーナーを主催し、チームメートの素顔を楽しく伝えてきた。選手同士の屈託のない関係性が伝わり、ピッチとは異なる意外な素顔も見られて、サポーターにも好評のようだ。

 愛媛は、2011年に環太平洋大学短期大学部のOGを中心に結成された。前監督で、現在はJ2で戦う男子トップチームを率いる川井健太監督が、同大学女子サッカー部の監督として指導していた頃の教え子も多い。

 その中で、今年で9年目の阿久根のように、在籍年数が5年や7年、11年といった長い選手もいれば、新加入選手も10名いる。そうした立場の違いを越えて、「馴染みやすさや雰囲気の良さはこのチームの良さだと思います」と阿久根は言う。

【観客に元気や勇気を】

 男子トップチームと足並みを揃え、4月7日の活動自粛以降はチーム内の選手同士もなるべく交わらないようにすることで、新型コロナウイルスに「感染しない」、「させない」ことを優先してきた。

 レディースは社会人選手の多くがスポンサー企業などに勤務しているため、平時は練習を夜間に行っている。そのため、活動自粛中、選手たちは各自の勤務状況に合わせて自主トレーニングに励んでいたという。阿久根は自身の状況をこう説明してくれた。

「私は昨年の夏に前十字靭帯を断裂したので、今はまだリハビリ期間中です。トレーナーさんからいただいたメニューを組み合わせて取り組んだり、自宅では筋トレや体幹を中心にして、外に出る時は階段を走りに行くこともあります。仕事は在宅勤務になっているので、トレーニング時間がいつもよりも確保できてありがたいですね。6月のチーム活動開始時には合流できる状態までにはきています」

 ピッチ内では相手ディフェンダーとの駆け引きや、声でチームを鼓舞するリーダーシップに定評がある。だが、ケガをしてからは、仲間たちを外から献身的にサポートしてきた。

 開幕が現実味を帯びてきた中、1部での初挑戦で何を楽しみにしているか聞くと、こんな答えが返ってきた。

「日本女子サッカーのトップリーグですから、素晴らしい選手がたくさんいるし、その相手と愛媛県で試合ができることが楽しみですね。試合を観に来てくださる方々に少しでも元気や勇気を与えられるような試合がしたいです。1部のハイレベルなディフェンダーと対戦したときにボールを収められるかどうかでチームの流れが変わると思うので、対戦するのがすごく楽しみです」

 県の特産品であるみかんをモチーフとした鮮やかなオレンジのユニフォームは、緑の芝によく映える。そして、愛媛のサッカーは、2011年のチーム創設以来こだわってきたスタイルで観客を魅了してきた。

四国から女子サッカーを盛り上げる(写真提供:愛媛FCレディース)
四国から女子サッカーを盛り上げる(写真提供:愛媛FCレディース)

【1部への挑戦】

 愛媛は昨年、2部で優勝し、自動昇格の権利を掴んだ。最後は勝ち点3差に4チームが並ぶ厳しい戦いだった。その中で安定した強さを支えてきたのが、「ボールを大切にする」という明確なコンセプトと、それを支える確かな技術だ。筆者はまだ生でその試合を見たことがないのだが、連動したポジショニングから狙いを持って繰り出される多彩な攻撃は、中継動画の画面越しでも躍動感が伝わってきた。

 昨年の2部は、ポゼッションを重視するチームや、サイドアタックに長けたチーム、カウンターに長けたチームなど様々だったが、一貫したスタイルで戦う愛媛のサッカースタイルは際立っていた。

 チームを率いて3年目になる赤井秀一監督は、1部でもそのスタイルを通用させたいと考えている。

「自分たちがボールを持って試合を進めることは、このチームが今まで積み上げてきた一番大事な幹の部分です。ボールを持つことがサッカーの一番の楽しみだと思いますし、そのスタイルが、1部の舞台でもある程度通用する部分はあるのではないかと思っています。その質をもっと向上させられるように、開幕に向けてしっかり準備していきます」

 ボールを保持し続けるためには、組織に加えて個の力も必要だ。前線には、阿久根に加え、パワーとスピードに長けたFW大矢歩や、昨季、2部新人賞を獲得したMF山口千尋、そして昨年2部MVPのFW上野真実らがいる。上野は今年3月にアメリカで行われたシービリーブスカップにも選出されている。なでしこジャパンの高倉麻子監督も「彼女はボールが収まる」と、その能力を高く評価していた。そうした個の力を生かす組織力は、どこからきているのか。

 それは、創設時からのメンバーであるMF山城見友希を筆頭に、チームが大切にしている雰囲気に起因している部分もあるだろう。赤井監督は言う。

「グループで固まることはないですが、オンもオフもまとまりがあります。厳しくするところはお互いに言い合える雰囲気を選手の中で作ってくれています。それがチームの伝統として引き継がれてきているので、僕が何かを言わなくても自分たちでやれるのはチームの強みだと思いますね」

 自粛期間中、選手たちには自主トレーニング用の参考メニューを提供しているそうだが、前述したような勤務状況の差もあるため、各自に委ねた。赤井監督は熱さを持った監督だと聞く。その言葉の端々からは、チームへの厚い信頼が感じられる。

赤井秀一監督(写真提供:愛媛FCレディース)
赤井秀一監督(写真提供:愛媛FCレディース)

 今季、目標とする順位を明確には決めていないという。

「結果はやってみないと分からないし、順位はついてくるものですから」

 それは、自分たちのスタイルへの強烈なこだわりの裏返しとも受け取れる。

「自分たちが持っているものを自信を持って出して、一戦一戦を全力で戦います。うちはスタメンが決まっているわけでもなく、毎試合調子の良い選手を使うスタイルでやってきました。その中でお互いが切磋琢磨しながら、どんな選手が出ても戦えるようにしていきたい。1部の舞台で自分たちがどれだけできるか、思い切り楽しんでサッカーをしてほしいなと思っています」

 昇格1年目のチームが波に乗るためには、スタートの勢いが重要になる。そのために、練習が再開してから自分たちの“感覚”を取り戻し、リーグ開幕までにどれだけ研ぎ澄ますことができるかがカギになりそうだ。

 愛媛は2020年のなでしこリーグに、どんな”旋風“を巻き起こしてくれるだろうか。

(※)インタビューは5月下旬に電話取材の形で行いました。