「練習再開後からが勝負」。タイトル獲得を目指すレッズレディース、2020年本格始動に向けた現在地

戦力をアップさせ、昨季から質の向上を目指す(写真提供:浦和レッズ)

【練習再開へ】

 なでしこリーグは、5月25日にすべての都道府県で緊急事態宣言が解除されたことを受け、翌26日に各チームへの活動自粛要請を解除した。

 浦和レッズレディースは上記の発表を受けて、5月27日からの練習再開を決定している。

 昨年、前年度の4位から2位へと躍進し、皇后杯でも準優勝した浦和は、約2カ月間の活動自粛期間をどのように過ごしてきたのだろうか。

 代表歴を持つ選手が多く、充実した戦力を抱えながら、2014年以来タイトルから遠ざかっている。しかし、機は熟しつつある。

 日テレ・ベレーザ(現日テレ・東京ヴェルディベレーザ)でリーグ3連覇を成し遂げた森栄次監督を招聘し、昨季はボールを持つ時間を長くして試合の主導権を握るスタイルを短期間で確立した。森監督は、アタッカーだったDF清家貴子をサイドバックにコンバートしてサイド攻撃を強化し、高い技術を持つMF水谷有希を攻撃の重要なピースとしてフィットさせるなど、各選手の特長を組み合わせて多彩なフィニッシュワークを引き出した。

 その結果、得点力は前年度比で約1.7倍に向上。安定した強さでシーズン終盤の10月まで首位を堅持したが、重要な試合をいくつか落とし、優勝にはあと一歩及ばなかった。リーグカップはベスト4、皇后杯は2位と、いずれも健闘しながら涙を飲んだ。

 キャプテンのMF柴田華絵は、「去年は結局、一つもタイトルが取れませんでした。今年は、森監督になって取り組んできたことの質を高めていきたいと思います」と、タイトルへの強い思いを言葉に込めた。

 今季はMF猶本光、DF上野紗稀らが復帰したほか、ユースから2人が昇格。選手層は厚みを増しており、昨季以上の成績が期待される。

【勝負師】

 選手の中には学生も多いが、仕事を持っている社会人選手も少なくない。勤務環境や時間はそれぞれの勤め先で異なり、緊急事態宣言が発出されて以降は、各職場ごとの対応を余儀なくされていた。森監督もその状況を考慮し、柔軟な対応をとってきた。

「(男子トップチームも含めた)浦和レッズとして、自粛期間中に室内でできるトレーニングの映像をもらっているので、それを参考になるようにと選手たちに渡しました。自主練習について指示はしていないです。例えばジョギングでコンクリートの上を走らなければいけない場合は(ケガが)怖いし、体がフィットしている時と今では差を感じていると思いますから。練習が再開できるようになってからが勝負だと考えているので、今、追い込む必要はないし、メンタル的にもあまり焦らずにやらせたいなと思っています」

 公式戦は5カ月間近く行っていないが、世の中が大変な状況に陥っている今は、何よりも感染しないことが優先される。焦りは新たなリスクに繋がりかねない。

 森監督は、この状況をポジティブに捉えることができるとも考えているようだ。

「基本的に買い物以外は外に出ないようにしていますね。家にいる時は、昨季のレッズレディースの試合を中心に、試合映像を見ることにほとんどの時間を費やしています。真剣に見たり、音楽を聴きながらリラックスして見ることもありますが、すべてのビデオをもう4往復ぐらいは見ました(笑)。『この場面でサポートの距離をもう少し縮めた方がいい』とか、『ここはもう少し狙いどころをはっきりさせよう』と把握できたし、自分たちがやっていることをもう一度確認できたことは非常に良かったです。再開後は、そこを修正しながらやりたいと思っています」

 森監督は物腰が柔らかく、報道陣のやり取りではお茶目な一面を見せることもあるが、試合では大胆な手を打つ勝負師でもある。

 昨季、浦和の試合で印象に残ったことの一つが、試合中の交代策や、先手を取るための積極的なポジションチェンジだった。

 

 中でも忘れられないのが、ベレーザとの天王山を制した9月の第13節だ。この試合は、両チームのハイレベルな技術と戦術的な駆け引きが凝縮され、90分間目が離せない好ゲームだった。

 このとき森監督は、前半の早い段階で両サイドを入れ替えている。それによって左サイドのMF遠藤優のスピードが生かされ、先制点の流れが生まれた。また、ベレーザに追いつかれた直後には、長身のDF長嶋玲奈とFW大熊良奈の2人をサイドのターゲットとして投入。加えて、試合ではほとんどボランチでプレーしたことがなかったFW安藤梢を、同ポジションに下げることで中盤を安定させた。それらの変化が追加点の流れを生み出し、最終的に3-2で接戦を制した。

 今季も、そうした型にはまらない采配が見られるかもしれない。自宅で試合分析を重ねる森監督の姿をイメージし、そんな期待を抱いた。

森栄次監督(写真提供:浦和レッズ)
森栄次監督(写真提供:浦和レッズ)

【中盤を支える背番号18】

 浦和の中盤は激戦区だが、中でも安定したプレーでチームを牽引してきたのがボランチの柴田だ。小柄だが、鋭い読みと的確なポジショニングで相手の芽を摘み、繊細なボールタッチとスルーパスでゴールを演出する。高校卒業後に浦和に加入し、今年で10年目になる。2014年からはほとんどの試合にフル出場し、チームを支えてきた。

 

 4月からの活動自粛中は平時と変わらず会社に出勤し、土日は家で過ごしていたという。自主トレーニングは、無理のない範囲でマイペースにこなしてきた。

「ほとんど、一人でランニングがメインですね。コンクリートの上しか走れないので、ダッシュすることができないですし、心肺機能や筋力を維持するのは難しいですね。家では体幹などはやっています。サッカーの動きは練習や試合でしかできないので難しいですが、こういう状況ですから、完全に割り切って取り組んでいます。(練習再開後は)限られた期間で試合までコンディションを上げていかなければならないですが、ケガだけはしないように、試合に向けて準備したいと思います」

 2014年からコンスタントに出場し続けてきたことからも分かるように、柴田はケガが極めて少ない選手だ。元々、体が重いと感じたり、コンディションに波を感じることがほとんどないという。「歳を重ねるにつれて、練習前や練習後のケアはより気を遣うようになりました」と話すように、常日頃から自分の体と丁寧に向き合ってきた証だろう。

 今は自宅で過ごす時間が長いが、オフの時間は勉強をしたり、好きな料理を思う存分楽しんでいるという。

 昨季、柴田とともにボランチとして活躍したMF栗島朱里は、中盤で相手よりも早くセカンドボールに反応したり、ボールを奪える理由について、「華さんはすごく切り替えが早くて、真っ先に(プレスに)行ってくれるので、自分の元にボールがこぼれてくることがよくあるんです」と話していた。

 柴田は試合中、いつも軽快にプレーをしているように見えるが、陰ながらのハードワークで守備を支え、時にはそんな風に黒子にも徹してきた。

 世の中の状況が安定し、今季、無事にリーグ戦が開幕した際にはそうしたプレーに着目し、浦和の背番号18の背中を追ってみたい。

柴田華絵(写真提供:浦和レッズ)
柴田華絵(写真提供:浦和レッズ)

(※)インタビューは、5月中旬にオンライン会議ツール「Zoom」で行いました。