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新生ジェフレディースが練習自粛で見せた柔軟な対応。開幕から逆算して高めるチーム完成度

松原渓スポーツジャーナリスト
(写真は瀬戸口梢)(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

【準備万端で迎えるはずだった開幕】

 昨年、リーグ戦を5位で終えたジェフユナイテッド市原・千葉レディース。

 一昨年に比べてボールを持つ時間は増えたが、上位に得点力差をつけられた。千葉には、現在の代表にコンスタントに呼ばれている選手はいないが、11年目のDF千野晶子やGK船田麻友を筆頭に、1部で活躍を続けてきた選手が多い。

 今季は主力数名が移籍したが、下部組織からの昇格組や大学生選手を中心に、10名の新戦力が加入。さらに、指揮官には2017年からJ2のレノファ山口FCでアカデミーダイレクターを務めた猿澤真治監督を招聘し、新たなスタートを切った。

 猿澤監督は、山口ではレディースチーム(中国女子サッカーリーグ2部)に関わってトレーニング指導していた。また、娘さんがサッカーをやっていることもあり、女子サッカーへの馴染みは深い。

「グラウンドでは、ダメなものはダメと言います。でも、グラウンドを出れば細かいことは言わないです。そういう性分なんです」

 ストレートで熱いキャラクターは、千葉のサッカーにどのような化学変化をもたらすのだろうか。

 猿澤監督が目指すのは「優勝争いができるチーム」。1月の始動日から、その土台となる準備を進めてきた。

「元々のサッカー(の土台)が、そこまでできていなかったので、やりたいことがあってもすぐにできるものではないことは理解しています。必要な準備にはフィジカル的なものもあるし、技術的なものもあります。そこを自分の中で冷静に分析して、目指す方向に少しずつ進むように準備していました。攻撃ではいいものが出せるようになったけど、最後の決めきるところはまだまだだな、と。攻撃的にいく中で『え?』というやられ方をしたり。そういう課題も見えてきていました」

 しかし、3月に入って新型コロナウイルスの感染拡大の状況は日を追うごとに深刻になり、なでしこリーグは3月21日に予定されていた開幕戦が延期となり、現在は6月28日までは開催されないことが決定している。

 千葉在籍7年目で、今季キャプテンを務めるMF瀬戸口梢は、開幕延期が決定した時の思いをこう振り返る。

「猿澤新監督になって、今までとは違ういろいろなことを試したり、練習試合も何試合もやりました。できることも増えていたので、それを試合で試してみたいなという思いがありました。開幕の延期は予想できましたが、悔しい思いが強かったです」

 

 猿澤監督も「開幕に向けて準備をして、自分の中では8割〜9割準備できている中でのストップだった」と振り返るように、3月21日に予定されていた開幕に向けてチームは順調な仕上がりを見せていた。

【各自の生活スタイルに合わせて】

 千葉は4月8日から活動を自粛。なでしこリーグから出されている活動自粛要請に沿う形で、5月31日まではチーム練習ができない。そうした状況を、どのような形で補っているのだろうか。

「選手たちには、フィジカル面の強度やスピードなど、今までのトレーニングの中での狙いは伝えています。それをできる限り参考にして、各自の状況に合わせてやってください、と。『これを必ずやらなければいけない』と(強制する)形にはしていないです。水曜日にwebミーティングをしているので、戦術面は落ち着いて整理できていると思います」

 メニューを決めずに各自の判断に任せている理由の一つに、各選手の勤務状況の違いがある。在宅勤務になっている選手もいるが、病院や生協に勤めている選手などは、コロナ禍で仕事量が増え、勤務時間が長くなっているという。

 平時はチームの練習や試合を優先させる形で、それぞれの職場で時間の融通を利かせてもらっている。だが、非常事態である今はそうはいかないため、在宅勤務ではない選手たちに基準を合わせているという。

 現在は在宅勤務に切り替わっているという瀬戸口は、いつも以上に規則正しい生活を心がけている。前日の夜は、次の日のスケジュールをイメージして眠りにつく。

「朝6時とか6時半に起きて、朝食を軽く食べてから走りに行って、帰ってきて仕事をする、という感じです。清水(由香)フィジカルコーチからもらっている走りのメニューを参考に、近くのランニングコースで混雑していないところを見つけて走って、筋力トレーニングや体幹トレーニングは室内でやっています」

 チームメートとは、週に1度のwebミーティングの際に各自の自主練の内容などを伝え合う。

 大きなグラウンドでのトレーニングができない中で、千葉の特長の一つである「走力」を維持することは難しいのではないか。その点、猿澤監督は練習再開から開幕までの準備期間を重視しており、それに合わせて徐々に選手たちのコンディションとチームの完成度を上げていこうと考えている。

「準備期間が短ければ、体力を戻すこととケガをさせないことを優先することになると思います。6週間あるといいのですが、仮に(活動自粛要請期間が終わった後の)6月頭から練習がOKになったとして、リーグ開幕が7月頭になったら6週間はないので。そう考えると、今の段階から、前倒しでできることを選手たちに投げようかなとも考えています」

 この2シーズン、ボランチとして公式戦のほとんどにフル出場しながら千葉の走りを支えてきた瀬戸口は、「7年間ずっとそういう形で(走る)サッカーをしてきたので、正直、練習ができないイコール走れなくなる、と考えるとかなり不安です」と正直な心境を明かす。

 そして、その分、「今できること」にフォーカスしている。それが、自分のプレーをじっくり見つめ直すことだ。

「今年の練習試合のビデオや以前のものも含めて、自分がどんな時にいいプレーができていたかを見返して、自分のフィードバックができる時間に使っています。大学の卒論でプレーの分析をしたので、それを生かしながら、攻撃でボールにいかに関われているかと、ボールを受ける体の向きや、ミスの傾向を自分なりに分析しています」

 

 勝負どころを抑えた長短のパスで攻撃を組み立て、セットプレーでは正確なキックでゴールを演出するーー瀬戸口の安定したプレーは、こうした努力の上に成り立っているのだろう。現在は三食すべてを自炊にし、栄養士からのアドバイスを参考に栄養面にも気を遣っているという。時間の使い方をしっかりマネジメントできることも、一流になるための条件といえるだろう。

【新生ジェフのスタート】

 延期の影響で、リーグが開幕した際には中断期間がなくなり、短期集中型のスケジュールになることが予想される。その中で、猿澤監督はどのようなプランを描いているのだろうか。

「自分が焦って、開幕してからけが人がどっと出るようなことにならないように準備をしなければいけないなと。今は病院に行くのも大変だし、大けがをすると入院することもありますから。

 ある意味リーグ期間が短くなって、チーム全体の力で乗り切らないといけない中で、たくさんの選手にチャンスが渡せるんじゃないかなとも思っています。交代も、5人まで可能になると思います(*)。そうすると起用できる選手が増えるし、今年、チームの様子は悪くないので、みんなの力でいい結果に結びつけられたらなと思います」

(*)国際サッカー連盟(FIFA)は5月8日、今年末まで選手の交代枠を「3人」から「5人」に増やすことを認めた。

 1月の始動から3月までに多くのトレーニングマッチをこなし、自分たちの課題をこの自粛期間中に見直せたことは、戦術面においては一つのアドバンテージと捉えることができるかもしれない。

 猿澤新監督率いる新生ジェフがどのようなスタートを切るのか、期待している。

(※)インタビューは、5月中旬にオンライン会議ツール「Zoom」で行いました。

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 新型コロナウイルスの影響で試合の延期やイベントの中止が重なったため、クラブはオンラインでサポーター向けのイベント「2020ジェフレディースUNITED!Meeting」を行った。その様子は、以下のリンク(YouTube)で見られる。

「2020ジェフレディースUNITED!Meeting」

今季はどのようなサッカーを見せてくれるだろうか(写真:kei matsubara)
今季はどのようなサッカーを見せてくれるだろうか(写真:kei matsubara)
スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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