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なでしこリーグ理事長に聞く、開幕の可能性と必要なリスクマネジメント。観戦時のルール策定も進む

松原渓スポーツジャーナリスト
開幕に向け、感染予防のためのガイドラインを策定中だという。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、各種競技団体がイベントやリーグ開催を見合わせている中で、なでしこリーグも開幕時期の調整を続けている。

 2月末から中断しているJリーグは、NPB(日本野球機構)と合同で、「新型コロナウイルス対策連絡会議」を3月初頭から5月中旬までに7回行い、再開の日程を探っているが、5月11日の時点では、まだ開催の日程を決めることは難しい状況だという。

 なでしこリーグの岩上和道理事長に、今後の開幕への見通しや、公式戦が再開した際に考えられる指針について話を伺った。

【現状は夏場の開幕が濃厚か】

 なでしこリーグは現在、中断していた公式戦の開催を6月28日(日)まで延期している。4月に開幕し、8月23日に決勝戦を行うことが予定されていたリーグカップは中止になり、リーグは全18試合のうち、半分の9節までが延期された。岩上理事長は、開幕の見通しと、日程を調整するプロセスについてこう明かしている。

「なでしこリーグとして、理事会等で、6月いっぱいは開幕はしないことが正式に決定しています。また、リーグカップは中止が決定しています。

 Jリーグの方針は情報をいただいて常に参照していますが、100パーセント方針を一致させているわけではなく、なでしこリーグ独自で判断していることもあります。(各クラブとの情報共有は)全チームが入っている実行委員会で話したことを理事会で決定する、という流れです」

 なでしこリーグは、1部と2部が各10チーム、チャレンジリーグ(3部)が12チームで、計32チームが加盟している。

 今季は、1部と2部はホーム&アウェイ方式による2回戦総当り(全18節)で、チャレンジリーグは、東西6チームずつで2回戦総当り(全10節)とプレーオフ(全3節)を実施する予定だった。前期と後期の間に約3カ月間の中断期間があり、その間にカップ戦と五輪が行われることになっていた。

 今年はカップ戦が中止になったため、開幕後は中断期間をなくす形ですべての試合を通して行うことが予想されるが、18試合をこなすためには単純計算で4カ月かかる。

 試合数を減らす可能性もあるのだろうか。

「リーグとしては『18節をちゃんとやりたい』というのが、今の時点の希望です。ただ、タイミング的に7月のどこかから始めた場合、詰めてやったとしてもスケジュールがギリギリなんですね。ただ、実際問題として開幕のタイミングが決定していないので、試合数についてはなんとも言えないところもあります」

 仮に7月に開幕する場合は、夏場の連戦による選手のコンディション不良やケガのリスクが心配される。特に、なでしこリーグでは夕方から夜にかけてのスタジアム確保が難しい場合もあり、夏でもデーゲームで開催されることがあるため、熱中症対策も必要になる。

 国際サッカー連盟(FIFA)が今年末までの期限付きのルールとして提案している「5人交代制」(※)については、理事会の決定を待たなければならないが、なでしこリーグでも基本的に適用する意向だという。

 もう一つの懸念は、開幕までの準備期間の短さだ。

 現在、リーグから各チームに5月31日まで活動自粛要請が出されている。全国39県ですでに緊急事態宣言が解除されており、宣言対象となっている8都道府県についても、状況次第では31日の期限を待たずに解除される可能性がある。

 なでしこジャパンの広瀬統一フィジカルコーチは、各チームが練習再開後、「紅白戦や練習試合など、大きなグラウンドで試合が始まったときに(選手の)怪我のリスクが一気に高まる」ことを指摘している。

 リーグ側も、練習再開から開幕までにどのぐらいの準備期間を設けるかについては慎重に考えている。岩上理事長はこう語る。

「できれば6週間から8週間あれば理想的なのですが、日程的にはなかなか難しいかもしれません。各チームともお話しした上で、『最低でも4週間は欲しい』という希望がありますので、練習再開から開幕まで4週間はあけたいと考えています」

(※)新型コロナウイルスの感染拡大により各地で公式戦が延期(中断)し、再開した際は過密日程によるケガのリスクがあるため、国際サッカー連盟(FIFA)は5月8日、今年末まで選手の交代枠を「3人」から「5人」に増やすことを認めた。ただし、試合進行を円滑にするため交代機会は従来通り1試合につき各チーム3度まで。

【開幕のためのガイドライン】

 こうして、各チームの努力や各所との調整が進み、無事にリーグが開幕できたとしてーー大切なのはその後だ。

 新型コロナウイルス対策連絡会議で3月12日に専門家チームから出された「日本野球機構・日本プロサッカーリーグにおける新型コロナウイルス感染症対策」には、感染しやすい状況や、一般的な予防方法に続いて、スポーツ観戦時の感染対策が項目ごとに書かれている。

「選手・関係者への対応」という項目では、毎日の健康チェックや行動記録をつけること、ロッカー室やシャワーの時間差利用、「同じポジションの選手が可能な限り行動を共にしない」といった予防策が挙げられ、「観客への対応」という項目では、「開場時間の繰り上げ」(分散入場)や、サーモメーターによる入場時の検温、マスク着用の呼びかけ、ハイタッチ禁止などの予防策が提言されている。

 「密」にならないようにするために、なでしこリーグではどのような対策を考えているのだろうか。

「今週中にガイドラインを作ろうということで、現在策定中です。Jリーグが策定した「新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン(案)」も、もちろん参考にしています。例えば無観客での開催や、お客さんに入っていただくにしても、かなりのソーシャルディスタンスを取るとか、事前に検温するといったことも考えています」

 アジアでは韓国Kリーグ、ヨーロッパではドイツ・ブンデスリーガがすでに開幕(再開)しているが、そうした他国の状況や他の競技も判断基準として参考にしているという。ブンデスリーガでは、リーグ再開に際して50ページ近くにわたる詳細なルールが設けられており、Jリーグはその計画書を参考に新たなガイドラインを策定する考えがあるという。

 なでしこリーグが開幕した際の中継については、「1部については原則、YouTubeで放送することが決まっています」との回答を得た。2部やチャレンジリーグに関してはまだわからないが、スタジアムに入れない可能性もあることを考えると、インターネット中継が充実するのは嬉しい。

【プロリーグ創設計画のその後】

 来年に予定されている女子プロリーグの創設について、その後の進展も気になるところだ。

 アマチュアリーグであるなでしこリーグとは別に、女子サッカーの普及や代表の強化、2023年のW杯招致などを目指して、昨年11月に創設が決まった。プロリーグでは秋春制導入も決まっており、来年9月開幕予定で話が進んでいた。今年2月にはプロリーグへの参入を希望するクラブの募集と、リーグ概要や参入基準に関する説明会の開催が決まっていたが、延期となっている。

 この件について、設立準備室のメンバーでもある岩上理事長は、現状を丁寧に説明してくれた。

「皆様ご承知の通り、2021年の秋から新たにプロリーグが開幕するということで、JFAでも決定しています。今のところ、その方針を変えるつもりはありません。新型コロナウイルスの感染状況など、今後の状況の推移次第で最終的な判断をすることになりますが、今のところ変わらず、2021年の秋にスタートさせたいと考えています。各チームにもその方針はシェアしています」

 今後どうなるか、まだまだ先が読めない社会状況ではあるが、様々なケースを想定し、持続可能なリーグにするための議論を成熟させておきたい。また、FIFAは2023年の女子W杯の開催国を、6月25日に行われるFIFAカウンシルで決定することを発表した。参照

 最終候補には、日本のほか、オーストラリア・ニュージーランド(共同開催)、ブラジル、コロンビアが残っている。女子W杯は2023年大会から参加国がこれまでの「24」から「32」へ拡大された。こちらの投票結果も気になるところだ。

 「スポーツのある日常」を待ち望む人は多いだろう。筆者もその一人だ。無事にリーグ戦が開幕した暁には、その喜びを多くの人と分かち合いたい。

 だからこそ、感染予防のための知識や、リーグが発表するガイドラインにも目を通して、スタジアムに設けられるであろう新たな秩序を理解し、その楽しみを再び手放すことがないように備えておきたい。

※取材は5月18日にwebリモート取材で行いました。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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