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夏のU-20女子W杯に向けてスタートを切ったヤングなでしこ。アジア王者として臨む世界の舞台

松原渓スポーツジャーナリスト
U-20女子W杯に向けて始動したヤングなでしこ(筆者撮影)

【アジアから世界へ】

 今年8月(予定)にコスタリカとパナマの共同開催で行われるU-20女子W杯に向け、2月3日から4日間、U-20日本女子代表候補が静岡県内でトレーニングキャンプを行った。

 同大会のアジア予選にあたるAFC U-19女子選手権が、昨年10月から11月にかけてタイで行われ、日本はグループステージでミャンマー(◯5-0)、韓国(◯2-0)、中国(◯2-1)、準決勝でオーストラリア(◯7-0)、決勝では北朝鮮(◯2-1)を下す快進撃で優勝を果たした。今夏のU-20女子W杯にアジア王者として臨む。

 今回の合宿では、26名中21名がアジア予選の際のメンバーだった。

 池田太監督は、「チームとしての積み上げを大切にしていますが、この年代の選手はいろんな(可能性を持った)選手がまだまだいると思うし、今後視察にもいく予定です。(新しい候補選手たちが)出てきて欲しいと思っています」と、同年代の選手たちの奮起を促している。

 日本はアジア予選で、5試合で18得点2失点と、文句なしの優勝だった。

 守備では、唯一のフル出場で堅守を支えた主将の高橋はな(浦和レッズレディース)、ダブルボランチとして全試合に先発したMF菅野奏音(かんの・おと/日テレ・東京ヴェルディベレーザ)とMF中尾萌々(なかお・もも/ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)らを中心にチーム全体で粘り強く守った。その堅守をベースに、攻撃面では5試合で5得点をあげたFW山本柚月(日テレ・メニーナ)、同3点を決めたFW大澤春花(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)、高いテクニックで数多くの決定機を演出した伊藤彩羅(いとう・さら/日テレ・ベレーザ)、スーパーサブとして豪快なゴールでインパクトを残したFW廣澤真穂(早稲田大学)など、多彩な個性が光った。そして、攻守の素早い切り替えや90分間最後まで走り抜くことはすべての選手に徹底されていた。

 大会MVPに輝いた菅野は、夏のU-20女子W杯に向けて次のように意気込みを口にする。

「アジアから世界を目指す中では、技術面もそうですが、特にアジリティやパワーが日本に足りていないところだと思うので、残り数カ月でしっかり積み重ねていきたいです。個人的に、ゲームをコントロールすることは今までも意識してきましたが、今年は得点やアシストを増やして、試合を決められる選手になりたいです」(菅野)

 今回の合宿では、チームの土台がある程度確立されている中で、アジア予選を経験していない選手たちもスムーズに溶け込んでいる印象だった。

 アジア予選で主将を務めた高橋は「みんながチームのためにできることを考えて、いろんなことを伝え合えるチームでありたいし、仲の良さをいい意味でサッカーにつなげていきたいです」と話す。

 高橋と同じく、このチームで最年長に当たる2000年生まれのGK田中桃子は、「新しく入ってきたメンバーにアジア(予選)でどういうことがあったかを伝えて、全員がチーム状況を把握できるようにしたいです。年上が年下の選手たちを気にかけていると思うし、自分もそうしています。逆に年下の選手たちが遠慮している様子もなく、積極的に話しかけてくれているのであまり心配していないです」と、チームの雰囲気の良さを口にした。

合宿はアジア予選のメンバーが中心だった(左から高橋、菅野、大澤、廣澤/筆者撮影)
合宿はアジア予選のメンバーが中心だった(左から高橋、菅野、大澤、廣澤/筆者撮影)

【タイトル獲得で備わった自信】

 2018年夏にフランスで開催された前回のU-20女子W杯で日本は初優勝し、なでしこジャパン(2011)、U-17日本女子代表(2014)と合わせて、三世代で世界を制した初めての国になった。

 このチームの多くの選手は、そのような上の世代の輝かしい成績と比較され、常に好成績を期待されるプレッシャーに晒されてきた。

 そうした中、この年代には、AFC U-16女子選手権2017(3位)、2018 U-17女子W杯(ベスト8)など、タイトルに手が届かず悔しい思いをした選手も多く、大会3連覇がかかっていた昨年のアジア予選では、タイトルへの執念も伝わってきた。

 だからこそ、優勝で得たものはタイトル以上の価値があったのではないかと思う。約3カ月ぶりに再集合した選手たちからは、自信と、このチームでまた挑戦できる喜びが感じられた。

 池田監督は今回の合宿のテーマについて、次のように明かしている。

「目的は4つあって、ひとつはW杯に向けての目標確認です。このチームを立ち上げた時に、『AFCのアジア予選で優勝する』、『W杯で優勝する』、『なでしこジャパンに向かっていく』、『応援されるチームになる』という4つの目標を立てました。最初のひとつは達成できたので、今後の目標を確認しました。2つ目の目的が、AFC(アジア予選)の振り返りです。(予選に)招集していない選手もいますが、去年戦ってきたことの成果と課題を確認しました。3つ目がフィジカルアプローチです。体づくりも含めてやっていくことを共有しました。最後は、『世界基準』を共有することです。なでしこジャパンの(昨夏の)W杯や2年前のU-20のW杯で、世界各国がどのぐらいのレベルだったかを共有しました」

 練習後のミーティングでは前回大会の映像を見るなど、「世界基準」を具体的なイメージとして伝えたという。前回のU-20女子W杯で指揮を執った池田監督と、同大会にフル出場して優勝に貢献した高橋も、この年代の“世界基準”を肌で知るキーマンだ。

 時期的にオフ明けの選手が多いため、練習試合などは行わず、ウェイトトレーニングやフィジカル強化を目的としたサーキットトレーニングなど、体づくりを意識した取り組みを行った。ボールを使った練習では攻守の切り替えや、どのエリアからでもシュートを打つことを意識づけるメニューが多く見られた。

 狭いスペースで行うポゼッションの練習では、ハイプレッシャーの中で小気味よくパスがつながり、オフザボールでも全員が関わり続ける連係の良さと個々のスキルが光った。また、シュート練習では難易度の高い状況でも枠を捉える技術とパワーがあり、GK陣のファインセーブも練習の雰囲気を活気づけていた。そうしたボールコントロール技術や周囲に合わせる個々の調整力の高さは、世界と戦う上での強力な武器になりそうだ。

 

 今年、藤枝順心高校からINAC神戸レオネッサへの加入が決まっているDF長江伊吹は、「このチームはレベルが本当に高くて、練習が楽しいです。騒いでいてもやる時はしっかりやるというメリハリがはっきりしているし、毎日が成長するために大事なことだらけです」と、充実した表情で話した。

【勝負の年】

 アジア予選では出場機会が少なかった選手たちも、U-20女子W杯本大会に向けてレギュラー奪取に意欲的だ。

 MF三浦晴香(日体大FIELDS横浜)は、「(アジア予選では)試合にあまり出られなかったのですが、みんな上手で、見ていても勉強になったし、出た時も自分のプレーを出せた手応えがありました」と振り返る。

 FW武田菜々子(マイナビベガルタ仙台レディース)も、アジア予選で悔しい思いをした一人だ。

「ボールを持ってもシュートまで行けない場面が多くて、積極性が足りなかったなと。自分の特徴でもある体格とスピードを生かせていなかったなと思います。いいタイミングでボールを受けたり、誰かが打ったシュートのこぼれ球に反応しやすいポジションを取れるように、練習や試合の中で高めていきたいです」(武田)

 U-20日本女子代表は今後、3月と7月の国内トレーニングキャンプ、5月の海外遠征を経て8月(予定)の本大会に臨む。池田監督は、約半年後に迫った本大会に向けてイメージをこう語った。

「アグレッシブに戦う中で、仲間のトライをみんなが尊重して、ミスをしたら全員でカバーする。そういったフォアザチームの心を大切にするチームになればいいなと思っていますし、そのベースの中で各選手が持っている特徴を伸ばしてくれれば、先につながると思います」

 合宿2日目にはなでしこジャパンの高倉麻子監督も視察に訪れていた。7月の東京五輪でなでしこジャパンが好成績を残し、ヤングなでしこがそれに続くーー。そうなれば、来年に向けてプロリーグ新設の計画を控える日本女子サッカー界にとって、大きな追い風になることは間違いない。

監督・選手コメント

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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