なでしこリーグの頂上決戦を盛り上げた4663人の観衆。FW籾木結花が立案した“選手発信”の集客成果

「5000人満員プロジェクト」を指揮したFW籾木結花(9月22日、浦和戦)(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

【目の前での優勝を阻止したINACの意地】

 20日(土)に味の素フィールド西が丘で行われたなでしこリーグの頂上決戦は、0-0のスコアレスドローに終わったが、90分間、両者が高いテンションを保ち続けた末のノーゴールだった。

 勝てば、リーグ戦2試合を残して4連覇が決まる日テレ・ベレーザ(ベレーザ/首位)と、自力優勝の芽はないものの、目の前でカップを掲げられた昨年の屈辱を忘れていないINAC神戸レオネッサ(INAC/2位)。

 両チーム合わせて16人の代表候補を抱える2チームの対戦は“東西ダービー”や“L・クラシコ”と言われる天王山だが、今年は永田雅人監督の下で進化を見せるベレーザがリーグ優勝に王手をかけていた。

「ベレーザが勝てば優勝」という試合前の状況は昨年と同じだったが、2つの点で、昨年とは異なっていた。

 一つは結果だ。昨年は2-0でベレーザ勝利。今年は、「ベレーザが点を取れなかった」というよりも、「INACが意地を見せた」という表現がしっくりくる内容だった。INACは対ベレーザ戦は昨年5月のリーグ戦以来勝ちがなく、3連敗中だった。

 だが、それでもリーグでは安定した強さで2位の座を堅持してきた。この試合では、ベレーザの特徴であるサイド攻撃への対応や、各選手の特徴を踏まえたベレーザ対策が功を奏した。

「(7月の)カップ戦の決勝で、引い(て守っ)た中でのやられ方を学んだので。今度はラインを高く保った中で、自分たちのゴールから遠ざけた状態でボールを回させる、という発想でプランニングしました。対策しながらも突破されているシーンはたくさんあったので、今後の対ベレーザ対策に生かしたいと思います」(鈴木俊監督/INAC)

 鈴木監督は2016年までベレーザのコーチだったからこそ、時にはその実力差もはっきりと口にし、虎視眈々と王座奪還を狙ってきた。

 ライバルのレベルアップは、ベレーザにとっても歓迎だろう。

 次に両者が対戦する可能性があるのは、1月1日の皇后杯決勝だ。

頂上決戦は0-0のスコアレスドローに(上がベレーザ、下がINAC 写真:Kei Matsubara)
頂上決戦は0-0のスコアレスドローに(上がベレーザ、下がINAC 写真:Kei Matsubara)

【リーグ女王が示した集客への危機感】

 昨年とは異なる頂上決戦の舞台を作り上げたもう一つの要素が、入場者数の大幅アップだ。昨年は1842人だった観客数は、2.5倍以上の4663人に増えた。

 その数字には、この試合を主催したベレーザの集客努力が反映されていた。

 観客数が爆発的に増えた2011年の女子W杯優勝以降、なでしこリーグの平均観客数は緩やかに下降し続けている。それは2016年のリオ五輪予選敗退や、スター選手の引退など、様々な要素が複合的に絡み合った結果だが、さらなる下降を食い止めるためには、一度来てくれたファンは固定層になってもらい、同時に新規層にもスタジアムに足を運んでもらうことが必要だ。

 AC長野パルセイロ・レディース(長野)は、地元密着で戦略的に集客に力を入れ、2016年、2017年と、2年連続の観客数1位を記録している。また、INACは2011年W杯優勝メンバーの主力が多く所属していたため、W杯特需の恩恵を最も受けたチームだ。それをきっかけにメディアへのアピールや集客活動も継続的に展開してきた。浦和レッズレディースは、Jリーグ屈指の規模を誇る男子トップチームのサポーターがレディースのサポートもしているし、アルビレックス新潟レディース(新潟)は、例年、男子トップチームとのダブルヘッダー(同じチケットで2試合を見られる)を実施している。

 一方、ベレーザは1350万人の人口を抱える東京を本拠地としているが、他のチームに比べて客足が伸び悩んでいる。

 参考までに、今シーズンの第15節までのホーム開催試合の平均観客数(1試合当たり)を上位から並べると、1位が長野で2347人、2位がINACで2280人。3位の浦和レッズレディースが1712人で、4位の新潟が1294人。ベレーザは911人で、なんと10チーム中8位だ。

 リーグ3連覇中で、最も代表選手が多いチームにも関わらず、なぜ客足が伸びないのか。

 

 その数字は、ホームスタジアムとの関係性も大きく影響している。

 美しい天然芝と、リーグ随一の見やすさを誇る長野Uスタジアムを本拠地としている長野や、全天候型のノエビアスタジアム神戸を使用できるINACと異なり、ベレーザはホームスタジアムが固定されていない。各カテゴリーで使用するチーム数が多く、会場の確保が困難なことや、関東圏の施設使用料の高さも理由だろう。

 一方で、スタジアム環境(アクセスやスタジアムグルメを含む)が、観客数の増減と密接に関係していることは、Jリーグの観客数調査などからも明らかになっている。そう考えると、ベレーザが他のチームより集客に苦労する理由も納得がいく。

 それでも、やっぱり大勢の観客の前でプレーがしたいーー今回、INACとの大一番で集客プロジェクトを主導したFW籾木結花の言葉には、その忸怩たる思いが滲んでいた。

「なでしこリーグはJリーグとは違って、見に来て欲しければ自分たちが呼びに行かないと多分、来てもらえないと思います。いいサッカーをして、(リーグや皇后杯で)結果を残しても見に来てもらえないという中で、もっと自分たちで伝えていかなければいけないなと感じていました」(籾木)

 オフザピッチではとても礼儀正しいが、こういったことについて意見を求められれば、本質をズバリと指摘する。コミュニケーション能力が高く、言葉や表情の端々に豊かな知性を感じさせる22歳は、実績も申し分ない。

 なでしこリーグ1部でデビューを飾ったのは、なんと中学3年。持ち前のテクニックと的確な状況判断を生かしたプレーを武器に、年代別の日本代表のエースとして実績を積み、2016年からはベレーザでも背番号が「10」になった。そして、昨年からはなでしこジャパンにも定着。

 選手として、常に第一線を走り続けてきた。だからこそ、国内リーグで結果が集客に直結するわけではないことも痛感していた。

 今回、クラブに集客プロジェクトを提案したきっかけは自身が通う大学(慶應義塾大学総合政策学部)の卒論製作だったという。クラブが籾木を「もみP(籾木プロデューサー)」に指名し、「5,000人満員プロジェクト」を始動させたのは9月末だったが、実際には、籾木自身がリーグ開幕前から集客のための分析・対策をしてきたという。

【大勢の観客の中でプレーするということ】

 具体的な案はベレーザの公式HPを見てもらいたい。この中で、籾木自身は、入場時に花道を作って選手を送り出せる等、いくつかの特典がついたプレミアムシート(1万円/完売)や、選手がデザインしたオリジナルタオル(2000円)の販売(チーム対抗)を発案し、企画や打ち合わせなどの様子も含めて、チームメートたちとともにSNSで拡散した。

 また、来場者にはベレーザのロゴ入りの緑色のTシャツが配られ、選手入場時には緑と黄緑色の画用紙で、スタンドを緑に染める企画も。

 結果的には、目標としていた5000人にわずかに届かなかったが、試合後に籾木自身がこんな風に実感を語っている。

「(私が)企画したプレミアムシートの皆さんが試合前に花道を作って入場させてくれて、(買ってくれた)一人ひとりに感謝を伝えたいと思いました。自分たちがお客さんを呼ぶことで、選手自身もより一層の自覚が生まれてくると思うし、(今後、)女子サッカーでは観客と選手が協力していいものを作り上げていけるんじゃないかなと思いました」(籾木)

 興味深かったのは、対戦したINACのFW岩渕真奈やDF鮫島彩といった経験のある選手たちが、試合後にこの企画への感謝を伝えたことだ。岩渕は自身のツイッターで、

「アウェイでしたが5000人近くいるスタジアムでなでしこリーグ、久し振りでした!もみPありがとう」と、絵文字つきでコメント。籾木も、

「素晴らしい相手との真剣勝負。お互い(ドローで)悔しい試合になりましたが、観客の皆さんだけでなく、ぶち(岩渕)さんにお礼を言ってもらえると更に嬉しい!」と返答している。鮫島も自身のブログで感謝を伝えた。

 そのやりとりを見てふと、2011年の女子W杯準々決勝のドイツ戦の光景が蘇った。2万6000人収容のスタジアムは満員になったが、そのほとんどがホームのドイツサポーターだった。スタンドでも鳥肌が立つほどの殺気を感じたが、逆に、その完全アウェーの空気が、日本の選手たちのモチベーションにもなっていた。そして、日本は一度も勝った事がなかったドイツを延長戦の末にFW丸山桂里奈の劇的決勝ゴールで沈め、そのまま世界一まで駆け上った。

 2008年北京五輪の中国戦も、2012年ロンドン五輪のフランス戦も、日本は完全アウェーの中で勝利している。当時のリーグは、今よりも観客が少なかった。「観客が多ければ多いほど燃えるから」と、嬉しそうに話していたFW大野忍(ノジマステラ神奈川相模原)の表情がとても印象に残っている。

 籾木は今回のプロジェクトの一環として様々なメディアに露出した中で、女子サッカーの魅力について

「学業や仕事と両立させながらやっている選手が多く、サッカーへの情熱が最後まで諦めないプレーやひたむきさに表れる」ことや、

「男子に比べると迫力やスピード感は劣るが、ボールを飛ばせない分、繋いでゴールに向かう。チーム戦術を理解して丁寧にやっていこうとする」

 といった特徴をあげていた。そのように、プレーしている選手たち自身が女子サッカーの面白さを積極的に発信していくことも、集客につながるだろう。個人的には、ショートパスが多いため、プレーが切れにくい(ボールがラインを割りにくい)ことや、ファウルで意図的に倒れる選手が少なく、“演技”で時間をロスしないことも、なでしこリーグの魅力だと思う。

 INAC戦の後、ベレーザの選手たちの表情には、これだけの観客の後押しを受けながら、ゴールを決められなかったことへの悔しさがにじんでいた。その悔しさも、新たなモチベーションになるだろう。

 目標とする5000人には届かなかったが、籾木自身は、

「来てくれたお客さんに感謝したいですし、(今回は)“成功”じゃないぐらいがちょうどいいと思っています。(集客プロジェクトは)今日が最初で最後とは考えていません。ベレーザだけでなく、なでしこリーグ全体が、これを機に意識が変わるところを狙っていきたいと思っています」(籾木)

 と、頼もしい表情を見せた。もちろん、その中で、サッカーの内容と結果でもリーグを牽引していく心づもりだ。

 今週末の27日(土)の長野戦は、ベレーザにとって今シーズンのホーム最終戦となる。長野は今シーズン、ベレーザが唯一破れている(●0-1)チーム。また、前半戦はいなかったFW横山久美も復帰しており、手ごわい相手だ。優勝決定までの道のりは一筋縄ではいかなそうだ。

 この試合は、ホームの味の素スタジアム西競技場で14時にキックオフを迎える。