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敵地で快勝のアルビレックス新潟レディース。実り始めた新スタイルと、勝利を引き寄せた新戦力

松原渓スポーツジャーナリスト
新潟で輝く北川。代表復帰への一歩を踏み出した(2018年1月 代表国内合宿)(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 佳境を迎えたなでしこリーグは、先週も各地で熱戦が繰り広げられた。

 残留争い中の日体大FIELDS横浜(最下位)とセレッソ大阪堺レディース(セレッソ/9位)が、上位を窺うノジマステラ神奈川相模原(ノジマ/3位)とジェフユナイテッド市原・千葉レディース(5位)に引き分けたため、3位以下の勝ち点がさらに詰まる形に。その結果、3位から7位までが勝ち点「3」差にひしめき合う混戦となっている。

 その中で、7位のアルビレックス新潟レディース(新潟)が4位の浦和レッズレディース(浦和)のホーム、浦和駒場スタジアムに乗り込んだ試合は、新潟が2-0で勝利。

 前半、FW菅澤優衣香を起点とした浦和の縦に速い攻撃に押される時間帯を耐え抜き、後半は前線からの守備で流れを掴むと、50分にFW園田瑞貴のゴールで先制した。さらに、64分には右コーナーキックをDF北川ひかるが頭で押し込んで2-0。その後はゲームをコントロールしながら3点目を狙う余裕も見せた。

 浦和から新潟に移籍して初の古巣対決となった北川の“恩返し弾”も、試合の盛り上がりに華を添えた。

【11試合ぶりの無失点】

 今シーズンから新潟を率いる山崎真(まこと)監督がシーズン当初に掲げたのは、「(劣勢でも)逆転できるチーム」だ。

 

 変革の手段は大胆だった。

 これまである程度固定されていた主力のポジションを大胆に変え、試合によって選手の組み合わせや、システムにも変化を加えた。その中で、変化への対応力や、個で局面を打開できる力を養い、チームの最適解を探っていきたいという狙いが窺えた。

 もちろん、変化には痛みも伴う。すぐに結果が出るようなことではないと分かっていても、勝敗や数字などのデータが一時的にでも下がれば、本当に前進しているのだろうか?と不安になるものだ。

 だが、浦和戦の内容と結果は、そういった時期を乗り越えて、新潟の新たなサッカーが形になりつつあることを示していた。浦和がシーズン中の監督交代という難しい状況に置かれていたことを差し引いても、新潟の連係力は輝いていた。

「一つひとつハードルを超えている最中です。一歩進んで半歩下がることもありますが、その中でも選手が真摯にトレーニングに取り組んでくれて、積み上げられているのは確かです。この結果は自信になります」(山崎監督)

 謙虚で丁寧な口調の中に、確かな手応えが感じられた。

 全員が足を止めず攻守に関わり、ポジションやシステムも柔軟に変えるーー浦和戦で見せた攻守で動きのあるサッカーは、見る者をワクワクさせる要素が多分にあった。ショートパスを多用し、つないでいくスタイルは昨年までと共通しているが、選手の配置や組み合わせなど、異なる点も多い。

 浦和戦で得られた成果の一つが、リーグ戦11試合ぶりとなる無失点だ。

「まだ経験の少ない若い選手も多く、点を取られると元気が無くなってしまうので、守備から入るというところをスタートラインにした中で、『逆転できるチーム』を目指してきました。耐えることや、やられてもやり返しに行けるようになってきたところは(最近)見え始めたところです」(山崎監督)

 守備の軸だったDF中村楓が6月に負傷して全治8ヶ月の長期離脱となったこともあり、リーグ後半戦に入ってからの新潟は、守備時は5バックになり、攻撃時は両サイドバックが高い位置をとることが多い。この試合では特に後半、前線からの守備がハマって浦和を自陣に押し込む時間帯が長く、5バックと3バックを柔軟に使いこなせている印象だった。

 その中で、的確なラインコントロールを見せていたのがDF久保田麻友だ。今シーズン最終ラインでは唯一のフル出場で守備を支えてきた。最終ラインの顔ぶれが変わる中で、守備の連係を積み上げなければならない難しさはあっただろう。

 久保田自身、もともとはFWだった。1対1や空中戦の強さを買われてDFに転向し、3年目にして新潟の最終ラインを支える柱になった。

「無失点で終われたことはすごく大きいです」(久保田)

 実感のこもった言葉には、FW時代とは違うやりがいが感じられた。また、守備が安定した要因の一つにコーチングを挙げた。

「前線のポジションに、声でしっかり伝えられるようになったと思います。『前に出ていいよ!』と、前の選手を押し出して、ボールにしっかりいけるような声かけを意識しています」(久保田)

 後半は攻守の継ぎ目を感じさせないほど、スムーズに攻撃へと移行する場面がいくつかあった。

 たとえば、先制直後の51分のシーン。前線から園田とMF八坂芽依が中央のコースを限定し、その背後でMF小原由梨愛が縦パスをインターセプト。その後一度はボールを失ったが、再び同じ流れで縦パスを出させ、久保田がパスミスを誘うと一気に攻撃に転じた。それは、後ろからの的確なコーチングによるところも大きいのだろう。

 一方、攻撃面では、サイドでのオーバーラップや相手陣内のワンツーなど、サイドバックやFW経験者としての強みも発揮していた。

今シーズン初の連勝を飾った新潟。久保田は上段一番左(写真:Kei Matsubara)
今シーズン初の連勝を飾った新潟。久保田は上段一番左(写真:Kei Matsubara)

【勝利を引き寄せた即戦力】

 攻撃面で大きなインパクトを残したのが、2ゴールに絡んだ北川だ。左足のクロスで園田の先制点を演出。さらに、この試合では1年1ヶ月ぶりのゴールを決めた。87分にも阪口のクロスにダイビングヘッドで飛び込み、ポスト直撃のシュートを放っている。

 浦和から加入後、4試合目ですでに1ゴール2アシストの結果を残し、今のところ、北川が出場した試合は無敗(3勝1分)だ。山崎監督は、

「彼女はとにかくアグレッシブ。(浦和で)対戦している時からこちらの目に飛び込んでくるぐらい、はっきりしたプレーをしていました。持ち前のパーソナリティもあって、予想していた以上に早く順応してくれています」

 と、北川の加入による好影響を口にした。

 9月中旬に、浦和からの移籍が発表された際は驚いたが、同時に北川の覚悟の強さも感じた。東京で大学に通いながらプレーする環境を手放すことも、相当な覚悟が必要だったはずだ。

 北川はスピードを生かしたドリブルやクロス、ファイトあふれる球際の強さといった武器で、年代別代表で主力として活躍。2014年のU-17女子W杯で優勝、2016年のU-20女子W杯では3位の原動力になった。しかし昨年、フル代表に初選出されて臨んだ3月のアルガルベカップで右足を骨折。その後、浦和で復帰後はパフォーマンスが安定せず、スタメンの座を譲ることも増えていった。

 

 代表からは今年1月の国内キャンプ以降、遠ざかっている。だが、北川自身がその理由をしっかりと把握していた。昨年12月のE-1選手権ではメンバーに入りながらピッチに立てず、悔しさの中で吐露した言葉に、苦悩が現れていた。

「怪我を言い訳にはできないですし、今はプレー以上に、自分のメンタルの弱さを感じています。アンダー(育成年代)の時からそうですけれど、(メンタルの)波をなくさなければならないし、何が敵かと言われたら、自分です。考えすぎたらダメなのは分かっているんですけど……今は悩み時で、新しい一歩を踏み出すために必要な時間だと思うし、これを乗り越えれば新たな自分に出会えるのではないかという大きな期待もあります。今は苦しいけど、とにかくやらなければいけないな、と」(北川/2017年12月)

 その後も北川らしい躍動感あふれるプレーを見る機会は少なく、試合後は悔しさと戦っているような表情を見ることも増えていた。そんな中で移籍を決断したのは「自分と向き合いながら考え続け、悩み続けた結果」(北川/浦和公式HPより)だったという。

 

 結果的に、その決断が北川を前進させたのは間違いない。浦和戦で見せたプレーには、吹っ切れたような明るさがあった。新潟のサッカーにすぐに順応できた理由について、北川は試合の後にこう話している。

「みんながコミュニケーションをとりながら、声をかけてくれる。(阪口)萌乃さんが前にいたり、メグ(上尾野辺めぐみ)さんが中にいてくれるのでやりやすさを感じています」(北川)

 実力と経験を兼ね備えた先輩たちから、21歳のサイドバックはいろいろなことを吸収できるはずだ。

 また、今の新潟のシステム上、両サイドバックが攻撃的な位置を取りやすいことも、攻撃的な特徴をスムーズに発揮できている要因だろう。もちろん、その中で北川自身がポジションを得るための努力を怠っていない。

「最近は守備も楽しいです。自分が(守備の中で)はまっていればうまく前に出られるので、考えながら動く楽しさがあります」(北川)

 もう一度、輝ける場所を見つけた北川の表情は、以前と比べて随分大人っぽく見えた。その変化は、彼女が自分と向き合ってきた時間に比例しているのかもしれない。

【残り3試合】

 新潟にとって、残り3試合のリーグ戦は全て、順位の近い相手との対戦になる。昨年の5位を超えるチャンスもあるが、見据えるのは、常に「目の前の一試合」だ。

  

「あまり先を見ると不安定になってしまう要素がまだたっぷりあるので、しっかり手綱を締めて、目の前の試合、自分たちの戦いをすることに邁進したいと思います」(山崎監督)

 浦和戦の後半のような攻守一体のサッカーをコンスタントに見せられるようになれば、来シーズンの新潟はこれまでのような“スロースターター”ではなくなるはずだ。そのためにも、ここからのシーズン終盤の戦いが重要になる。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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