U-17女子W杯前、最後の国内キャンプ。逆境の中でリトルなでしこが挑む世界一

U-17女子W杯に向け最後のキャンプを行った(写真:Kei Matsubara)

 11月13日からウルグアイで開催されるU-17女子W杯に向けて、リトルなでしこ(U-17日本女子代表の愛称)がJヴィレッジで4日間の候補合宿を行った。

 日本はU-17女子W杯では直近の2大会で優勝(2014年)、準優勝(2016年)と、輝かしい成績を残してきた。そして、今年8月には一つ上のカテゴリーであるU-20女子W杯で、池田太監督率いる“ヤングなでしこ”(U-20日本女子代表)が世界一になり、次の“黄金世代”が順調に育っていることを世界に示した。

 今回のU-17女子W杯に出場する選手たちは、2011年になでしこジャパンがW杯で優勝した当時、まだ小学生だった。女子サッカーの競技人口増加とともに裾野が広がり、環境も整備されてきた中で育ってきたダイヤの原石たちが、いよいよ世界に羽ばたこうとしている。

 現在はなでしこジャパンの高倉麻子監督、20歳以下の池田太監督、そして17歳以下の楠瀬直木監督と、各カテゴリー間で目指すサッカーのコンセプトや選手の情報が共有されており、今回のU-17の国内合宿には池田監督も視察に来ていた。

 女子サッカー強豪国であるアメリカやドイツがそうであるように、才能のある若手選手が上のカテゴリーで即戦力として活躍する流れが日本にもできつつある。

 今回のチームは、2017年2月にU-16日本女子代表として発足。昨年9月のアジア予選(AFC U-16女子選手権)は3位で本大会出場を決めた。その後、3度の海外遠征と2度の国内遠征を経て、今回が本大会前最後のキャンプとなった。

 招集されたメンバーは25名。各選手の所属チームは、なでしこリーグ1部からチャレンジリーグ(3部にあたる)、高体連所属の高校チーム、なでしこLクラブのユースチームまで、幅広いカテゴリーに及んだ。楠瀬監督はその狙いをこう話す。

「この年代は、(女子サッカー全体の)選手層を厚くしていくことが目的のひとつです。各地で頑張っている選手やチームから呼んで刺激を与えて、多くの選手にこういう(代表候補合宿の)緊張感を経験させて、またチームに戻れば指導者もその気になってくれる。そういうことを考えながら(U-17女子W杯の)優勝を目指しています。大仕事ですけど、それが醍醐味ですね」(楠瀬監督)

練習中は笑顔も見せていた楠瀬直木監督(写真:Kei Matsubara)
練習中は笑顔も見せていた楠瀬直木監督(写真:Kei Matsubara)

 最終的なメンバーは21名に絞られる。これまでチームを支えてきた主力数名がケガなどで今回の合宿に招集されておらず、選考は最後まで難航しそうだ。サプライズ選出もあるかもしれない。

【期待とプレッシャーの中で】

 過去のU-17女子代表が華々しい結果を残してきた分、このチームへの期待値も自然と高まり、それは選手たちにとって良いプレッシャーになっているようだ。だが、これまでとは異なる厳しい条件も揃っている。

 優勝した14年大会(コスタリカ)では、チームの中心だったMF長谷川唯(日テレ・ベレーザ)とMF杉田妃和(INAC神戸レオネッサ)がその前の12年大会(アゼルバイジャン/ベスト8)を経験しており、準優勝だった前大会ではキャプテンとしてチームをけん引したMF長野風花(仁川現代製鉄レッドエンジェルズ)が14年大会の経験者だった。だが、今回は全員が初の世界大会となる。

 また、開催国のウルグアイは日本のほぼ真裏。移動時間の長さ(28時間)や時差(-12時間)、南米特有の深い芝や食事面など、環境面の難しさも立ちはだかる。

 だが、そんな逆境も楽しむぐらいの精神力がなければ、優勝は見えてこないだろう。準優勝だった前回大会に続き、今回もU-17日本女子代表を率いる楠瀬監督は、選手たちの“大人しさ”に多少の物足りなさを感じているようだ。

「僕が言うことをよく聞いてくれるのはいいのですが、いい意味でもっと裏切って欲しい。南米に行って南米のチーム(初戦はブラジル)と対戦するので、杓子定規じゃダメだと思うんです。自分たちのアイデアとか、ひらめきとか天真爛漫さとか、そういう良さがもっと出てくるといいのですが…」(楠瀬監督)

 そう話す指揮官は、練習や試合中もストレートに檄を飛ばし、選手たちの奮起を促していた。

 合宿2日目にはふたば未来学園高校サッカー部(男子)とのトレーニングマッチ(30分×4本)を行い、結果は2-4で敗戦。最終日には、選手として2011年のW杯優勝を経験した矢野喬子監督率いる帝京平成大学女子サッカー部とのトレーニングマッチ(35分×2本+45分×1本)を行い、結果は0-0だった。

【トレーニングマッチで光ったアピール】

 試合内容に目を向けると、DF根津茉琴(JFAアカデミー福島)とMF中尾萌々(ジェフユナイテッド市原・千葉レディースU-18)の2人が怪我で途中離脱したこともあり、中盤と最終ラインは本職以外のポジションで起用された選手が多く、組み合わせも流動的だった。そのため、連係面のハンデは否めなかったが、合宿を通じたテーマでもあった「アクションを起こす」ことを徹底。攻撃ではロングボールも積極的に使っていた。

「ウルグアイの深い芝で、初戦はブラジル。日本だったら(パスを)つなげるところも、そこまで甘くないと思います。少し荒いサッカーになってしまった部分がありますが、その中でもう一つ先にいって欲しいと思っていました」(楠瀬監督)

 男子高校生のスピードや帝京平成大の連動した守備に対し、苦し紛れのロングボールやミスから押し込まれる場面もあったが、個々に目を向けると、周囲の環境に左右されることなく、持ち味をしっかりとアピールした選手が何人かいた。

 前線でいい動き出しが光ったのが、セレッソ大阪堺レディースのFW田中智子だ。本職はFWで、前線でのポストプレーやターンからシュートに持ち込む形を得意としているが、男子高校生とのトレーニングマッチでは右サイドハーフで出場。左からのクロスに良い形で合わせてゴールを決めた。

FW田中智子(写真:Kei Matsubara)
FW田中智子(写真:Kei Matsubara)

 

 田中は今シーズン、なでしこリーグ1部で出場機会を得ており、今年5月のノジマステラ神奈川相模原戦では1部初ゴールも決めている。また、同じポジションの先輩には、8月のU-20女子W杯で5得点を決め、シルバーボール(MVP2位)とブロンズブーツ(得点王3位)を獲得したFW宝田沙織がいる。試合後には、

「レベルの高さとか、プレスの速さとかが全然違うので、その部分でしっかり(先輩に)追いつきたい。チャンスで決めきれる選手になりたいです」(田中)

 と、力強く語った。

 他にも、中盤では初招集のMF西野朱音(常磐木学園高)がボランチで力強いボール奪取からの攻撃参加を見せていたし、所属チームでサイドを主戦場としているMF大西若菜(浦和レッズレディースユース)は、初挑戦のボランチで、絶妙のスルーパスからゴールを演出。

 また、このチームの初期メンバーの一人でもあるMF伊藤彩羅(日テレ・メニーナ)はどのポジションでも安定した巧さで、ゲームをコントロールしていた。

GK大場朱羽(写真:Kei Matsubara)
GK大場朱羽(写真:Kei Matsubara)

 

 ゴール前では、GK大場朱羽(JFAアカデミー)が安定したセービングでチームを落ち着かせていた。この年代の守護神として海外遠征を重ね、外国勢のシュートレンジの広さやパワーを体感し、自身の課題と向き合ってきた。171cm・63kgの恵まれた体格も魅力だ。

「得意なのはクロスの対応で、ハイボールに対して出て行くタイミングは、たくさん練習を積んでいるので自信があります。一番の課題は声。味方のプレーが上手くいかなかった時に励ましたり、声でチームの雰囲気も変わってくるので、もっと大きい声で伝え切れるようになりたいです」(大場)

 大場に限らず、声はチーム全体の課題といえそうだ。守備の要でもあるセンターバックのDF松田紫野(日テレ・メニーナ)が今回の遠征に帯同していなかったことも、ラインコントロールに苦戦した一因だろう。今回の合宿ではリーダー不在の感が否めなかった。松田のチームメートでもあるDF後藤若葉(同)は、

「代表だと、周りの選手に頼ってしまう部分がある。ここでも頼られるような選手になれるように、もっと声を出して、体を張って守りたい」(後藤)

 と話していた。代表活動で集まれる時間は限られているからこそ、一人ひとりがリーダーになるぐらいの強い気持ちで、コーチングや励ましの声だけでなく、時には互いに厳しく要求し合っていくことがチームを成長させるはずだ。

 日本は11月13日のグループステージ初戦でブラジル、同16日の第2戦で南アフリカ、20日の第3戦でメキシコと対戦する。この後、10月中旬のメンバー発表を経て、大会直前合宿に入り、本大会に臨む。

 本番までに残された時間は少ないが、直前合宿から本大会までの残り時間をどれだけ濃いものにできるかがカギになる。このチームが本大会でどんな変化を見せてくれるのか、楽しみだ。

【復活を遂げたJヴィレッジ】

 最後に、今回の合宿地となった福島県楢葉町のJヴィレッジについて記しておきたい。東京電力福島第1原発事故後、今年7月に約7年4カ月ぶりに再開した施設は、見事な復活を遂げていた。

充実した宿泊棟(上)と、全天候型練習場(下)(写真:Kei Matsubara)
充実した宿泊棟(上)と、全天候型練習場(下)(写真:Kei Matsubara)

 合宿中、美しい天然芝と人工芝のピッチや、全天候型練習場、5000人収容のスタジアムなども使用。現役時代、震災前のJヴィレッジを拠点としていた東京電力女子サッカー部マリーゼでプレーしていた宮本ともみコーチの言葉からも、その感動が伝わってきた。

「(東日本大)震災の後に2回来て、その時は復活することは絶対に無理だろうと思っていました。でも、何もなかったかのように復活していて…感動しましたね。ただ、(U-17の)選手たちは何も知らない。今後も忘れ去られることがないように、そういう出来事は伝えていきたいと思います」(宮本コーチ)

 グラウンド利用や宿泊施設もすでに始まっているため、ぜひ多くの人に体験してほしいと願う。