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内容も圧倒的。個も組織も進化したベレーザが4連覇に突き進む

松原渓スポーツジャーナリスト
ゴールを決めた植木(左)と籾木(中)、中盤で躍動した長谷川(右)(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

【流れを決定付けた先制点】

 巧くて、力強いーー。

 79分の3点目が決まった瞬間、「強い…」と、思わず言葉が漏れた。

 なでしこリーグ第12節、首位の日テレ・ベレーザ(ベレーザ)と3位の浦和レッズレディース(浦和)の上位対決は、ベレーザが3-0で快勝。手に汗握る拮抗した前半から一転、後半はベレーザが力の差を見せつける内容となった。

 試合の流れを一変させたのが、53分のFW植木理子の先制ゴールだ。

 8月のU-20女子W杯で、6試合5ゴールの活躍でヒロインの一人になった19歳のストライカーは、年齢制限のない国内リーグでもその得点能力の高さを証明している。この試合は左サイドハーフで先発。ボールを持つと、マッチアップした浦和のDF栗島朱里に何度も1対1を挑んだ。前半はトラップの瞬間を狙われたり、コースを読まれて失う場面が続いたが、緩急の効いたステップから鋭く繰り出される“ジャブ”は、浦和守備陣の研ぎ澄まされた集中力を少しずつ削り取っていたのだろう。

 そして、リーグ戦5試合連続無失点だった浦和の牙城は、ついに破られた。

 53分、MF長谷川唯が高い位置でインターセプトしたボールを受けた植木は、中にカットインする動きを見せると、対面する栗島が中を切ろうとした瞬間に右足で切り返し、なめらかなタッチから鋭いシュートをファーサイドに突き刺した。

 ベレーザの本当の怖さは、相手が前がかりになった状況で発揮される。点を取るためにラインを上げた浦和に対し、ベレーザは効果的なカウンターを繰り出していった。61分には右サイドハーフのFW籾木結花のゴールでリードを広げ、79分には再び植木のゴールで3-0。

 試合後の取材エリアで、浦和の石原孝尚監督はまず「完敗です」と一言。優勝するために引き分けは視野に入れず、勝利のみを目指した一方で、ベレーザに対しては点を取りに行くことが大量失点を招く諸刃の剣になることも改めて強調した。

【具現化されつつあるビジョン】

 ベレーザは現在リーグ戦は6連勝中で、6試合を残して2位以下に勝ち点「3」差で首位をキープしており、4連覇に向けて着実に前進している。

 ベレーザとの直接対決を残している2位のINAC神戸レオネッサをはじめ、他のチームにも優勝の可能性はあるが、今年のベレーザは、チャンスを作り出す力において頭一つ抜けている印象だ。

 それは、鮮やかなショートカウンターからテンポの良いビルドアップ、そして力強い個人突破まで、ベレーザが浦和戦の後半に作った9つのシュートシーンにも表れていた。

 シーズン前半の4、5月頃と比べると、全体の動きがより流動的になった。個々がカバーするエリアが広がり、連係もスムーズになった。

 チームカラーとも言える連係の良さやテクニックを生かして戦術を進化させ、選手個々の総合力を上げていくーー今年からチームを率いる永田雅人監督の狙いは、着実に具現化されつつある。就任直後の2月に指揮官が語っていたチームビジョンはこうだった。

「プレーエリアを広げたり判断の選択肢を増やすことなど、個人の技術や戦術をグループやチームに影響するまでに高めていきたい。彼女たちがサッカーにより深い興味を持つことがチームの結果にもつながり、代表や世界にもつながっていくと思います」(永田監督/2月)

 

 シーズンの序盤は持ち前の連動性が影を潜め、新たな戦術の浸透には時間がかかると思われたが、予想以上のスピードで完成度は高まっている。4、6、7、8月と続いた代表活動期間中は、最大で11人もの選手が抜けたが、残った選手を軸に土台を固め、8月のリーグカップでは優勝。選手層の厚みも増し、リーグ戦と皇后杯を合わせてシーズン3冠も夢ではない。

 

 浦和戦でひときわ目を引く活躍を見せたMF長谷川唯は、チームの変化をこう説明する。

「シーズンの最初は(ボールを持った際に)“まずは広げる”ということに取り組んでいた中で、プレーに制限がかかっていたんですが、今はその基本ができてきた中で、3人目の動きや追い越す動きなど、去年までのプレーも出せるようになってきました。段階を踏んできた中で、(私自身も)やっと自分がやりたいプレーができるところまで来た感じです」(長谷川)

 昨シーズンの長谷川は左サイドハーフを主戦場としていたが、今年は4-1-4-1の左インサイドハーフが定位置。試合の中では、サイドハーフ、サイドバック、時にはセンターバックまで、昨シーズン以上に広いエリアをカバーしている。90分間、疲れ知らずのスタミナでピッチを所狭しと走り回るそのプレーぶりは、実に楽しそうだ。

 ボールを持った際の引き出しが多く、足下のテクニックに目が行きがちだが、長谷川は首を振るタイミングやポジショニングも含めた“準備の質”が高いため、いい状態でボールを受けて前を向くことができ、持ち前のアイデアを存分に発揮できる。また、シーズン序盤に比べて周りの選手と呼吸が合ってきたこともパフォーマンスの向上に影響している。

「(11人が)全体的にいいポジションを取れているので、右も左も真ん中も、どこでも(パスが)出せる。その中で、一番チャンスになりそうな選択肢を選んでいます」(長谷川)

 その中で、自分自身の成長の手応えもあるのだろう。サッカーの話をする長谷川の表情も、これまで以上に生き生きとして見える。

 

 周囲との関係性という点では、この試合で長谷川とたびたびポジションを入れ替わっていたのがサイドバックのDF有吉佐織だ。有吉は状況に応じてボランチやインサイドハーフの役割もこなしていたが、それは右サイドバックのDF清水梨紗も同様で、外回りのオーバーラップだけでなく、“ハーフスペース”(※)を使ってビルドアップにも参加。サイドバックの役割の多様化は、昨年から大きく変化したことの一つだ。

「最初の頃は中でボールを受けるのが怖かったんですが、(最近は)代表でボランチをやっていることもあって、躊躇せずに受けられるようになりました。中が空いていたら進入するし、外回しなら(植木)理子のサポートをしながら(外から)突破にかかろうと。相手に修正されたら立ち位置を変えようと思っていたんですが、中に入ることで相手が嫌がっているところがありましたね」(有吉)

 終盤、有吉は中央をドリブルで持ち上がり、3点目の起点になった。

 従来のテクニックや連動性に加えて、こういう新たなオプションにも対応しなければいけないのだから、対戦相手にとっては厄介極まりないだろう。

(※)ハーフスペース=ピッチを縦に5分割した際に、中央とサイドの中間に位置するスペース。

【サイドで見せる新たな魅力】

 今年、ベレーザの攻撃陣は、リーグ3連覇を達成した昨年を超えるペースでゴールを量産している。それは、アタッカーの個の力が高まっていることも要因だろう。2ゴールを決めてヒロインになった植木の決定力もさることながら、この試合で2点目を決めた籾木の巧さにも目を見張った。

 61分、カウンターから相手陣内の中央あたりでボールを受けると、ゴールを横切るようにドリブルしながら、対面する相手のアプローチを巧みに牽制し、最後は得意の左足でゴール右隅に鋭いグラウンダーを突き刺した。

 籾木はシーズン序盤はケガの影響もあり、5月19日のリーグ第7節でようやく公式戦のピッチに立った。この復帰戦でシーズン初ゴールを決めると、8月のアジア大会で代表にも復帰し、2ゴールを決めて金メダルに貢献。そして、リーグ戦再開後は3試合連続でフル出場し、2試合連続ゴールと好調だ。相手の逆を取るプレーや左足の多彩なキックが持ち味だが、浦和戦では、サイドでキレ味鋭いドリブルを何度も見せていた。そんな引き出しもあったのかと驚いたが、それは理論と積み重ねを大切にする彼女らしいトレーニングの成果でもあった。

「進む方向によって減速する足と加速する足のステップについて、フィジカルコーチにメニューを組んでもらっています。それが少しずつ、試合でも使えるようになってきたと思います」(籾木)

 左利きのドリブラーのプレーを参考にするなど、海外の試合映像からも積極的にヒントを得ている。

「監督からブラジルリーグの映像をよくもらうんですが、ターンとか間合いとかが細かく分けられているので、その動画を見てイメージを作ったり、メッシやマンチェスター・シティのベルナルド・シルバのプレーも参考にしています(籾木)

 永田監督がもたらした変化は様々な局面で形になってきているが、籾木を含め、両サイドハーフが積極的に仕掛けていく形は、最も分かりやすい変化と言える。

 浦和戦では途中交代で起用されたFW宮澤ひなたやFW小林里歌子ら、スピードとテクニックを兼ね備えた有望な若手選手もいるため、交代で変化がつけられるのも強みだ。

 結果だけでなく、内容でも魅せながら圧倒するベレーザの独走に待ったをかけるチームは出てくるだろうか。残り6試合のリーグ戦からも目が離せない。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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