変革期を迎えたアルビレックス新潟レディース。攻撃的なサッカーで、上位進出のきっかけをつかめるか?

変革期を迎えた新潟(写真:Kei Matsubara)

【産みの苦しみ】

 スロースターター。

 それは、アルビレックス新潟レディース(新潟)にとって、払拭したいイメージの一つかもしれない。

 リーグ戦では序盤の成績が振るわず、ここ2シーズンのリーグ戦は5位。後半戦で巻き返したものの、優勝争いには絡めなかった。

 しかし、年末に行われる皇后杯では、直近の7大会中4大会で決勝に進出している。それだけの地力を備えているのだから、リーグ戦でもシーズン序盤に勝ち点を積み重ねることができれば、さらに上の順位を狙えることは間違いない。

 しかし、新潟はなかなかその「壁」を越えられずにいる。

 昨年はシーズン中にケガ人が続出したことが、チームの歯車を狂わせた一つの要因だった。また、冬は雪が積もり、屋外での練習ができなくなることも、コンディション調整を難しくする要因と言われる。

 では、今シーズンはどうかーー。

 リーグ前半戦の成績は、3勝2分4敗で10チーム中7位。残念ながら、今年もスタートダッシュはうまくいかなかった。

 だが、今年は、例年とはチームを取り巻く状況がかなり異なる。

 新潟は今シーズンから、山崎真監督を新監督として招聘した。同氏は、サンフレッチェ広島や名古屋グランパスなど、Jリーグチームの育成組織で豊富な指導経験を持つ。

 新体制でスタートして半年ほどが経つが、山崎監督は、チームの土台の部分から手を加えており、今シーズンの新潟が「産みの苦しみ」を味わうことは必然とも言えた。

 特に、昨シーズンから大きく変わったのが、前線の配置だ。

 ボランチだったMF阪口萌乃は今年はサイドハーフやFWでプレーする機会が多く、サイドハーフだったMF佐伯彩はトップにポジションを上げた。また、左サイドバックだったDF小原由梨愛は一列前のサイドハーフに入り、センターバックのDF中村楓は、最近、本格的にボランチにコンバートされた。また、スタメンの11人の顔ぶれも固定されてはいない。

 新潟には元々、チーム在籍年数が長い選手が多く、各ポジション間で築き上げた確固たるコンビネーションがあった。その強みを一時的にでも失うリスクを負って、これほどの大胆な変革に踏み切った理由は何だったのか。

 山崎監督は、柔和な表情の中にも、毅然とした口調で言った。

「みんなで仲良く手を取り合って(戦う)、という部分はうちの選手たちの良いところなのですが、逆に、(それぞれが)一人で打開していく力が足りないと感じました。シーズン序盤は特に、困難に直面した時に力を発揮できず、自分たちの強みである連帯感も失われてしまうことが多かったので、『逆転できるチーム』を目指したチーム作りを始めました」(山崎監督)

 

 そして、変化に伴う痛みを覚悟の上で、指揮官は選手たちに新たなコンセプトを示した。

 選手をこれまでとは異なるポジションで起用しているのは、個々の新たな可能性を探り、同時に、本来のポジションでより輝かせたいという狙いがある。

 1対1に強く、ボール奪取に秀でたディフェンスリーダーの中村をセンターバックからボランチにコンバートしたのも、その資質を見込んでのことだった。

ボランチでの出場機会が増えている中村楓(写真:Kei Matsubara)
ボランチでの出場機会が増えている中村楓(写真:Kei Matsubara)

「サッカーはどんどん進化しています。その中で、トレンドを追い求めるわけではないですが、沿うようにやっていかないと、もし彼女たちが代表に入って世界と戦うことになった時に面食らってしまう。そうならないようにすることも僕の使命だと思っています。たとえば今、男子の世界ではど真ん中でプレーする、『セントラルミッドフィールダー』と呼ばれる選手がいて、自陣のゴール前まで戻った直後に相手のゴール前まで走る運動量を当たり前のように求められる。そういうことも選手たちに提示していきたいと思っているし、中村にはそのポテンシャルがあると思って、ボランチで起用しています」(山崎監督)

 中村自身も、新たなチャレンジに前向きだ。

「ボランチでプレーすることで、センターバックでプレーしていた時のラインコントロールを『もっとこうすれば良かったな』と、思うことがあります。最終ラインとボランチではボールへの(守備の)アプローチも変わってくるので、両方(のポジション)を自分のものにしたいですね」(中村)

 一方、複数のポジションで遜色ない力を発揮しているのが、阪口だ。阪口は4月のアジアカップでなでしこジャパンに初招集され、6月10日のニュージーランド戦では2トップの一角で初出場。持ち味のテクニックと判断力の良さを生かしたプレーで、3-1の勝利に貢献した。

「いろいろなポジションができることは、逆に(代表への)アピールにもなると思いますし、楽しんでプレーしています」(阪口)

 と、新たなチャレンジに前向きで、前線のゲームメイカーとしての新境地を開拓しつつある。

 もちろん、そういった個々の取り組みをチームとして機能させるためには、時間が必要だ。しかし、リーグ戦の試合数は残り9試合しかない。

 新潟は、後半戦で巻き返せるのか。9月のリーグ戦再開までに、浮上のきっかけをつかむことができるのかーー。

 6月17日に行われたリーグカップの浦和レッドダイヤモンズレディース(浦和)戦は、その光明が見えた試合だった。

【一時は逆転で2点差に】

 この浦和戦からさかのぼること3週間前、同じ相手にホームで0-3の完敗を喫した一戦(リーグ第8節、5月27日)は、新潟にとって一つの転機だった。

「さすがに、今のままでは守備の力を示せるレベルにないと感じた」という指揮官は、その前後から、攻撃的な戦い方に舵を切っている。翌週のノジマステラ神奈川相模原戦(●0-1)で、中村を本格的にボランチにコンバートしたのも、その一環だったという。

 結果はノジマのGK久野吹雪のスーパーセーブもあり、0-1で敗れたが、新潟の決定機は少なくなかった。

 そして、2週間後の浦和戦で、新潟は攻撃力をさらにパワーアップさせた。

 前半7分に最終ラインの背後を取られて先制を許したが、4分後に見事な連係から、最後はFW園田瑞貴が決めて1-1。後半はさらにギアを上げ、51分に佐伯のゴール、58分には園田の2点目で3-1とリードを広げた。その後、ミスとセットプレーで同点に追いつかれ、試合は3-3でタイムアップ。

 守備面ではGK平尾知佳のビッグセーブに救われた場面が多く、明確な課題が残ったが、それを差し引いても、計17本ものシュートを放った新潟の攻撃面は迫力満点だった。

 中村はボランチで初アシストを記録。ゴール前で2度の決定機を落ち着いてゴールに沈めた21歳の園田の活躍も光った。そして、その攻撃を後方から支えたボランチの上尾野辺の存在感は、やはり、大きかった。

【チームを牽引する背番号10】

 新潟で13年目を迎える上尾野辺は、誰もが認める新潟の大黒柱だ。

 しかし、本人は、そんなことは全く気にしていない様子。こちらが拍子抜けしてしまうぐらい、いつもクールで、さっぱりしている。その人柄も、信頼を集める理由なのだろう。

攻守を牽引する上尾野辺めぐみ(3月24日 千葉戦 写真:西村尚己/アフロスポーツ)
攻守を牽引する上尾野辺めぐみ(3月24日 千葉戦 写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 ピッチでは、周囲を生かすべく黒子役に徹することもある。しかし、ボールは自然と彼女の元に集まる。そして、時々、想像もしなかったプレーで観客をドキッとさせる。

 浦和戦でも、ここぞという場面でのスルーパスや、左足で糸を引くような弾道のフリーキックから決定機を演出し、観客を沸かせていた。

 3-3というスコアについて、勝ち切れた試合だったと思うか聞いてみると、「どっちのチームも5、6点ぐらいいけるんじゃないか、という試合でしたね」と即答し、笑った。守備的にプレーしているように見えても、その目はいつも攻撃に向いているのだ。

 山崎監督も、上尾野辺の攻撃センスに絶対的な信頼を寄せ、「本当は、FWで(リーグ)得点王を狙えるぐらいの能力があると思っています」と話す。

 その意味でも、新潟が後半戦の巻き返しを図る上で鍵になるのは、やはり上尾野辺だろう。

 浦和戦で見せたような攻撃的な戦い方が安定すれば、彼女の攻撃参加の機会も自然と増えるはずだ。

 2点取られても、3点取り返すーー。

 堅守のイメージが強かったこれまでの新潟からはちょっと想像がつかないが、後半戦の新潟は、新たな一面を見せてくれるかもしれない。