【ベスト4進出】

 第39回皇后杯全日本女子サッカー選手権大会は、11月18日(土)と19日(日)に準々決勝が行われ、ベスト4が出揃った。

 

 各地で熱戦が繰り広げられる中、AC長野パルセイロ・レディース(以下:長野)とジェフユナイテッド市原・千葉レディース(以下:千葉)の一戦は、90分間で決着がつかず、延長戦に突入。計120分間に及んだ接戦を、千葉が制した。

 お互いに得点がなく、0-0の膠着した試合が動いたのは、延長前半6分。千葉のDF大矢円佳(まどか)がピッチに立つと、そのわずか2分後、値千金の決勝ゴールが生まれた。

 長野陣内の右サイド中央で、MF鴨川実歩がゴール前にクロスを入れた瞬間、ペナルティエリアの左手前に立っていた大矢はゴールに背を向けていたが、体を左にねじりながらヘディングでファーサイドに技ありのゴールを決めた。

 途中出場の鴨川がアシストしたことに加え、ディフェンダーを本職とする大矢を延長の切り札としてトップに起用した千葉の三上尚子監督の采配が、見事に的中した。

「大矢は中学生の頃から見ていた選手ですが、中学時代はFWのポジションをやっていましたし、ヘディングの強さやセットプレーも含めて、攻撃(的なポジション)の形も何試合かやっていました。彼女は空中戦に強いので、周りが思い切ってクロスを入れやすくなると思い(FWで)入れました。ケガで苦しんだ2シーズンだったので、(活躍してくれて)私も嬉しいです」(三上監督)

 千葉はこの勝利によって、準決勝進出を決めた。

皇后杯でベスト4に進出した千葉(c)Kei Matsubara
皇后杯でベスト4に進出した千葉(c)Kei Matsubara

【死守したゴールマウス】

 千葉は、「走る、戦う」というチームコンセプトの下、ハードワークと堅守をベースにしたサッカーで、今シーズンはリーグカップ1部で初タイトルを獲得した。

 この試合でも相手陣内の高い位置からプレッシャーをかけてボールを奪うと、右サイドハーフのMF千野晶子と左サイドハーフのMF成宮唯、2トップのFW深澤里沙とMF安齋結花がポジションを入れ替えながらボールを動かし、主導権を握った。しかし、良いラストパスが通らず、長野の最終ラインを崩しきれない。

 そんな中、試合を通して、センターバックのDF櫻本尚子を中心に守備は安定していたが、87分には長野のルーキー、FW鈴木陽(はるひ)にフリーでゴール前に抜け出される最大のピンチを招いた。

 しかし、この場面はGK根本望央(みお)が的確な予測で前に出てコースを塞ぎ、体に当ててブロック。ファインプレーで、延長戦の決勝ゴールに至る流れを呼び込んだ。

 根本は試合後、先制してからの残り20分強を「時計を見ながら、早く終わらないかな、と。長く感じました」と振り返ったが、最後まで集中を切らさず貴重な1点を死守した。

 千葉は、約5シーズンにわたってゴールマウスを守ってきたGK山根恵里奈が、6月いっぱいで海外挑戦のためにチームを退団。そんな中、根本は7月8日のリーグカップ第7節で先発の座を得ると、その後も安定したパフォーマンスで無敗を続け、1部での初タイトルに貢献した。

 相手FWとの1対1や、飛び出しのタイミング、ディフェンスラインの裏のスペースのカバーに強さを見せる根本のプレーには、長い下積み経験が活きている。

「これまでは試合に出られない悔しさもありましたけれど、(山根)恵里奈さんの姿をずっと見てきて、勉強になることがたくさんありました。判断の重要性とかポジションどり、声のかけ方などは、(試合に)出ていない分、学べたことが多かったです。今は試合に出てそれを実践しながら、プレーの幅を広げることを意識しています」(根本)

 鋭い眼光に低い重心でゴール前に立ちはだかる根本の姿は頼もしく、貫禄さえ漂っていた。しかし、本人にそのイメージを伝えると、意外な答えが返ってきた。

「全然ですよ(笑)。私は本当にあがってしまう性格なんです。気にしだすといろいろなことを考え過ぎてしまうので、落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせながらプレーして、とにかく失点しないことだけに集中するようにしているんです」(根本)

 筆者が勝手に抱いていた「肝が据わったイメージ」とは違ったが、根本は自身の繊細な一面を隠すことなく、笑って話してくれた。

【異例の日テレ・メニーナ入団経緯】

 根本がGKとしてプレーするようになったきっかけは興味深い。

 

「小学生時代は幅跳びやハードルなどの陸上が専門で、サッカーは週に1、2回通う程度だったんですが、どんなに上手い選手がいるんだろう?という好奇心から、メニーナのセレクションを受けました」(根本)

 メニーナといえば、多くの代表選手を輩出してきた日テレ・ベレーザの育成組織である。

 そのセレクションで、当時フィールドプレーヤーだった根本にGKの資質を見出したのが、日テレ・メニーナの寺谷真弓監督だった。

 そこで「採る(合格させる)としたらキーパー」という条件つきの合格をもらい、メニーナ入団を決意したことが、根本がGKとしてのキャリアをスタートさせたきっかけだ。

 メニーナ入団後は、ベレーザの練習でも球拾いをしながら、当時、日本女子代表の正GKでもあった小野寺志保をはじめ、トップレベルの選手たちの技術を学んだが、結局、トップチームに昇格する機会は得られなかった。

 その後、根本は2011年に千葉へ移籍。千葉でも、控えGKとして過ごす時期は長かったが、今シーズンの根本のパフォーマンスには、その下積み期間に培ってきた洞察力と忍耐力が、確かに反映されている。

【切磋琢磨し合う2人のGK】

 長野戦の無失点勝利で皇后杯ベスト4進出の立役者となった根本だが、先発の座を保証されているわけではない。千葉にはもう一人、船田麻友という、正GK候補がいる。

 船田は今年2月、ちふれASエルフェン埼玉から古巣の千葉に4年ぶりに復帰した。

 千葉で8年目のシーズンを迎える船田と、7年目を迎える根本は、それぞれ異なる強みを持ち、切磋琢磨してきた。7月以降の公式戦は、根本が10試合、船田が6試合に先発している。

 1対1の対応や飛び出すタイミングに強みがある根本に対し、船田はパスが正確で、シュートに対する反応の良さが光る。

 根本はこの試合で味方へのダイレクトパスがずれる場面があり、自身の課題についても「パスの精度」と即答した。

「フナ(船田)さんのようにボールを蹴り分けられたら、強みになるし、フナさんがいるから、自分も頑張れます」(根本)

 一方、2歳上の先輩である船田の言葉にも、根本に対するリスペクトが滲んだ。

「根本が得意なところは、自分が伸ばさなければいけないところです。切磋琢磨できているし、根本に相応しい競争相手になりたいと思っています」(船田)

 千葉の三上監督は、この試合で勝利に貢献した根本のパフォーマンスを評価しつつ、今後、2人のGKのさらなる成長に期待を込めた。

「試合に出たり出なかったり、という中でメンタルやコンディションの持っていき方も難しいと思いますが、試合の中でいかに自分の特長を出し切れるかという点に期待しています」(三上監督)

 12月21日(木)の準決勝で、千葉はノジマステラ神奈川相模原と、12月24日(日)の決勝進出をかけて対戦する。会場はいずれも、大阪のヤンマースタジアム長居だ。

 「走るサッカー」を続けて来た千葉は、リーグカップで初タイトルを獲得した。その強みを発揮して、皇后杯でも千葉旋風を巻き起こす可能性は十分にある。

 自身のキャリアにおける新たな転換期を迎え、コンスタントな活躍を続ける根本のパフォーマンスにも注目したい。