FW園田瑞貴の活躍で3試合負けなし。アルビレックス新潟レディースを支える、苦境の中で得た「粘り」

3試合負けなしの新潟(C)松原渓

【貴重な勝ち点「1」】

 流れを変えたのは、20歳のルーキー、園田瑞貴だった。

 2点ビハインドの54分にピッチに立つと、まずはその11分後。左サイドでMF阪口萌乃とワンツーをかわしてペナルティエリア内に抜け出し、角度のない位置からキーパーのニアサイドを抜く技ありのゴールで反撃ののろしを上げた。

2得点に絡んだ園田瑞貴(C)松原渓
2得点に絡んだ園田瑞貴(C)松原渓

 そして、77分には、左足のアウトサイドで相手ディフェンダーの意表をつく絶妙なスルーパスをゴール前に送り、阪口の同点ゴールをおぜん立てした。

 なでしこリーグ第13節、7位のノジマステラ神奈川相模原(以下:ノジマ)と8位のアルビレックス新潟レディース(以下:新潟)の一戦は、2-2のドローで勝ち点1を分け合った。

 新潟は、これで公式戦3試合負けなし。リーグ前半戦の連敗が響き、降格圏ギリギリまで順位を下げている新潟にとって、貴重な勝ち点1を得た。

 試合はピッチに強い風が吹く中でスタート。新潟は前半、あえて風下を選択した。

「前半はしっかり耐えて、(風上になる)後半にチャンスを活かそうと考えていました」(新潟・辛島啓珠監督)

 そして、辛島監督が後半の「切り札」として準備していたのが園田だ。結果的に、園田が出るまでに2失点してしまったのは想定外だったが、その狙いは的中。後半は負けていることを感じさせない、落ち着いたゲーム運びで2点を返し、逆転の機運も高まった。

 武蔵丘短期大学から新潟に加入して1年目の園田は、ルーキーイヤーを輝かしいものにしつつある。ケガから復帰した6月24日のAC長野パルセイロ・レディース戦で、初ゴールを含む2得点で鮮烈な印象を残した。そして、それ以降、日テレ・ベレーザ戦、INAC神戸レオネッサ戦と、リーグ上位の強豪チーム相手にもゴールを決めている。このノジマ戦も含めると、公式戦6試合で3ゴール1アシスト。その存在感は、日に日に増している。

 園田の最大の魅力は、繊細なタッチのボールコントロールから多彩なプレーを生み出す左足だ。狭いスペースでの足技は秀逸で、フットサル女子日本代表でプレーした経歴も持つ。ゴール前の駆け引きから狙ったコースに確実に決める精度抜群のシュートには、大物感が漂う。

 園田が目標として挙げるのは、新潟の先輩でもあるMF上尾野辺めぐみだ。

 園田と同じ20歳でリーグにデビューして以来、新潟一筋で12年目を迎える上尾野辺は、汗かき役からゲームメイカー、ゴールゲッターまであらゆる仕事をこなす、新潟のコントロールタワーだ。

「いつか、メグさんみたいなチームの中心選手になりたいです」

 

 初ゴールを決めた試合後、園田は初々しい表情で、そう話していた。

【苦しい台所事情の中で】

 新潟は1部に昇格した2007年以来、降格したことが一度もない。また、皇后杯では直近の6大会中4大会で決勝に進出した、地力のあるチームだ。

皇后杯では決勝進出の常連になった(写真はアフロスポーツ・2016年皇后杯決勝)
皇后杯では決勝進出の常連になった(写真はアフロスポーツ・2016年皇后杯決勝)

 上尾野辺を筆頭に、FW大石沙弥香(9年目)、MF佐伯彩(9年目)、DF小原由梨愛(9年目)、DF中村楓(8年目)ら、在籍年数が長い選手が多く、選手間の息の合った連携が攻守を支えている。

しかし、今シーズンは7節から10節までに4連敗を喫するなど、波に乗れず、リーグ前半戦は苦しい戦いを強いられた。

 その原因の一つに、けが人が多く、メンバーやポジションを固めきれない苦しい台所事情がある。

 

 昨シーズンまで中盤を支えたMF山田頌子(引退)、MF斎藤友里(引退)、MF高橋悠(移籍)らが退団し、シーズン前の2月には左サイドハーフのMF八坂芽依が右ひざ前十字じん帯損傷で離脱。

 6月には、センターバックとしてチームを支えてきたDF左山桃子が左ひざ前十字じん帯断裂でシーズン中の復帰が難しくなり、中盤だけでなく、守備も再編成を余儀なくされた。そして、左山の穴を埋める形でセンターバックに定着していたDF瀬倉春陽までもが、8月上旬に左ひざ前十字じん帯断裂で戦列を離れることに。

 新潟の苦悩は続いている。

 

 前十字じん帯断裂(損傷)は、ホルモンバランスや骨盤の幅などが影響するため、特に女子アスリートに多いケガと言われる。復帰までに6~8か月を要する大ケガであり、受傷すればシーズン中の復帰は難しい。

 そして、主力にこれだけ負傷者が続出すれば、築き上げてきたチームのスタイルを維持するのは困難だ。それでも、6月末の長野戦(●2-5)の後に話を聞いた際、上尾野辺の言葉に悲観的なニュアンスは感じられなかった。

「経験のある選手と、(今シーズンから)試合に出始めた選手の違いはあります。その点は試合を通して慣れていくことが大切で、今は我慢の時期だと思います」(上尾野辺/6月24日試合後)

 チームが直面する様々な局面を乗り越えてきた上尾野辺の目には、苦境から抜け出すための道筋が明確に映し出されていたのだろう。

 その言葉通り、新潟はケガで離脱した選手に代わって、新たに先発候補に加わった園田やFW川崎(※)咲耶らが試合を重ね、経験のある選手たちとのコンビネーションの中で活かされる術を体得しつつある。

 11節のINAC戦(8月20日)は先制されながらも園田の同点ゴールで追いつき、12節のちふれASエルフェン埼玉戦(8月27日)では、川崎(※)が決勝ゴールを決めた。そして、このノジマ戦では再び、園田が輝いた。

(※)「崎」の「大」の部分は「立」

【3試合負けなし。新潟が見せる粘り強さの理由】

 2点をリードしている状況から追いつかれたノジマの菅野将晃監督は、試合後、

「負けている状況での新潟のゴールへの執念と圧力、特にボックス(ペナルティエリア)内での迫力は、うちも見習わなければいけない」

 と、称賛を送った。

 残り40分弱で2点ビハインドの状況を覆す試合展開は、新潟の今シーズン前半戦の戦いぶりから考えると、大きな変化である。

 後半、ピッチに立つ全員が「逆転できる」と信じられるだけの根拠を持てなければ、1点を返すことすら不可能だっただろう。

 新潟の選手たちは、何を拠りどころにしていたのか。

 試合後、上尾野辺は次のように話した。

「リーグの後半戦が始まってから負けていないことが、一人ひとりが最後まで諦めないで戦えた要因だと思います」(上尾野辺)

 ケガによる主力の離脱が続く中で、センターバックには、昨シーズン、FWからセンターバックにコンバートされたDF久保田麻友が定着。ディフェンスリーダーでもある中村とのコンビネーションは良く、守備は安定しつつある。

 前半と後半で、柔軟に戦い方を変えた修正力も光った。

 新潟は、風下だった前半は自陣に引いてカウンター狙いを徹底。前半23分に左コーナーキックから失点したが、追い風を受けてファーポストギリギリに落ちたノジマのDF平野優花のシュートは、防ぐことが難しかった。

 そして、風上になった後半は、ノジマの最終ラインに高い位置からプレッシャーをかけ、ボールを奪った後はしっかりとつないで攻撃することを徹底した。

 

 右サイドハーフの佐伯は、ハーフタイムに修正したことについて、次のように話した。

「前半は中盤で相手にフリーで持たれる場面が多かったので、必ず一人、(プレッシャーに)いこうと話して、そこ(中盤)から押し上げられるようになったのは良かったと思います。それから、セカンドボールをもっと早く拾って、ラインを早く押し上げることを意識しました」(佐伯)

 自分たちの最終ラインを上げたところで中盤のクリアが中途半端になり、ノジマのカウンター攻撃から51分に2失点目を喫したが、それ以降は狙い通りに中盤で主導権を握り、徐々にチャンスを増やした。前半、わずか3本にとどまったシュートは、後半になって11本に増えた。

 リーグ中断期間に取り組んできた有酸素トレーニングも、功を奏している。

「(前半から)後半に向けて回復を早くして、最後まで走りきれるようにするために、トレーニングを変えました」(辛島監督)

 試合中の動きに即した持久力やフィジカルを培うために、きつい負荷のトレーニングもこなした。運動量の多いサイドで、佐伯はその効果を実感しているという。

「ジョギングしながら、ステーションがあるところではスピードを上げる、という感じで、サッカーの動きに似た有酸素の動きを繰り返します。(トレーニング中は)辛いのですが、試合中は身になっているな、と実感しています」(佐伯)

 逆転勝利とはならなかったが、この引き分けから新潟が得たものは大きい。

  

 上尾野辺は今シーズン、チーム事情から中盤の底でバランスを取ることを優先してきたが、今後に向けて、自身の得点にも意欲を見せた。

「今は守備の意識が強く、攻撃は前目の選手や(ボランチの阪口)萌乃に任せていますが、(今後は)ポゼッションの中で、前に顔を出す場面を増やしたいですし、点も獲りたいですね」(上尾野辺)

チームの司令塔、上尾野辺めぐみ(写真はアフロスポーツ・2016年皇后杯準決勝)
チームの司令塔、上尾野辺めぐみ(写真はアフロスポーツ・2016年皇后杯準決勝)

 リーグ戦は残り5試合。苦境の中で得た「粘り」を武器に、上位を目指す新潟の戦いに注目だ。

 

 新潟は次節、9月10日(日)に、ホームの新潟市陸上競技場で、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースと対戦する。