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オランダ戦から中3日で臨むベルギー戦。なでしこジャパンはさらに上のステージを目指す(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
積極的にコミュニケーションをとってディフェンス陣をけん引するキャプテン熊谷

ベルギーに遠征中のなでしこジャパンは、日本時間の6月14日(水)午前3時00分(現地時間6月13日(火)午後8時00分)から、Stadium Den Dreef Louven(ルーヴェン/ベルギー)でベルギー女子代表との親善試合を行う。

チームは9日(日本時間10日)にオランダ(ブレダ)で行われたオランダ女子代表との親善試合で1-0の勝利を収め、試合翌日の午後にベルギーのTubizeに移動。ベルギーサッカー協会のナショナルトレーニングセンターで、11日と12日の2日間、約1時間半のトレーニングを行った。

9日のオランダ戦では、ロングボールを蹴られても、ディフェンスラインでしっかり奪い切る意識がチームで徹底され、守備面で手応えを得たほか、各ポジションで選手たちが持ち味を発揮し、コンビネーションの向上も見られた。

一方、攻撃に目を転じると、ゴールは横山のミドルシュートによる1点のみ。今回のヨーロッパ遠征のテーマでもある「効果的にボールを動かし、いろいろな形から点を取る」(高倉監督)という課題は持ち越される形となった。

中3日で迎えるベルギー戦は、勝利という結果はもちろん、試合の主導権を握りながら、より多くのゴールを決めることが目標になる。

【新たなチャレンジ。3バック採用が見せる可能性とは?】

日本がこれまで採用してきたスタイルは、4−4−2のシステムがベースになっていたが、ベルギー戦では新たな形を採用する可能性が高い。

それが、3−5−2のシステムである。高倉麻子監督は、このタイミングで新たな形にチャレンジすることを決めた理由について、次のように語った。

「少しずつ、チームの形が見えてきたので、(新しいシステムに)チャレンジしてみよう、と。ゲームの中で、相手のシステムによって(自分たちの戦い方も)変えられるような武器を持てれば、戦い方の幅が広がると思います」(高倉麻子監督)

大きく変わるのは、最終ラインである。4バックと3バックでは、選手同士の距離感や、各ポジションに求められる動きも変わってくる。しかし、高倉監督は、形にこだわっているわけではない。

「最終的には、ポジションもフォーメーションも関係ないサッカーをしたいと考えています。大切なのは(正しく)判断できることで、ディフェンスが3人でも4人でも5人でも関係ないと思っています」(高倉監督)

今まで慣れ親しんだ4バックシステムに加え、今後、対戦する相手チームのシステムに臨機応変に対応するために、3バックでのチャレンジを試みるなでしこジャパン。

準備期間はわずか2日間で、万全とは言えないがーーだからこそ、これまで積み上げてきたチームと個人の対応力が問われる。

3−5−2のシステムで、鍵となるのが、中盤の「5」の両サイドである。4−4−2に比べると中盤が厚くなるため、攻撃面では前線に人数をかけやすくなり、サイド攻撃のチャンスも増える。反面、両サイドの背後のスペースをケアすることが、とても重要になる。両サイドのポジションでプレーする選手たちは、特に攻撃時に、チームのポジションバランスを見極め、片方のサイドの選手が攻撃で上がって味方がボールを失った後、相手チームのカウンター攻撃に備えるために、反対側のサイドの選手は上がらずに対応することが大切である。

サイドで起用される可能性のあるMF中島依美は、新しいシステムでプレーした印象について、次のように話した。

「運動量をすごく求められるポジションだなと実感しています。3バックをやるのは初めてですし、短い準備期間で、合わないところもありますけれど、チームで声を掛け合いながら連携を高めていきたいと思っています」(中島)

中島はボランチ、サイドハーフ、ウイング、サイドバックと、様々なポジションでプレーできるユーティリティー性を持っているが、豊富な運動量も魅力だ。

昨年12月に行われた国内キャンプ(静岡)では、ヨーヨーテスト(20mの往復を一回ずつ、ぺースメーカーの音に従いゆっくりしたスピードからインターバルを挟んで走り、徐々にスピードをあげて持久力を測定する)では、ダントツのトップを記録した。

ベルギー戦では、相手選手との駆け引きの中で先手を取って高い位置を取り、積極的な攻撃参加を期待したい。

また、中島は、現代表チームではセットプレーのキッカーも務めており、日本が得点パターンを増やす上で、キーパーソンになりそうだ。

【ベルギー女子代表】

世界の主要機関が集まるブリュッセル
世界の主要機関が集まるブリュッセル

1830年にオランダから独立したベルギーは、ヨーロッパの中央に位置する小さな国(国土面積は日本の約1/13程度)である。ヨーロッパの交通の要となる首都・ブリュッセルには、多数の国際機関があり、欧州連合(EU)本部もその一つ。人口は約1,100万人で、公用語は、オランダ語、フランス語、ドイツ語である。

また、ベルギーはオランダ同様に夏の日照時間が長く、夜は10時頃まで明るい。

では、ベルギー女子代表とはどのようなチームなのか。

男子代表が「Red Devils(赤い悪魔)」と呼ばれるのに対し、女子代表は「Belgian Red Flames(赤い炎/赤はベルギー代表のユニフォームの色に由来する)」の愛称で呼ばれており、最新のFIFAランキングは23位(日本は6位)。

男子代表は、日韓共催の2002年FIFAワールドカップで日本代表と対戦し、2対2で引き分けたが、なでしこジャパンとベルギー女子代表は今回が初の対戦となる。

ベルギー女子代表はこれまで、ワールドカップとオリンピックの出場経験はないが、今年7月にオランダで開催される女子ユーロ(欧州選手権)2017本大会に初出場することが決まっており、女子サッカーの強化に力を入れている。

4月4日にはスペインと対戦し、1~4で敗れたが、4月11日にはスコットランドと対戦し、5−0で勝利した。 

今回の日本戦に向け、ベルギーは6日(火)からナショナルトレーニングセンターでトレーニングキャンプを行っている。トレーニングをしているグラウンドは日本の隣だが、ベルギーの練習は完全非公開で、二重の柵で覆われており、どのようなサッカーをしてくるのかは未知数だ。

今回、選出されているベルギーの選手の中には、隣国のオランダやフランスのリーグでプレーする選手もいる。中でも、今シーズンからフランス1部リーグのモンペリエHSCでプレーする背番号11のMFジャニス・ケイマン(右サイドハーフ)は、攻撃的な選手で、過去に年代別代表でも活躍し、2015年9月から16年9月まで行われた女子ユーロ予選は8試合中7試合にフル出場。今回のチームでも中心となる選手の一人だ。

【気になるピッチコンディション】

ピッチコンディションは、9日のオランダ戦に続き、不確定要素となる。

なでしこジャパンは、オランダ戦前日の公式練習を試合が行われるスタジアムで行ったが、ベルギー戦はスタジアムでの公式練習がなかったため「ぶっつけ本番」になる。

筆者もスタジアムを見ていないので確かなことは言えないが、ヨーロッパは長めにカットされた天然芝が多いため、ボールが走りにくくなる可能性は小さくない。試合前にどの程度、水を撒くのかによって、ピッチコンディションも変わる。

また、気温も、日によってかなり違う。たとえば、6月11日は日中の気温が27度で蒸し暑いほどだったが、12日は18度まで下がり、風も強かった。天気は変わりやすく、ピッチコンディションは読めない。

初めてのスタジアムで、新たなシステムに臨むなでしこジャパン。不確定要素は多いが、だからこそ、試合の中でチームがどのように機能し、90分間を戦い抜くのかが楽しみである。

ベルギー女子代表戦は、日本時間の6月14日(水)午前3時00分(現地時間6月13日(火)午後8時00分)キックオフ。BS日テレで、6月14日(水)午前2時50分から生中継。

【(2)ベルギー戦前の監督・選手コメント】に続く

紅白戦も白熱する(写真はMF隅田凜)
紅白戦も白熱する(写真はMF隅田凜)
スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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