キャプテンマークに込められた思い。21歳のCB、村松智子の覚醒に膨らむ期待

代表での活躍も期待される村松智子(photo by kei matsubara)

【キャプテンマークに込められた期待】

 右腕に巻いた黄色いキャプテンマークは、まだしっくりきていない。

6月25日、西が丘サッカー場で行われたなでしこリーグカップ予選、日テレ・ベレーザ vs ジェフ千葉レディース戦。この試合でベレーザのセンターバック、村松智子は90分間を通して初めてゲームキャプテンを務めた。キャプテンマークは、巻く者によってはとても重く感じることもあるだろうし、本来つける人物が欠場した時の代理など、形だけのものにもなり得る。その重みは、巻いた者でないと分からない。

 この日のキャプテンマークはただの「代理」ではなかった。カップ戦で若手の積極起用を示唆していた森栄次監督は、控えに回ったキャプテンの岩清水梓がいつもつけているそのマークを、村松に授けた。そして、後半からピッチに入った岩清水は、村松が渡そうとしたそのキャプテンマークを受け取ろうとはせず、最後までピッチでリーダーシップを取ることを求めた。監督とキャプテンの”お膳立て”は、「次は頼んだぞ」という期待の表れでもある。

 

 試合は4-0で日テレが圧勝。守備の要として、無失点勝利はこれ以上ない結果だ。だが、村松の自己評価は厳しかった。

「相手のパスがどこに入りそうか、ということをボランチに伝えて縦パスを防いだり、イワシさんがいつもやってくれていることをやらなきゃいけないと思っていたんですが…今日の試合に関しては、全然出来ていなかった。やっぱり自分のことで一杯になってしまって。見えている部分が狭かったり、ボールが入る前の準備に甘さが出ました」(村松)

 大きなミスをしたわけではないし、低調なパフォーマンスだったわけでもない。前線からプレッシャーをかけてくる相手に対しても、慌てて蹴り出すことなく足元でしっかりつなぎ、チャンスと見れば鋭い縦パスを打ち込む。ジェフLは得点力の高い菅澤優衣香をターゲットに裏のスペースを狙ってきたが、スピードを生かした対応でピンチの芽をことごとく摘んでいった。だが、この日村松に与えられていた「もう一つのテーマ」について、指揮官は物足りなさを指摘した。

「『前をどれだけ動かして、コースを切って自分のところでボールを取れるか』をテーマに起用しました。その点では、指示の声は足りなかった。ある程度年齢やキャリアを積まないと難しい部分もありますが、練習から年齢関係なくやってほしいと伝えています」(森監督)

【最高の見本】

 現在、日テレ・ベレーザはなでしこリーグで首位を走っている。圧倒的な攻撃力に注目が集まりがちだが、リーグ・カップ戦ともに全チーム中最少失点(6/26現在)と、守備の堅さも特徴だ。そのベレーザのディフェンスリーダーと言えば、誰もが口を揃える。”イワシ”こと、岩清水梓である。162cmと、CBとしては決して恵まれた体格とは言えないが、常に2、3手先を予測したクレバーな守備で、日本代表では世界の屈強なFWと渡り合ってきた。

 

 ピッチの中では、年齢も、経験も、体格の差も関係ないーー若い頃から、どんな相手にも物怖じしない度胸とリーダーシップが、彼女を唯一無二の存在にしてきた。海外はおろか、国内の移籍もなく、育成年代も含めてベレーザ一筋。同じく下部組織のメニーナ出身の生え抜きで、その存在を身近に見続けてきた村松にとって、越えなければならないハードルは”最初から”高かったのだ。

 だが、裏を返せば恵まれた環境とも言える。村松は岩清水の背中を見て「世界」を学び、各年代代表にも名を連ねてきた。2010年のU-17女子W杯では日本の準優勝に貢献。昨年8月には、東アジアカップでなでしこジャパンに初招集された。今年6月には、五輪予選敗退後、新たなスタートを切った新生なでしこジャパンのメンバーに選ばれ、世界女王アメリカとの親善試合にも出場した。

 将来を嘱望されるCBはまだ21歳と若く、ベレーザでも代表でも、順風満帆にキャリアを重ねているように見える。だが、実は相当な苦労人でもある。

 「ヤングなでしこ」の愛称で注目を集めた2012年のU-20女子W杯は、直前の合宿中に右全十字靭帯損傷の大ケガを負い、出場を断念。気持ちを奮い立たせてリハビリをこなし、完治を目前にして再断裂の悲劇に見舞われた。さらには半月板損傷も重なり、リハビリ生活は2年以上にも及んだ。選手として大きな成長が見込まれる時期の度重なる大ケガは、10代の少女には心の負担も相当大きかったはずだ。

 だが、そんな瀬戸際でも「サッカーがしたい」という執念を持ち続け、辛抱強く壁を乗り越えた。ひとたびピッチを出ればチームメイトだけでなく、他のチームの選手やテレビ中継でも「カツオ」の愛称(※)で親しまれるほどの愛されキャラでもあり、周囲のサポートも大きかったと聞く。村松のプレーに漂う「揺るぎなさ」は、その経験から培われたものも大きいのだろう。復帰後はコンスタントに試合に出場し続けており、パフォーマンスにも大きな波を作ることなく、昨年は5年ぶりのリーグ優勝に貢献した。

※メニーナの寺谷真弓監督に、アニメ『サザエさん』のカツオに似ていると言われたことがきっかけ

【「世界」を知った90分間】

 今年6月の招集では、フル代表のアメリカと初めて対戦。フル代表では韓国、中国と対戦したことがあるが、世界女王・アメリカとの90分間は「今まで経験した試合で一番きつかった」という。(試合は3-3で引き分け)。2万人以上の観衆が入ったアウェイの雰囲気や緊張感も初体験し、大きな刺激を得た。

 「テレビで見るような選手ばかりだったので、まず最初に圧倒されたというか…。初めてA代表のアメリカと戦って、日本では感じられないスピードや緊張感を経験しました。自分はスピードを売りにしているので、リーグではそれほど負けることはなかったのですが、裏に出されたボールに『行ける』と思っても追いつく早さは相手と変わらなかった。それが衝撃でした。予測や準備を、もっとやっていかなければいけないと感じました」(ベレーザ・オフィシャルマッチデープログラムより)

 今年は三冠を目指して常に高いパフォーマンスを追求しながら、シーズンを通してケガをせずに戦い抜くことも意識している。タンパク質の多い食事を取り、ケガをした膝周りや腿、お尻周りの筋トレや、試合後・練習後のケアは欠かさないという。

  

 闘争心とはおよそ無縁とも思える屈託のない笑顔と穏やかな語り口からは、ケガなどの艱難辛苦を乗り越えてきた悲壮感は感じられない。それは、どんな状況からも進むべき道を見出してきた強さの裏返しでもあるだろう。

 大きな声でリーダーシップをとり、チームを動かす”カツオ”の姿がピッチで見られる日は、そう遠くないはずだ。

アメリカ遠征でさらなる成長を遂げた(photo by kei matsubara)
アメリカ遠征でさらなる成長を遂げた(photo by kei matsubara)