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SNS投稿の判事に下った賠償命令と今後の弾劾裁判の行方に思うこと

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 2015年に女子高生が殺害された事件に関し、仙台高裁判事によるSNS投稿で精神的苦痛を受けたとして遺族が提訴した裁判で、東京地裁はその請求を一部認めた。罷免の可否を判断する弾劾裁判の行方が注目される。

どのような事案?

 報道によれば、次のような事案だ。

「東京地裁は…44万円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。不適切とされた3つの投稿のうち、1つを『不法行為』と認定した」

「東京・江戸川区で女子高生が殺害された事件をめぐって、2017年12月、自らのツイッターに、判決文が掲載されたウェブサイトのURLとともに、『首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男』『そんな男に無惨にも殺されてしまった』と投稿」(投稿(1))

「女子高生の遺族が抗議したところ、ブログに『申し訳ないが、単に因縁をつけているだけ』と書き込んだ」(投稿(2))

「さらに命日に当たる2019年11月12日、自らのフェイスブックに、『遺族は俺を非難するよう東京高裁に洗脳された』と投稿」(投稿(3))

「遺族は…『一連の侮辱的な発信で、遺族の心情や名誉を傷つけられた』などとして…165万円の損害賠償を求める裁判を起こしていた」

「東京地裁は、『裁判官は、国民の信頼を傷つけることのないよう慎重に行動すべきで公法上の義務を負っている』とした上で、投稿(1)について『遺族らの心情を深く傷つけ、軽率のそしりを免れず、裁判官に課せられた義務に違反する不適切な行為』と批判」

「一方で、『一般の国民として表現の自由を保障されている』と述べて、『投稿(1)は不法行為とまでは認められない』と結論づけた。投稿(2)についても、『不法行為』とは認定しなかった」

「しかし、投稿(3)については、『遺族らの名誉を違法に毀損し、事実に反して、人格などを否定する侮辱的表現』と判断して、不法行為を認め、損害賠償を命じる形となった」

「慰謝料の額については、内容が悪質な上に、被害者の命日に投稿されたことなどを考慮」

FNNプライムオンライン

 この報道では触れられていないが、44万円というのは原告2人分を合わせた金額を意味している。原告は殺害された女子高生の両親であり、裁判所は1人あたりの精神的慰謝料を20万円、弁護士費用を2万円と認定したので、22万円×2=44万円というわけだ。

 また、この金額は、被告が現職の裁判官であり、司法や裁判所に関する投稿について一般のSNS利用者と一線を画する影響力を有しており、現に不特定多数の者の目に触れる投稿だったという点も考慮されている。

 この裁判について、かねて判事は「各投稿には、決してご遺族の方々を傷付ける意図はありませんでしたが、深く傷つけることになってしまったことを深くお詫び申し上げます」とコメントしていた。一方、遺族は本人尋問の中で「裁判官の職責の重さを考えてほしい」と涙ながらに語っていた。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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