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ハロウィーンの「ノリで」無法地帯と化した渋谷 25日からの飲酒規制、効果は

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

 10月25日から渋谷駅周辺で飲酒規制が始まる。軽トラの横転で逮捕者まで出た昨年10月のハロウィーン騒動を受け、今年6月に制定された条例に基づく。「ノリでやってしまった」という彼らに効果はあるのか。

規制の内容

 正式名称は「渋谷駅周辺地域の安全で安心な環境の確保に関する条例」という。ハロウィーンのみならず、年末カウントダウンの時期も対象だし、スポーツイベント時など区長が特に必要と認めた期間も規制可能だ。

 ただ、今年のハロウィーンに限ると、来訪者に対する規制内容は次のとおりとなっている。

渋谷区のホームページより
渋谷区のホームページより

規制日時:10月25日~27日、31日の18時~翌5時(27日は24時まで)

規制内容:「渋谷駅周辺地域」(渋谷1~3丁目、桜丘町、道玄坂1~2丁目、宇田川町、神南1丁目、神宮前6丁目)のうち、マップの赤線で囲まれた規制区域内の「公共の場所」(道路、公園、広場その他公共性を有する場所)で飲酒すること

 ただし、たとえこれに違反して飲酒したとしても、中止するように指導できるのみで、刑罰によるペナルティはない。

 規制期間中、渋谷駅周辺のコンビニやディスカウントストアなどは酒類全般の販売を自粛するが、区域外で購入したものを持ち込んだり、飲食店で飲酒したあと酔って騒ぐといった事態は防ぎようがない。

 このほか、先ほど示した渋谷駅周辺地域の公共の場所で次のような行為に及ぶことも禁じられているが、飲酒と異なり、これらの違反者には区が指導できない内容になっている。

正当な理由なく、音響機器等により音を異常に大きく出す、放尿等をする、街路灯、標識、屋根等に上る、そのほか他人に迷惑を及ぼす行為又は危害を及ぼすおそれのある行為

 実効性が乏しい条例であることは間違いない。

「徒歩暴走族」を規制する自治体も

 10万人の群衆が集まり、軽トラの横転のみならずスリや暴行、傷害、痴漢、大量のゴミと汚物の散乱が横行し、まさしく「無法地帯」と化した昨年のハロウィーン。

 そこで、いっそのこと公共の場所に仮装をして集まり、騒いで市民生活の平穏を害するような行為そのものを規制すべきだといった考え方もあるだろう。

 来訪者のほとんどが渋谷区以外から来ており、渋谷駅周辺で暮らす区民や渋谷駅を通勤で利用する人たちも迂回を強いられるなど、ハロウィーンには迷惑しているという。

 ここで思い起こすのは、広島市や姫路市で「徒歩暴走族」を締め出すために制定された特別な条例だ。

 1990年代後半から2000年代前半にかけ、街全体がごった返す大規模な祭りの際、「徒歩暴走族」が多数現れ、社会問題化した。

 所属する暴走族名を刺しゅうした特攻服などを身につけ、覆面姿でグループの旗をもち、グループ名などを大声で連呼しつつ商店街などを練り歩く集団だ。

 その多くが若者であり、夜半まで我が物顔で路上を占拠し、円陣を組むほか、ほかのグループや一般市民とのトラブルも頻発し、物を壊したり投げつけるなど暴徒化することもあった。

 彼らを見物するために「期待族」と呼ばれる野次馬もやってくるようになった。

 この結果、完全装備で隊列を組んだ機動隊員と特攻服姿の暴走族がにらみ合うなど、子ども連れでも安心して楽しめる祭りからはほど遠い姿となり、街のイメージも悪化した。

 そこで、広島市や姫路市は、条例の制定を進め、彼らの排除に乗り出した。

 すなわち、広島市の条例では、公共の場所で管理者らの許可なく特攻服などを着て集会を開き、威勢を示すことなどを禁止し、違反者に中止や退去を命ずることができるようにしたうえで、それでも従わない者には最高で懲役6か月の刑罰を科せるようにした。

 姫路市の条例も、特攻服などを着た集団が威勢を示して練り歩いたり、大声を出すなどして周囲に不安を与えることを禁止し、違反者に対して中止命令を出せるようにしたうえで、命令に従わない者に最高で罰金5万円を科せるようにしている。

 これで警察による現行犯逮捕も可能となったため、「徒歩暴走族」は急速に沈静化し、祭りから一掃された。

望ましいのは法規制の回避

 ただ、本来、好きな服を着て好きな格好をし、好きな仲間と集まって騒ぐというのも憲法で保障された重要な権利にほかならない。

 それが他人の迷惑になるようであれば規制も可能だが、過度な制約とならないようにするため、日時や場所、態様など、あらかじめ厳格な要件を定めておく必要がある。

 先ほどの広島市の条例も、逮捕・起訴された男性が憲法違反だと主張して地裁、高裁、最高裁と徹底的に争った。

 最終的には2007年に懲役4か月、執行猶予3年の有罪判決が確定したものの、最高裁の裁判官5人の判断も合憲3人、違憲2人と分かれた。

 違憲だという裁判官の1人は「道路や公園等開かれた公共の場所において、如何なる服装をするかは、憲法…の規定をまつまでもなく本来自由」と断言しているし、合憲だという多数意見も条例の規定を限定的に狭く解釈した結果だった。

 暴走族に対する規制ですらこの有り様だから、ハロウィーンを条例で、しかも罰則によって規制することなど実際には不可能だろう。

 防犯カメラの設置を含め、監視の目を行き届かせ、もし刑法などに触れる行為があった場合には粛々と検挙していくほかない。

 渋谷区は、来訪者を一律に排除せず、むしろ警備費や仮設トイレの設置などに充てるために約1億300万円の予算を用意し、ピーク時期には100人超の警備員を導入して警備を強化するなど、相応の準備を進めているところだ。

 渋谷区長も、渋谷は多様性や寛容さを尊重し、そのバランスを取りながら発展してきた街だと述べている。

 来訪者がマナーやモラルを守り、有料化や新たな法規制を要しないような節度あるハロウィーンになるのか、10月31日の本番に向け、渋谷の動向が注目される。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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