元特捜部主任検事の被疑者ノート(69) 「国策捜査」と「国策不捜査」について

(ペイレスイメージズ/アフロ)

~達観編(17)

勾留23日目(続)

【「国策捜査」とは】

 検察、とりわけ特捜検察の暴走を批判する際、しばしば「国策捜査」という言い回しが使われる。

 1996年の住専事件あたりからマスコミ報道でも目にするようになった言葉だ。

 元衆議院議員・鈴木宗男氏とともに東京地検特捜部のターゲットとなった元外交官・佐藤優氏がその著書「国家の罠」の中で取り上げ、広く知られるようになった。

 佐藤氏によれば、東京拘置所で佐藤氏の取調べを担当した特捜検事が、取調べ中に次のような発言をしていたという。

「これは国策捜査なんだから、あなたが捕まった理由は簡単。あなたと鈴木宗男をつなげる事件を作るため。国策捜査は『時代のけじめ』をつけるために必要なんです。時代を転換するために、何か象徴的な事件を作り出して、それを断罪するのです」

 この特捜検事は、佐藤氏との信頼関係を構築し、鈴木氏の追い落としに役立つ供述を引き出すため、あえて佐藤氏が好みそうな「国策捜査」という言葉を使い、佐藤氏の置かれた立場に同情を示しているかのように装っていただけではないか、とも考えられる。

 こうしたやり方も、取調べ官を味方であるかのように錯覚させるための取調べのテクニックの一つだからだ。

 ただ、法令で使われている用語ではないので、使い手によって広狭さまざまな意味で使われているというのが実情ではないか。

 あえて「国策捜査」を定義するとすれば、次のようなものになるだろう。

「どこからも告訴や告発がなく、あるいは立件すべき理由や必要性が乏しいのに、国の施策や何らかの政治的な思わくに基づき、『起訴ありき』という前提の下で、検察が自ら事件を作り出し、強引に立件、捜査する場合」

【実際には少ない「国策捜査」】

 ただ、長く特捜部に身を置き、内情を知る立場の者から言えば、起訴する方向でのこうした国策捜査は一般に思われているよりもはるかに少ない。

 確かに、特捜部が何らかの形で動くと、ターゲットとなった被疑者やそのシンパから「国策捜査だ」といった批判が必ず起こる。

 結果的には捜査によって被疑者と反対の立場にある関係者を利する場合が多いし、政治家であればなおさらだ。

この記事は有料です。
元特捜部主任検事の被疑者ノートのバックナンバーをお申し込みください。

バックナンバーの購入

商品名

元特捜部主任検事の被疑者ノートのバックナンバー2017年10月サンプル記事

前田恒彦

価格

1,080(記事3本)

2017年10月号の有料記事一覧

すべて見る

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

注意事項
  • 購入後も記事の提供を中止させていただく場合があります。

    注意事項」を必ずお読みいただき同意のうえ、ご購入ください。

  • 購入後に記事が表示されない場合はページを再度読み込んでください。

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信。唎酒師、日本酒品質鑑定士でもある。