部下から「ドラクエをクリアするため」という理由で有給休暇の申請があった場合、上司はどうすべきか

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 有給休暇に関するツイートが話題だ。部下から「ドラクエをクリアするため」という理由で申請があり、上司は色々考えた結果、承認したという。しかも、その理由は上司が部下に尋ね、申請書に記載させたとのことだ。

 たまっている有給休暇を使って大型の夏休みを取ろうと考えている人も多いだろう。この機会に、労働基準法の視点から見た有給休暇の原則について触れてみたい。

【有給休暇は労働者の権利】

 そもそも年次有給休暇は、正社員であろうがパートやアルバイトであろうが、出勤率など労働基準法が定める要件を充たしさえすれば、定められた日数分だけ自動的に発生する法律上の制度にほかならない。

 国家が労使間の労働条件に介入し、その最低基準を定めることで、労働者の疲労回復や心身のリフレッシュを図ることが狙いだ。

 労働者の請求や申請によってはじめて発生するわけではないし、会社側が労働者に対して許可や承認をし、恩恵的に与えるというものでもない。

 労働者が有給休暇の権利を行使し、実際に休みたいと思えば、上司ら会社側にその「時季」を指定すれば足りる。

 労働基準法が「時期」ではなく、より幅の広い「時季」という用語を使っているのも重要なポイントだ。

 もちろん、有給休暇を取ろうとしたり、実際に取った労働者に対し、会社側がマイナス査定をして給料やボーナスを減らしたり、降格や閑職に追いやるといった不利益な取扱いをすることも許されない。

 最高裁も、有給休暇の法的性質などが問題となった1973年の裁判で、次のように明確に述べている。

「労働基準法の要件が充足されたときは、労働者は法律上当然に所定日数の年次有給休暇の権利を取得し、使用者はこれを与える義務を負う

「労働者の請求をまって始めて生ずるものではない」

「年次休暇の成立要件として、労働者による『休暇の請求』や、これに対する使用者の『承認』の観念を容れる余地はない

【有給休暇中の行動は自由】

 もちろん、有給休暇中は好きなことができる。

 徹夜でゲームをしようが、一日中寝ていようが、海外旅行に飛び立とうが、日本酒やクラフトビールのイベント、音楽フェスなどに行こうが、全くの自由だ。

 緊急性を要する用件でなくても構わない。

 最高裁も、先ほどの判決の中で、次のように明確に述べている。

「年次休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である」

【権利行使の制限は違法】

 もし上司が休暇理由に基づいて有給休暇権の行使を拒否し、部下を休ませなければ、明らかな違法行為だ。

 例えば、「私用のための有給休暇の取得は許さない」とか、「ゲームで遊ぶ暇があるんだったら働け」などと言い、部下を休ませない場合だ。

 「うちみたいな小さい会社に有給休暇なんかあるわけない」とか、「そんなに休みたいんだったら、辞めてもらってもかまわない」などと述べるケースもあるが、言語道断だ。

 労働基準法は、最高で懲役6月の刑罰まで用意し、会社側のそうした行為を規制している。

 たとえその労働者が納得していたとしても、他の労働者にとってそうした慣例は害悪にほかならず、労働基準監督署の調査や是正勧告の対象となる。

【会社側ができること】

 とは言え、上司としても、部下が当日になって急に休みたいと言い出したら、代わりとなる人ぐりに困るだろう。

 月末や年末、書き入れ時など繁忙期だったり、同じころに有給休暇を取ろうとしている部下が多数に上るといった場合であれば、なおさらだ。

 そこで、労働基準法は、次のように規定し、会社側に「時季変更権」というものを認めている。

「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」(39条5項但書)

 これに該当する場合、会社側は、いったんボールを労働者に投げ返し、代わりに休暇を取る日を指定してもらうこととなる。

【客観的に判断】

 ここで問題となるのは、「事業の正常な運営を妨げる場合」とは具体的にどのようなケースなのか、という点だ。

 先ほど挙げた最高裁の判決でも触れられているが、単に忙しいからといった会社側の主観ではなく、あくまでも客観的な見地から判断される。

 既に多数の裁判例があり、会社の規模や有給休暇を取ろうとしている労働者の職場での配置、その者の担当する作業の内容や性質、作業の繁閑、代わりの者を配置することの難易、同じ時季に休む人の人数といった事情を総合的に考慮し、合理的に決定されることとなる。

 しかも、最高裁は、先ほど挙げた例と同じく有給休暇の取得が問題となった事件において、1987年の判決で次のように述べている。

「労働基準法の趣旨は、使用者に対し、できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることを要請しているものとみることができる」

「勤務割によってあらかじめ定められていた勤務予定日につき休暇の時季指定がされた場合であってもなお、使用者は、労働者が休暇を取ることができるよう状況に応じた配慮をすることが要請される

【休暇取得の理由を尋ねることの是非】

 こうした会社側の時季変更権を実りあるものとするため、就業規則で有給休暇を取る際の手続を規定している会社が多い。

 例えば、少なくとも3日前までに所定の書面で申し出ておかなければならないとか、休暇取得の理由を記載しなければならないといったものだ。

 ただ、労働基準法上は、たとえ部下が上司からその理由を尋ねられたとしても、答える義務などない。

 何か答えなければ気まずいということであれば、「所用のため」とでも言えばよい。

 上司の方も、有給休暇中に何をするのかといったプライバシーに関わる問題を詮索し、部下に根掘り葉掘り聞いたり、申請書にその旨を書かせたりすべきではない。

 この点、部下から理由を聞き、それを考慮した上で休みを取らせるという上司の態度こそが理想的だと考える人も多いかもしれない。

 しかし、繰り返し述べているとおり、有給休暇はあくまでも労働者の権利であるから、会社に支障がないのであれば、理由など聞かず、そのまま休ませるのが上司としてのあるべき姿だ。

 もちろん、申請書への理由の記載は労働者の任意によるものでなければならない。

 繁忙期などに有給休暇を取りたいという希望者が重なった場合に、社員間の公平性の観点から、その理由によって時季変更の優先順位を付けるといった限度で、会社側から理由を尋ねることが許されるだけだ。

 冒頭で挙げたドラクエの事例も、会社側にとって時季変更権を行使する客観的な状況などないのに、あえて休暇取得の理由を書かせたり、わざわざその是非を検討したということであれば、たとえ最終的には休みを取らせたとしても、労働基準法上は問題があると言わざるを得ない。

【求められる計画的な消化】

 とは言え、これまで述べてきたような話は綺麗事にすぎず、上司や同僚に対する遠慮、仕事の内容、社内での責任の重さ、会社の規模、人員配置、社風などの関係で、実際にはそう簡単に有給休暇など取れないという人の方が多いだろう。

 労働組合に相談してもなかなか話が前に進まないとか、労組がないので匿名で労働基準監督署に通報するとしても、会社側に誰が相談を持ち込んだのかバレることで、報復措置を受けるおそれが高いという人もいるだろう。

 現に、わが国における有給休暇消化率は50%を切っており、諸外国と比べて低いと言われているし、2020年までに70%を達成するとの政府目標ともかけ離れている。

 まずは、厚生労働省が「有給休暇ハンドブック」や「有給休暇ハンドブック2」の中で旗振りをしているように、計画的取得に向けた会社側の努力が必要だ。

 就業規則や労使協定を整備し、各部署や班、グループ別に交代で消化してもらうとか、閑散期に積極的な消化を推進するとか、各労働者ごとに年間の取得計画表を作成・提出してもらうといったものだ。

 夏休みや年末年始、ゴールデンウィークに限らず、結婚記念日や子どもの誕生日など各労働者の個人的な事情に応じた柔軟な消化を促進し、「アニバーサリーホリデー」を設けるとか、暦の関係で休日が飛び石になっている中間の平日を有給休暇とし、「ブリッジホリデー」によって連休となるように配慮するといったやり方も考えられる。

 その前提として、あらかじめ業務代行者を決めておくとか、他の者がいつでもカバーできるように一人だけに権限や業務を全て委ねないとか、休暇取得を織り込んだ事業計画を立てるといった基本姿勢も重要だ。

【有給休暇の消化促進も義務化へ】

 ただ、それだけでは必ずしも十分とは言えない。

 そこで、政府が推し進めようとしている施策が、労働基準法を改正し、会社側に対し、有給休暇の消化促進を義務付けるというものだ。

 年間で10日以上の有給休暇が発生する労働者については、そのうちの5日間、毎年、時季を定めて必ず休ませなければならない。

 もちろん、その5日分について、労働者が自ら休む時季を指定して消化しているとか、会社における計画的な取得によって消化済みだといった場合は別だ。

 それに加えて更に5日分を強制的に休ませる必要はなく、要するに1年に5日間は必ず有給休暇を取らせ、労働者を休ませなければならない、というわけだ。

 この法案が国会で可決されれば、有給休暇のあり方が大きく様変わりすることだろう。(了)

(参考)

 冒頭で触れたツイートは次のとおり。会社側に守秘義務が求められる有給休暇取得申請書の内容をネットに公開している点で、コンプライアンス上の問題がある。ただし、後記のような取材結果もあり、一種の話題作りとも考えられる。

「部下がゲーマーであることを知っていたため有給申請を受けた際、すぐに『ドラクエだろうな』と察した」「承認後、“クリアするには日数が足りないのでは”と考え、部下と相談した上で土日含めて4連休となるよう有給日を調整した」「もともと“どうやったら問題なく休ませてあげられるか”を考えており、重大な悪影響も無かったため時季の変更は相談しなかった」「なぜこういう書き方をさせたかについては『深い考えは無かった』」「あくまでも休めるという前提を踏まえて冗談でやったものだった」「リツイートの伸び具合を申請した本人とも楽しんでいた」

出典:ねとらぼ

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信。唎酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

有料ニュースの定期購読

元特捜部主任検事の被疑者ノートサンプル記事
月額1,080円(初月無料)
月3回程度
15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。