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ノート(57) 検察はいかなる場合に何を狙って取調べ担当検事を交代させるのか

前田恒彦元特捜部主任検事
(ペイレスイメージズ/アフロ)

~達観編(7)

勾留22日目(続)

地に落ちた信頼?

 この日は、昼食時に録音が流された朝のNHKニュースで、検察に関する世論調査の結果が報じられていた。「検察を信頼していない」と答えた人は50数%と過半数を越えていた。

 他方、取調べを全面的に録音録画して記録に残すという可視化については、「可」とするものと「どちらともいえない」とするものがほぼ拮抗しているとのことだった。

 世論調査はそのテーマがタイムリーな話題であるか否かや報道の過熱度、質問の仕方などによって簡単に数字が上下するものだ。とは言え、改ざん事件発覚後であっても、検察に対する信頼を失っていない人がなお半数近くもいると分かり、逆に驚かされた。

 逮捕後の連日の報道では、「検察に対する国民の信頼は地に落ちた」などと、実に仰々しい言い回しが使われていたからだ。

 そればかりか、厚労省虚偽証明書事件で証人として出廷した関係者が特捜部の取調べを次々と批判し、無罪判決という結論が下されてもなお、全面可視化を実現すべきだと考える人が必ずしも大勢を占めていない、という結果にも衝撃を受けた。

 株価と同じで悪い材料は既に織り込み済みだったからなのか、検察問題や刑事司法制度に関心を持たない人が多いからなのか、そもそもあまり国民が危機感を感じていないからなのか、その原因は不明だった。

 それでも、客観的な数字を聞く限り、少なくとも「信頼は地に落ちた」と言えるほどのものではない、ということがよく分かった。

比較の視点が重要

 ただ、これまで検察に対する信頼度をテーマにした世論調査など実施されておらず、事件発覚前と比べて数字が減ったのか否か、もし減ったのであればどの程度だったのか、といった点は不明だった。

 確かに、国民の信頼を著しく損なう結果となったことは間違いない。しかし、連日の“ストップ安”で大暴落と評価できるほどの急降下だったのか、もともとの信頼度と比べた下落度合いやその原因などが全く分析されていなかった。

 また、他の国家機関などに対する信頼度と比較する視点がなく、その意味でも不十分な報道であるように思われた。というのも、この種の世論調査では、中央官庁や国会、政党に対する国民の信頼度は3割を切り、信頼していないとする層が実に6割から7割を占めているのが常だからだ。

 これらに比べれば、まだまだ検察の信頼度も高いということになるわけで、事実をどこで切り取り、何と比較するかで受け手に与える印象が全く変わってくる。

新たな材料が出れば

 いずれにせよ、NHKの世論調査を踏まえると、法務検察幹部の危機感が薄れ、結局のところ検察改革や司法制度改革など玉虫色の結果で終わってしまうのではないか、と懸念せざるを得なかった。

 また、いずれ国民が憤慨するような政財官界にわたる疑獄事件や特殊な財政経済事件が表沙汰になれば、捜査に当たる特捜検察への期待感も大きく高まるだろうと思われた。

 もし特捜部が水面下に沈む様々な不正事件をうまく掘り起こし、強制捜査や起訴・有罪に至り、国民の溜飲を下げる結果となれば、検察に対する信頼など“プラ転”どころか一気に“ストップ高”まで駆け上がるのではないか。

 ただ、他方で法務検察も保身に徹する官僚組織にほかならず、今回のような検察バッシングの再来を何よりも恐れるはずだ。

 今後は改ざん事件が完全に風化するまで時を待ち、ハイリスク・ハイリターンの事案には手を出さず、無理をせず、消極姿勢に徹し、事故を起こさないようにとにかく安全運転に努めるだろうとも思われた。

再び取調べ官が交代

 「検事さんの取調べや」

 昼食後の午後1時半ころ、刑務官から唐突にそう告げられた。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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