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バカリズム、劇団ひとり、Aマッソ加納……「脚本家芸人」が増えている理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家
(写真:アフロ)

近年、本業のお笑い以外の分野に芸人がどんどん進出している。俳優としてドラマや映画に出演したり、コメンテーターとして情報番組でニュースについて語ったり、芸人の活躍するフィールドはどんどん広がる一方だ。

そんな中で、最近じわじわと増えてきているのが、芸人がドラマ・映画・舞台の脚本を書くケースである。たとえば、バカリズムは2014年に初めて地上波の連続ドラマ『素敵な選TAXI』で脚本家を務めて以来、数多くの作品を手がけている。また、劇団ひとりはNetflix配信作品『浅草キッド』で監督・脚本を務めた。彼らはすでに芸人としてもクリエイターとしても超一流の実績と知名度を持っている。

一方、もう少し下の世代の芸人が脚本を担当する実験的なテレビ番組も放送されている。フジテレビで6月22~24日に3日連続で放送されたオムニバスドラマ『脚本芸人』では、ピン芸人の吉住、空気階段の水川かたまり、かもめんたるの岩崎う大の3人が1話ずつ脚本を担当した。7月30日放送の小池栄子主演のドラマ『ラフな生活のススメ』(NHK)では、Aマッソの加納が脚本家を務めた。

彼らはいずれも『キングオブコント』『女芸人No.1決定戦 THE W』などで結果を残していて、コントの実力は折り紙付きである。中でも岩崎は自ら旗揚げした「劇団かもめんたる」という劇団で演出・脚本を務めている。

また、若手では、コントユニット・ダウ90000を主宰する蓮見翔も注目されている。彼はフジテレビのドラマ『ダウ90000 深夜1時の内風呂で』、Huluで独占配信のドラマ『今日、ドイツ村は光らない』で脚本を務めた。

そういう人たちを脚本家として起用する試みが相次いで行われているのだ。この背景にあるのは、脚本家としての才能がある芸人を新たに発掘したい、そしてそれを生かしたコンテンツを作っていきたい、というテレビ界の意向だろう。

芸人は自分でネタを作っている

なぜ今、脚本家芸人が注目されているのか。根本的な理由の1つは、そもそも現代の芸人がネタ作りを自分自身で行っているからだ。一昔前の演芸界では「漫才作家」という職業があり、芸人が演じるネタを本人たち以外の作家が担当するということがあった。芸人はあくまでも演じる側のプロであり、ネタを作るプロである必要はなかったのだ。

だが、今はそういう時代ではなく、ほとんどの芸人が自分でネタを作っていて、出演・演出・脚本をすべて自分たちで行うのが当たり前になっている。そのため、台本を書くという作業自体に慣れている人が多く、脚本家という仕事との親和性はもともと高い。

もちろん、笑わせることが目的であるコントと、それ以外の要素も含まれるドラマや映画や演劇には違いもある。だが、どんな脚本家も口を揃えて「笑わせることが一番難しい」と言う。笑わせることを専門にしている芸人は、最も難しいことに日頃から取り組んでいるため、脚本家としての感覚が鍛えられているのだ。

コメディ畑から脚本家になった人も

いまや脚本家としてトップクラスの人気と実績を誇る三谷幸喜や宮藤官九郎も、コメディ要素の強い演劇の脚本・演出からキャリアをスタートさせている。自分の作った物語で人を笑わせる力があれば、脚本家としての基本的な素養はあると考えて間違いない。

芸人には作家タイプと演者タイプがいる。たとえば、コンビの場合、どちらか一方がネタ作りを担当していることもある。この場合には、ネタを作っている方が作家タイプで、作っていない方が演者タイプである。

作家タイプの芸人は自分でもネタを演じるので、演者の要素も持っているのだが、作家としての能力が高い場合には、それを世の中に求められて脚本家として才能が開花することもある。

バカリズム、劇団ひとりといった華々しい成功例がある以上、新しい脚本家芸人を発掘したいというニーズはこれからもあり続けるだろう。脚本家として三谷、宮藤に続くような人材がお笑い界から輩出されるのもそれほど遠い未来ではなさそうだ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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