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『DayDay.』『だが、情熱はある』も話題の山里亮太が「受け」のプロフェッショナルである理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家
(提供:アフロ)

南海キャンディーズの山里亮太が波に乗っている。4月に始まった日本テレビの朝の情報番組『DayDay.』ではMCを担当している。同じ日テレの朝の番組『スッキリ』で長年にわたって「天の声」として顔の出ない裏方仕事を地道に続けてきた彼が、ついに朝の顔として地上に降り立つことになった。

さらに、4月に始まったドラマ『だが、情熱はある』(日本テレビ)も話題を呼んでいる。このドラマでは、山里とオードリーの若林正恭のこれまでの芸人人生が描かれている。山里を演じる森本慎太郎、若林を演じる髙橋海人の本物そっくりの演技にも注目が集まっている。いまや山里は、本人が人気であるだけでなく、その半生にまでスポットが当たる存在になっているのだ。

業界内で山里の実力を疑う者はいない。特に、司会者としての能力は同世代の芸人の中でも突出したものがある。2月10日放送の『オオカミ少年』(TBS)では、体調不良のため収録を休んだMCの浜田雅功に代わって、急きょ司会を任されることになった。

本人の話によると、収録の3時間前に突然オファーがあり、出演をすることになったのだという。クイズのルールやシステムも複雑なゴールデン番組の仕切りを突然やらされるというのは、並のタレントには務まることではない。

しかし、山里は視聴者に一切の違和感を与えることなく、見事に代役の務めを果たしていた。そもそもこのようなオファーがあるということ自体が、山里がテレビスタッフから信頼されている証である。

今では司会者のイメージも強いが、山里はもともと「受け身」に特化している芸人である。彼は誰もが認める「受けの天才」だ。何か言われたときに、それに対して即興でコメントを返して笑いを取る。その速さと正確さにかけては右に出る者がいない。

テレビに出ているレベルの芸人は「ボケ」「ツッコミ」「イジり」「リアクション」など、何らかの分野で卓越した技術を持っている。それらの技術は素人目にも分かりやすいし、目立ちやすい。だが、山里が持っている「受け」の技術はそこまで目立たない。だから、彼がその部分に秀でていることに気付いていない人も多い。

山里は自分の得意なフィールドに相手を誘い込むのが上手い。そのための「不細工キャラ」であり、「モテないキャラ」なのだ。芸人に限らず、誰もがそこに踏み込んでいいし、イジっていい、という雰囲気を作っておく。そして、そこに入ってきた人間がいれば、すかさずその言葉尻を捕らえて、笑いに変えてしまう。

山里と付き合いの深いオードリーの若林正恭は、彼のそのような手法を「山里関節祭り」と表現していた。立ち技での勝負を避けて寝技に誘い込み、すきを突いて関節技をきめる格闘家になぞらえているのだ。

山里は南海キャンディーズでツッコミを担当している。ツッコミ芸人がテレビに出るときには、他人に対するツッコミやイジりを主力武器として用いることが多い。

ただ、他人をイジって笑いを取るのはそれほど簡単なことではない。技術が要るのはもちろん、芸人としての「格」が必要なのだ。なぜなら、他人を自分の価値観でこき下ろしたりすると、偉そうに見えてしまうリスクがあるからだ。だから、偉そうに見えてもいいくらいの圧倒的な地位を得ている人か、もともと偉そうなキャラの人しかこの手法は使えない。

だからこそ、あらゆる場面で自分を下に置いている山里は、この手法を選ばなかった。あえて攻めさせておいて、それに対する反撃やぼやきを笑いにする「受け」の手法を選んだのだ。すべてのフリに対して、自分を下げて落とす。自虐ネタに特化して、自分で責任を取る笑いを貫いた。頼りになるのは自らの言葉選びのセンスと、自分を貶める覚悟だけだ。山里は「受け」のプロフェッショナルとして、誰も傷つけず、スマートに笑いをさらっていく。

そんな山里の受けの美学はプロレスラーとも通じるものがある。プロレスラーは、ほかの分野の格闘家とは違って、基本的に相手の技をよけるということが許されていない。技をかけてきた相手に対して、まずはそれを真正面から受ける、というところから始めなくてはいけない。そのためには強靭な肉体と技を受け切る覚悟が必要だ。山里はお笑い界随一のプロレスラーであり、精神的には誰よりもマッチョである。

メディアに出るときの山里が常にへりくだった態度を取っているのは、自分に自信がないからではない。むしろ、誰よりも意識が高く自信家だからこそ、大きい野望のためにあえて身を削って戦っているのである。そんな山里が満を持して日テレの看板を背負う『DayDay.』は、彼が本領を発揮する番組となっていくだろう。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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