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ヒコロヒー、ティモンディ高岸、モグライダー芝……「愛媛芸人」が人気の理由とは?

ラリー遠田作家・お笑い評論家
(写真:イメージマート)

芸人を出身地ごとに分けると、多数派となるのは、文化の中心地である東京とその近郊の関東地方、そして笑いの本場である大阪とその近郊の関西地方である。

最近では、博多華丸・大吉の出身地である福岡、千鳥の出身地である岡山なども脚光を浴びているが、東京と大阪にはまだまだ及ばない。

そんな中で、最近にわかに脚光を浴びているのが、愛媛県出身の芸人である。たとえば、昨年12月の『女芸人No.1決定戦 THE W』で優勝したオダウエダの小田結希、同月の『M-1グランプリ』で決勝進出したモグライダーの芝大輔、もものせめる。はいずれも愛媛県出身だ。

また、『M-1』で5回決勝に行った和牛の水田信二、4回決勝に行ったスーパーマラドーナの武智、バラエティ番組で活躍している女性ピン芸人のヒコロヒー、元高校球児であるティモンディの高岸宏行も愛媛生まれである。

村上ショージ、中田カウス、友近など、愛媛県出身の芸人は以前から存在していたのだが、最近出てきた芸人の中には徐々にその割合が増えているような気がする。愛媛芸人の魅力や特徴とは何だろうか。

マイペースで欲がない県民性

愛媛県出身者の県民性についてよく言われているのは、温暖で自然豊かな穏やかな気候で育っているため、朗らかでのんびりした優しい性格の人が多いということだ。いつも笑顔でポジティブ発言を連発するティモンディの高岸などはまさにそのタイプに見える。

また、のんびりが行き過ぎてマイペースで無欲なところもある。東京や大阪は生き馬の目を抜く大都会であり、そこで生まれ育った芸人は初めから競争社会で生きるという覚悟を持っているが、愛媛芸人にはそこまでの強い意志がないケースが目立つ。

ヒコロヒーはもともと芸人になるつもりはなかったが、事務所にスカウトされて「自分が好きな映画やラジオの仕事につながるかもしれない」と考えてお笑いの道に進んだ。友近はレポーターなどのタレント活動を経て芸人になっていて、その後も歌手や俳優としても活躍している。

きつく聞こえることもある「伊予弁」

一方、伊予弁と言われる愛媛の方言は、関西弁や広島弁にも近く、他地域の人からすると言葉がややきつく聞こえることがある。言葉は荒々しく感じられたりもするが、心は穏やかで落ち着いている。そんな不思議な形でバランスがとれているのが愛媛県民であるとすると、そこに当てはまる愛媛芸人の顔がいくつも思い浮かぶ。

やさぐれた目線で世の中を斬るヒコロヒー、漫才で理屈っぽいキャラを演じる和牛の水田、「世直し」と称してマネージャーの仕事ぶりを批判する友近などには、どこか共通するものが感じられる。理屈っぽいし批判的ではあるが、本人の頭の中はいたって冷静な感じがするのだ。

一方、荒々しさの部分が行き過ぎて「ヤンキー性」を帯びている人もいる。かつてはグレていて駆け込み寺に入れられた経験を持つオダウエダの小田、気性が荒く舌禍騒動を起こしたこともあるスーパーマラドーナの武智、「シャバい」が口癖のヒコロヒーなどはそちらに当てはまるかもしれない。

お笑い文化の中心地は東京と大阪であるため、標準語と関西弁がお笑い界の共通語になっているようなところがある。だからこそ、東京圏と大阪圏から多くの芸人が輩出されているのだ。

一方、伊予弁は関西弁に似ているところもあるため、愛媛芸人は比較的早く関西弁に馴染むことができるし、違和感を持たれづらい。その点もお笑いをやる上では有利だと言える。

言葉がきつくて荒っぽいところもあるけれど、意外と温和でのんびりしていて優しい。そんな愛媛芸人がいまお笑い界で台頭しているのは、「飾らない本音」と「根底にある優しさ」が世の中に求められているからかもしれない。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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