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結婚発表した弘中綾香アナの「革命」に期待するしかない理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家
(写真:アフロ)

9月30日、テレビ朝日の弘中綾香アナウンサーが、一般男性と結婚したことを発表した。弘中アナと言えば、テレビ界を代表する人気アナウンサーであり、『激レアさんを連れてきた。』『ノブナカなんなん?』『あざとくて何が悪いの?』などのバラエティ番組を中心に活躍してきた。そんな彼女の突然の結婚発表は世間に衝撃を与えた。

アイドルが結婚すると、それをきっかけにしてファンが減ってしまうという現象が見られたりもする。アイドル的な人気がある彼女の場合にもそのようなことは多少あるかもしれない。ただ、個人的には、この結婚が別の意味で面白いことにつながる可能性はあるのではないかと思っている。

弘中アナは、色白でベビーフェイスの外見とおっとりした話し方という特徴から、かわいらしくてちょっととぼけた性格であると思われやすい。だが、実際の彼女は一筋縄ではいかない強烈なキャラクターを持っている。

他局でラジオ冠番組に出演

数年前、弘中アナが一種の「毒舌タレント」のような形で一時的に脚光を浴びたことがあった。2019年7~8月にはAbemaTVで『ひろなかラジオ』という番組が放送された。彼女にとって初の冠番組だった。

ラジオに憧れている弘中が自由にトークをしたり、いろいろなことに挑戦したりする番組だった。テレビではタレントの引き立て役に回りがちな若い女性アナウンサーが、ここまではっきりと主役を張る番組は珍しかった。

さらに、驚くべきことに、同年には『弘中綾香のオールナイトニッポン0』(ニッポン放送)というラジオの冠番組が放送された。テレビ朝日の系列局ではないラジオ局で、テレビ朝日のアナウンサーが冠番組を手がけるのは異例のことだ。

『オードリーのオールナイトニッポン』にゲスト出演した際のトークが評価されて、この番組が実現したのだと思われる。彼女はテレビ局に所属する会社員でありながら、その枠を超えた活躍をしていた。

だが、実のところ、彼女に対する世間の評価は大きく二分されている。週刊誌の「好きな女子アナ・嫌いな女子アナ」アンケートでは、「好き」と「嫌い」のそれぞれで上位に名前が挙がることが多い。はっきりと好き嫌いが分かれるキャラクターの持ち主なのだ。

弘中はもともとアナウンサー志望ではなく、アナウンサースクールに通ったりするような準備も一切していなかったという。それでもテレビ朝日で内定を勝ち取ることができたのは、それだけキャラクターとしての魅力が突出していたのだろう。

主張の強さと大胆さが魅力

弘中のトークが面白いと言われるのは、その主張の強さと大胆さによるものだ。彼女が話すことはしばしば「女子アナらしくない」と言われることがある。その外見や女子アナという肩書とは裏腹に、弘中はかなりはっきりとモノを言う。

弘中は「女性らしさ」や「女子アナらしさ」を押し付けようとする世間の風潮に対しても、強い違和感を表明している。彼女は「夢は革命家」と公言している。ここで言う「革命」とは政治的行動のことではなく、自分の発言や行動を通して世間の風潮を変えていきたい、ということだ。見た目からは想像もつかない芯の強さを持っている。

だが、弘中の革命運動には誤解がつきまとう。なぜなら、彼女が今こうやって注目されているのも、「女子アナなのに女子アナらしくないおかしなことを言っている」というところが面白がられているという側面があるからだ。「らしさ」を否定しようとする弘中の活動は、「らしさ」を押し付ける社会の中だからこそ風変わりに見えて目立っていたのである。

世の中ではわかりやすいものの方が人気が出やすい。自分がブサイクであることに劣等感を持っている芸人がイケメンや美人に嫉妬して悪態をつく、というようなキャラクターは誰にでも自然に理解できる。

予定調和を壊す「革命」に期待

だが、弘中のように、美貌にも社会的地位にも恵まれていると思われている人が、その特権的な立場に立ったままで「女性らしさを押し付けるのはおかしい」と正論を訴えても、意図が伝わりづらいし、共感されづらいのだ。最近ではそんな風潮も変わりつつあるが、彼女を嫌う人がいるのはそういうところが原因でもあるのではないか。

ただ、裏を返せば、そこがまさに彼女の面白いところでもある。私が思う弘中の魅力は、誰かが作ったお決まりのパターンに乗らず、思ったことをあっけらかんと口にすることができるところだ。タレントでもこういうことができる人はなかなかいない。

一時期の弘中アナは、今で言う「ひろゆき」のような特異な存在感を持っていたのだが、最近ではバラエティでの立ち回りが良くも悪くも器用になっていて、そういう部分を露骨に表に出す機会が減ってきている。

結婚をすることで世間からの見られ方が変わり、人気のあり方も変わる。それは、彼女が本来のキャラクターを開花させるきっかけになるかもしれない。彼女の本当の「革命」はここから始まるのだ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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