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恵俊彰、田村淳、萩本欽一……売れっ子芸人が大学に進学する理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

『ひるおび!』で司会を務めるホンジャマカの恵俊彰が、4月に早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に入学した。学んだことを仕事に生かすためではなく、あくまでも個人的な興味から入学を決めたという。

ロンドンブーツ1号2号の田村淳も大学院に通っていた。彼は2017年から2018年にかけて、番組の企画として青山学院大学を受験するために勉強を続けていた。猛勉強もむなしく不合格になってしまったのだが、方針を切り替えて慶應義塾大学の通信教育課程に合格して、2018年の4月から通い始めた。

だが、学問と仕事の両立が難しかったため、慶應義塾大学の通信教育課程を退学して、2019年4月から慶応義塾大学大学院のメディアデザイン研究科(KMD)に通い始めて、2021年3月に修了した。

大学に入り直す芸人が増えている

ひと昔前までのお笑い界では、大学を出ている芸人というのは希少な存在だった。大学を出て普通の会社に就職できるような人間がわざわざ入ってくるような業界ではない、と考えられていたからだ。

しかし、今では状況が一変した。大卒の芸人が珍しくないのはもちろん、一流と呼ばれるような大学を出ている高学歴の芸人も大勢いる。そんな中で最近、いったん世に出た芸人が新しく大学や大学院に入り直したり、それを目指して受験勉強を始めたりする、という動きが目立っている。

たとえば、「グー!」というギャグで一世を風靡したエド・はるみは、2018年に慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の修士課程を修了した。また、萩本欽一は2015年に73歳で駒澤大学仏教学部に入学。1日も休まず真面目に通い続けたが、お笑いの仕事に集中するために2019年5月に自主退学した。

キャリアアップのために進学する

芸人が大学を目指すのはいくつかのパターンに分けられる。1つは、本人が明確な目的意識を持って、キャリアアップのために大学進学をする場合だ。淳やエドはこのタイプに当てはまる。淳は自身が考案した遺書の動画サービス「itakoto」を作るために、死にまつわる法律その他の知識を学ぶために大学院進学を選んだ。

また、エドは大学院に進学してからの2年間、仕事と並行して研究活動に打ち込んでいた。研究のテーマは「身体的アプローチによってネガティブな感情をポジティブな感情に反転させるネガポジ反転学」である。修士課程を終えた後も、研究者としての活動は続けている。

エドは以前、小池百合子都知事が主宰する政治塾「希望の塾」の都議選対策講座を受講していたことがあり、政治家への転身も噂されていた。エドの経歴を振り返ると、「新しいことを学びたい」という気持ちと「そこで学んだことをこれから生かしていきたい」という気持ちの両方が感じられる。

「そのまんま東」こと東国原英夫もこのタイプだ。彼は2000年に早稲田大学第二文学部に入学した。卒業後の2004年には再び早稲田大学政治経済学部に入学して、2006年に退学した。大学では地方自治や選挙制度について学んだ東国原は、2006年に宮崎県知事選に出馬。見事に当選を果たして宮崎県知事となった。その後も衆議院議員を務めるなど、政治家としてのキャリアを重ねている。

エドや東国原は、大学に入ることや大学で学ぶこと自体がゴールなのではなく、その先にある目標が明確に見えているのだろう。

知的好奇心から進学する

一方、キャリアアップとは無関係に、単なる知的好奇心から大学の門を叩く人もいる。恵や萩本はこのタイプだ。大学入学当時に73歳だった萩本が、今さら「大卒」の資格を何か別のことに生かそうとしているとは思えない。

萩本は体力の衰えを理由に2014年3月に舞台を引退していた。そこから何か新しいことを始めようと考えて、大学を目指すことにした。70代に入ると記憶力も悪くなり、覚えたこともどんどん抜け落ちていく。それを防ぐためには、どんどん新しく知識を入れていけばいい。そのためには勉強をすればいい、というのが萩本の考えだった。

萩本さんは1年間の猛勉強の末、社会人特別枠で英語と小論文と面接の入学試験を受けて、見事に合格。2015年から通い始めた。孫の世代にあたる10~20代のクラスメイトと楽しく交流を深めていた。

今まで挙げた2つのケースでは、いずれも本人に強いモチベーションがあって大学を目指している。こういう場合には受験勉強で挫折をしないことが多く、大学に受かったらそのまま卒業するまできちんと通い続けることが多い。

大学を出て芸人になる人は珍しくなくなったが、芸人になってから大学に行く人は珍しく、今でも希少価値がある。人を笑わせるという「不真面目」に見られがちな仕事をしているからこそ、大学に入って「真面目」な一面を見せることにはメリットがある。

今では芸人がコメンテーターとして社会的な出来事についてコメントを求められるような場面も多いため、芸人の間でも勉強をすることのニーズは高まっている。本気で大学を目指す芸人はこれからも増えていくだろう。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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