Yahoo!ニュース

いびつな人生を肯定する新感覚ドキュメント『激レアさんを連れてきた。』が根強い人気の理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

テレビの世界では、夜11時台はいまや「第二のゴールデンタイム」とも言われるほど注目度の高い枠である。流行に敏感な学生や社会人は忙しくてゴールデンタイムに家にいないことも多く、むしろこの時間帯のバラエティ番組を熱心に見る傾向にあるからだ。

テレビ朝日ではこの「ネオバラエティ」と呼ばれる枠で『『ぷっ』すま』『アメトーーク!』『Qさま!!』など数々の人気番組を作ってきた。現在では「スーパーバラバラ大作戦」と称して、さまざまなバラエティ番組が放送されている。

主にこの枠で番組が続けられ、今も根強い人気を誇っているのが『激レアさんを連れてきた。』である。滅多にないような「激レア」な体験をした人を「研究サンプル」として取り上げて、その体験談を詳しく紹介する番組だ。

ゲストの人生を掘り下げていくという意味では、いわゆる「人物ドキュメント」系の番組にあたるのだが、この番組ではその見せ方に新しさがある。

弘中アナのゆるゆるプレゼン

人物ドキュメント番組で用いられる一般的な手法は「VTR」または「スタジオトーク」である。ロケと再現ドラマを交えたVTRで見せていくというのが1つのやり方。もしくは、ゲストをスタジオに招いてMCの質問に答えてもらう、というスタジオトーク形式がある。

また、特殊な例としては、以前放送されていた『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日)のように「本人がプレゼン形式で一方的に語る」というものがある。いずれにせよ、VTRで見せるか、本人に話してもらうか、大きく分けてこの2つのパターンがあった。

だが、『激レアさんを連れてきた。』はどちらでもない新しいやり方を採用している。白衣を着た弘中綾香アナが「研究助手」として、「研究員」であるオードリーの若林正恭に対してプレゼンをする形でエピソードを紹介するのだ。彼女は、手作り感あふれるチープな手書きボードや模型などを駆使して説明をしていく。これが番組独自のカラーになっている。激レアな体験をした本人もスタジオに招かれているのだが、発言は少なめで、あくまでも弘中のプレゼンが番組の軸になっている。

彼女は声がやや甲高い上に、話し方も一本調子で淡々としている。だから、深刻な話をしていても暗くなりすぎず、明るく笑い飛ばせるようなユルい雰囲気が常ににじみ出ている。そのスキだらけのダラッとした感じが、人物ドキュメントの手法としては一周回って画期的だった。

そんな弘中の話を聞く若林の反応も絶妙である。彼は事前にどんな話なのかを一切聞かされずに収録に臨んでいるという。それでも、絶妙のバランス感覚で的確なリアクションを返して、彼女がスキを見せたときにはすかさずツッコミをいれていく。

入念なリサーチで取材対象者を発掘

激レアな体験を持っている人ばかりを取り上げているとはいえ、そのほとんどは無名の一般人である。それでも、そのエピソードが毎回面白いのは、スタッフが入念なリサーチを行って興味深いネタを発掘しているからだ。

また、この番組では、最初は何の特徴もない一般人のように見えていた人が、実はとんでもない経験をしていたりすることが判明する。そこから伝わってくるのは、普通の人の人生こそがそもそも面白いものだということ。「何の特徴もない人」なんて本当は存在しない。誰もが「もともと特別なオンリーワン」なのだ。

珍しい体験をした人の人物ドキュメントを、ポップな演出で堅苦しく形で見せているのが『激レアさんを連れてきた。』の新しさだ。この番組は、一般人のいびつな人生を肯定する「人間讃歌」でもあるのだ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

ラリー遠田の最近の記事