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『SASUKE』の総合演出が手がける令和版『風雲!たけし城』から目が離せない理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

1980年代後半にTBSで放送されていた視聴者参加型のアトラクション番組『痛快なりゆき番組 風雲!たけし城』が『復活!風雲!たけし城(仮題)』として2023年にAmazon Prime Videoで配信されることが発表された。

『風雲!たけし城』は、一般人の参加者が池の上の飛び石を渡ったり、不安定な吊り橋を歩いたりするステージを攻略して、最終的に「たけし城」の城主であるビートたけしと対決をする、という内容だった。この番組は社会現象を巻き起こすほどの大ヒットとなり、世界各国でも放送されたり、番組フォーマットが輸出されて現地版が制作されたりした。

今回の復活企画で密かに注目されているのは、総合演出を務めるのがフォルコムの代表取締役である乾雅人氏であるということだ。乾氏といえばTBSの看板番組『SASUKE』の総合演出を長年務めてきた人物である。そんな彼が『たけし城』を手がけるとなれば、期待しないわけにはいかない。なぜなら、『SASUKE』こそは、『たけし城』のDNAを受け継ぐ正統な番組であると言えるからだ。

『SASUKE』では、100人の挑戦者がさまざまな障害物が仕掛けられたステージに挑む。その人気は国内だけにとどまらず、日本の番組が世界165の国と地域で放送されている上に、アメリカでは『American Ninja Warrior』という現地版の番組も制作されている。『SASUKE』は視聴者に愛されているだけではなく、出場者にも思い入れが強い人が多い。

『SASUKE』のルーツとなった2つの番組

『SASUKE』にはルーツとなる番組が2つあるのではないかと思う。1つは『風雲!たけし城』であり、もう1つは1995年から2004年に放送された『筋肉番付』である。どちらも、挑戦者が体を張ってさまざまなゲームや競技に挑むという形式の番組である。

一般人が体を張って大掛かりなゲームに挑戦するという点では、『たけし城』と『SASUKE』は共通している。

特に、『たけし城』で行われていたテレビカメラに対して出場者が横に動いていくようなゲームでは、テレビのフレーム内でちょこまかと動き回る彼らの姿が、当時流行していたテレビゲーム(ファミコン)の「スーパーマリオ」にそっくりだった。いわば、「ゲームの世界を実際の人物で再現する」というところに演出の核があった。

ただ、『たけし城』では出場者一人一人のキャラクターが詳しく紹介されることはなかったし、出る側も見る側も遊び半分で番組を楽しんでいるようなところがあった。

一方、『筋肉番付』では、プロのアスリートや体力自慢の一般人がさまざまな競技に挑む。その競技の中には、ボールを投げてパネルを打ち抜く「ストラックアウト」のように、純粋にスポーツの実力を問うようなものもあれば、ゲーム的な要素が強いものもある。いずれにせよ、この番組では出場者が競技に挑む姿をお遊びなしの真剣勝負として見せていた。いわば、バラエティ番組の中にスポーツ番組の「真剣勝負」という要素を持ち込んだのだ。この演出が当時は画期的だった。

『筋肉番付』の企画から派生する形で『SASUKE』が生まれた。『SASUKE』でも「真剣勝負」というコンセプトはしっかり受け継がれている。アナウンサーによる実況はスポーツ中継のように真面目なトーンであり、鉄骨で組まれたセットが照明で鮮やかに照らされている。また、出場者のレベルが上がるにつれてステージの難易度も容赦なく上がる一方だ。

難しすぎて近年ではファイナルステージにたどり着く人すら出ないこともあるのだが、番組側は一度上げたレベルを下げることはない。それは真剣勝負の流儀に反するからだろう。

さらに、この番組では作り手の意図を超えて挑戦者の情熱が独り歩きを始めている。そのきっかけとなった人物こそが、現在では「ミスターSASUKE」として知られる山田勝己である。ボンベ配送の仕事をしていた山田は『SASUKE』の第1回大会に参加して以来、その魅力に取り憑かれてしまった。次の大会が開催される保証も何もないのに、自宅に『SASUKE』のステージを再現したセットを製作し、トレーニングに打ち込むようになった。『SASUKE』に夢中になりすぎたことが原因でリストラされ、仕事を失ってしまった。それでも彼は『SASUKE』への挑戦をやめなかった。

山田の常軌を逸した奮闘を見て、彼に続いて熱い魂を持った新しい挑戦者が次々に現れるようになった。いまや、『SASUKE』の常連組の間では「自宅に『SASUKE』のセットを作った」というのは珍しくもなんともない。山田は引退を表明してから、山田を師と仰ぐ者たちを集めて「山田軍団黒虎」という団体を旗揚げした。そこで指導者として後進の育成にあたっている。

『SASUKE』は生き様を楽しむ人間ドキュメント

たかがテレビの一企画にすぎないものに人生を懸けている人々がいる。『SASUKE』は、回を重ねるごとに、彼らの生き様を楽しむ人間ドキュメントの様相を呈してきた。

『たけし城』で出場者たちはただゲーム感覚で楽しく遊んでいるようなところがあった。一方、『筋肉番付』ではプロのアスリートによる真剣勝負が行われていた。

『SASUKE』では、両方のいいところを取って「たかがゲームになぜか真剣に挑む人々」を描いたことで、そこにドキュメンタリー性が生まれた。地上波テレビの影響力が年々下がっていると言われるこの時代に、多くの人々を熱狂させている『SASUKE』という番組は、存在自体が1つの奇跡である。

そんな『SASUKE』の総合演出を務めてきた乾氏ほど、『たけし城』の復活企画を手がけるのにふさわしい人物はいない。単なる懐古趣味にとどまらない、新しい時代の『たけし城』は、『SASUKE』に劣らないほど見ごたえのあるものになるだろう。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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