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コロナ休業中の千鳥ノブの「クセがスゴいツッコミ」はなぜあんなに面白いのか?

ラリー遠田作家・お笑い評論家

2月6日、千鳥のノブが新型コロナウイルスに感染したことを所属事務所の吉本興業が発表した。療養のためにしばらく休業することになる。

千鳥はここ数年、すさまじい勢いで仕事を増やしてきた。現在の彼らは『テレビ千鳥』『チャンスの時間』『いろはに千鳥』といったマニアックなお笑い要素の強い番組から、『千鳥のクセがスゴいネタGP』『クイズ!THE違和感』のようなゴールデン・プライムタイムの大衆的な番組まで、幅広いジャンルのレギュラー番組に出演している。

特に、テレビでは司会業もこなすノブの活躍ぶりが際立っている。テレビ朝日では『ノブナカなんなん?』という冠番組を持ち、『林修のニッポンドリル』ではサブMCを務め、『ぐるぐるナインティナイン』ではゴチメンバーとしてレギュラー出演している。

ノブの存在が世間一般に認知されたのは「クセがすごい」というフレーズが広まった2016年頃だろう。それまでの千鳥は「満を持して東京に出てきたもののくすぶっている芸人」として知られていた。

東京に進出した途端にレギュラー出演していた『ピカルの定理』が終了するなど、常に逆風にさらされてきた。ノブが番組の企画で芸名を「ノブ小池」に変えられるという明らかな迷走もあった。

だが、そこから千鳥は見事に這い上がってきた。その根底にあるのはもちろん、2人の芸人としての圧倒的な実力である。ただ、それに加えて、ノブがテレビタレントして一皮むけたことが大きかったのではないかと思う。

もともと大悟は笑いに対するこだわりが人一倍強く、見た目も芸風もデビュー当時からほとんど変わっていない。毎晩のように酒を飲み、タバコを吸い、ときには女遊びもする、絵に描いたような芸人気質の人間だ。

初めから「完成品」だった大悟に対して、ノブは一歩一歩着実に成長を続けてきた。初期の千鳥は、大悟の独創的なボケに対してノブのツッコミがやや平板な感じがあった。

だが、東京に出てきたあたりから、ツッコミのやり方が少しずつ変わった。具体的に言うと、繰り出すフレーズの切れ味が増して、言葉の勢いも強くなった。

「たとえツッコミ」を得意とする芸人は多いが、ノブのワードセンスは独特である。あまりほかの人が使わないようなフレーズをあえて持ってくることが多い。多くの場合、たとえツッコミで起こるのは「言い得て妙」の共感の笑いなのだが、ノブの場合には「よくわからないけどそうなのかなと思わせる」という絶妙なところを突いてくる。その境地にたどり着いたことでノブのツッコミは爆発的に面白くなった。

そして、もちろん言葉を発するときのタイミングや強さも重要だ。「◯◯じゃ」「◯◯せい」「◯◯すな」といった岡山弁混じりの言葉や、「クセがすごい」といったオリジナリティのあるフレーズを、これでもかというくらい粘っこい言い方で口に出す。他人に「クセがすごい」と言っているノブこそが、いまや日本一の「クセツッコミ」の使い手である。

ツッコミの技術は「何を言うか」と「どう言うか」の2点に集約される。その両方の要素で上積みをしたことで、ノブはメジャーへの階段を駆け上がっていった。

もちろん、見た目の変化も重要だ。ノブは美容に気を使うようになり、ヒゲを脱毛して、前髪を上げた。ただそれだけのことで千鳥というコンビの印象は様変わりした。月並みな言い方だが、華が出てきたのだ。

また、ノブは自分自身を平凡で普通の人間だと言っている。みんなが見ているような流行りのドラマや音楽は一通りチェックして、最新の情報に触れている。その旺盛な好奇心と知識の幅広さが司会にもツッコミにも生かされている。

そんな「クセツッコミの名手」であるノブが休養に入ってしまったのは、お笑い界にとって大きな痛手である。ゆっくり休んでから、また元気な姿を見せてほしいものだ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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