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『ラヴィット!』好調の原動力はMC・川島明の底知れぬ「大喜利愛」

ラリー遠田作家・お笑い評論家

芸人がアスリートだとしたら、筋肉にあたるのが「大喜利力(大喜利の能力)」である。大喜利でお題に合わせて面白い答えを考えるのは、笑いの基礎体力をつけるための訓練になる。それはまさに筋トレのようなもので、やればやるほど筋肉は肥大していく。

お笑い界でも有数の大喜利マッチョ芸人として知られているのが麒麟の川島明である。川島は芸人になる前の中学時代にハガキ職人として『ファミ通』の読者投稿コーナーなどにネタを投稿していた。そのときから鍛え抜かれた大喜利力の高さには定評があり、大喜利番組『IPPONグランプリ』では優勝経験もある。

「タグ大喜利」が話題に

2020年にはそんな川島の著書『#麒麟川島のタグ大喜利』(宝島社)が刊行され、話題を呼んだ。彼がInstagramで始めた大喜利企画を書籍化したものだ。

芸人仲間の顔写真をアップして、その見た目に合ったフレーズを「#(ハッシュタグ)」付きで列挙していく。顔面をお題にした写真型大喜利である。本書にはInstagramで公開された作品だけでなく、『smart』での連載も含まれている。

たとえば、アンガールズの田中卓志の写真には「#図書館でちょっと物音しただけで睨んでくる人」「#竜宮城にて乙姫の前でめちゃくちゃカッコつけてる亀」「#ポップコーンになれなかったトウモロコシの不発弾」といったタグが付けられている。

珠玉の大喜利回答が並んだ最後には「#全てが基準値を超えている死角のない芸人」とフォローをするような人物紹介も付けられていて、これならネタにされた本人も悪い気はしないだろう。大喜利マスターである川島の英知が凝縮された一冊だ。

第1回の『M-1』で注目される

川島の芸人としての伝説が始まったのは2001年である。鳴り物入りで始まった第1回の『M-1グランプリ』。その審査員席には覇王・松本人志がいた。今よりもずっと若く、ギラギラした雰囲気がにじみ出ていた。

決勝の舞台で、そんな松本に無名の新人だった麒麟は激賞された。「僕は今までで一番良かったですね」と言われた。全体順位では10組中5位に終わったが、松本に絶賛されたことで彼らの評価は激変した。

これがきっかけになって麒麟は一気に若手の注目株となった。その後、『M-1』の決勝にたびたび進む常連になり、漫才の腕も年々上がっていった。川島が低音ボイスで繰り出す切れ味鋭いボケに対して、田村裕の高音でとぼけた雰囲気のツッコミが重なる絶妙なコンビネーションが魅力的だった。

本物の筋肉に瞬発力系の「速筋」と持久力系の「遅筋」があるように、大喜利力にも速いものと遅いものがある。遅い方が「ネタを考える力」である。事前に準備してじっくりネタを練って、最高の答えを探し当てる能力のことだ。

一方、バラエティ番組やライブの現場では、与えられた状況で当意即妙の答えを返す瞬発力が求められる。ハガキ職人あがりの川島はもともと遅筋を鍛えていたのだが、芸人としてのステージが上がるうちに、いつのまにか速筋の方もついていた。そして、今ではお笑い界有数のマッチョになった。

『ラヴィット!』放送開始

2021年4月にはそんな彼がMCを務める朝の情報番組『ラヴィット!』(TBS)が始まった。この時間帯では、社会的なニュースや芸能ネタを扱うワイドショーが主流だが、『ラヴィット!』はあえてその逆を行き、純粋なバラエティ番組路線を貫いた。

開始当初は苦戦していたが、最近では芸人が多数出演するお笑い要素の強い異色の情報番組として知られるようになり、ネット上でもたびたび話題になっている。

出演する芸人たちがのびのびと楽しげに振る舞うことができるのは、MCを務める川島が何でも言いやすい温かい雰囲気を作っているからだ。また、どんな状況に陥っても、的確なコメントで笑いを生み出すことができるので、芸人たちも川島の前ではスベる心配をせずに安心してボケを放つことができる。いつしか『ラヴィット!』は芸人たちがボケ倒す「大喜利番組」だと言われるようになった。

芸人になる前から一心不乱に大喜利に打ち込み、大喜利の筋肉を鍛え続けてきた川島は、異色の大喜利番組『ラヴィット!』を生み出し、テレビ業界に新しい風を吹き込んだ。コロナ関連の暗いニュースが目立つ中で、明るく楽しいバラエティ路線を貫く『ラヴィット!』は、視聴者にとって貴重な一服の清涼剤となっている。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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