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『ジェイソン流お金の増やし方』が大ヒット中! 厚切りジェイソンの言葉はなぜ日本人の心を動かすのか?

ラリー遠田作家・お笑い評論家

2021年11月に出版された厚切りジェイソンの著書『ジェイソン流お金の増やし方』(ぴあ)が話題を呼んでいる。芸人でありながら企業役員の顔も持つ彼が、自身の節約術・投資術を赤裸々に公開している。

厚切りジェイソンは2014年の年末に放送されたネタ番組で衝撃的なテレビデビューを飾り、2015年2月にはピン芸日本一を決める『R-1ぐらんぷり』(現在の表記は『R-1グランプリ』)で決勝に進出。外国人目線で日本の漢字のおかしなところを指摘するネタと、その中で何度も絶叫する「WHY JAPANESE PEOPLE!?」というフレーズが話題になった。その後、バラエティを中心にテレビで大活躍した。

前述の通り、厚切りジェイソンは芸人のかたわら、ITベンチャー企業の役員としても働いている。タレントでありながら、ビジネスパーソンとしての感覚も持ちあわせている彼は、多くの視聴者にとってほかの芸能人よりも身近に感じられる存在なのかもしれない。

日本人の悩みを一刀両断する

2015年11月には初めての著書『日本のみなさんにお伝えしたい48のWhy』(ぴあ)を出版した。その内容は、彼が一般人の悩み相談に答えるというもの。実際、当時の厚切りジェイソンのSNSには、多くの人から質問や相談が寄せられていた。いかにも日本人らしいチマチマした悩みごとを、外国人ならではの視点でビシッとした答えを提示するのが痛快だった。著書は順調に増刷を重ねてロングセラーになった。

「仕事内容を教わりたいけど怖くて聞けない」という新社会人の悩みには、「さっさと聞け」と返す。「やりがいのない仕事から転職すべき?」という悩みには「やる意味のないことを続けていても意味がないよ」と返す。彼の回答はどれも正論そのもの。決して突飛なことを言っているわけではない。それが人気を博したのはなぜなのか?

その最大の理由は、彼のキャラクターにある。人に対して助言をするという行為においては、「何を言うか」と同じくらい、またはそれ以上に「誰が言うか」ということが重要だ。厚切りジェイソンのように、流暢に日本語を操り、日本の文化にも理解のありそうなアメリカ人は、日本人の特性や日本社会の矛盾点などを鋭く指摘することができる、というイメージがある。

そもそも日本人は、周りの目を気にして、輪を乱さず足並みを揃えて生きることを美徳とする傾向がある。仲間内で誰か1人が出しゃばったり、堂々と自分の意見を述べたりすることは許されない。ただ、外国人となると話は別だ。外国人は「日本村」という村社会の住人ではないため、引きずり下ろされる心配がない。

多くの日本人は、外国人が自分たちのことをどう見ているかということに異常なまでに興味を持っている。「外国人の目から見た日本」をテーマにしたテレビ番組や雑誌企画は山のようにある。日本人は、内輪の人間にはとやかく言われたくはない。でも、その輪の外にいる人からは何を言われても受け入れられるものなのだ。

日本人は「上から目線」に敏感だ。日本人同士では横並びの意識があり、少しでも上に立とうとする人は忌み嫌われ、集団の圧力で無理矢理引きずり下ろされてしまう。でも、外国人の意見は「上から目線」と思われる心配がない。外国人は上でも下でもなく、いわば「横」のような特異なポジションから日本社会を眺めて発言をしているからだ。

19歳のときに今のパートナーと出会い、交際3カ月で結婚を決めたという厚切りジェイソンは、恋愛でも一切迷うことがない。ウジウジと悩んでいる人の背中を押してくれるような頼もしさがあるからこそ、彼のもとには男性だけでなく女性からも多くの相談が寄せられていた。

「革命」を夢見る男

厚切りジェイソンは、最初の著書の前書きではっきりと「日本で革命を起こしたいです」と語っていた。黒船来航から明治維新が起こったように、日本という国の閉塞感を打ち破るには外圧が欠かせない。

最初の著書では日本人の悩みに答えて、最新の著書では日本人の金融リテラシーを高めようとする厚切りジェイソンは、息苦しい日本社会に風穴を開ける革命児である。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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