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ミスワカナからフワちゃんまで……時代を彩ってきた女性芸人の歴史

ラリー遠田作家・お笑い評論家

12月13日、女性芸人日本一を決める『女芸人No.1決定戦 THE W 2021』(日本テレビ)が行われる。決勝に進んだのはヨネダ2000、紅しょうが、茶々、TEAM BANANA、オダウエダ、天才ピアニスト、女ガールズ、ヒコロヒー、スパイク、Aマッソの10組。見事に優勝の栄冠をつかむのは誰なのか。今年も熱戦が期待できそうだ。

『THE W』は2017年に始まった。女性芸人だけで1つの大会を行うことができるようになったのは、それだけお笑い界で女性芸人の数が増えてきた証である。

ひと昔前までは、お笑いは男の仕事だと相場が決まっていた。業界内で女性芸人は超マイナーな存在であり、その地位も低かった。

だが、近年、この状況が大きく変わった。女性芸人の割合がどんどん増えていて、それなりの存在感を確立するようになったし、テレビではどの局のどんなバラエティ番組にも女性芸人が顔を出している。

さらに、毎年のように出てくる新たな売れっ子の中にも女性芸人が目立つようになってきた。このような「女性芸人全盛時代」が訪れたのはなぜなのか。女性芸人の歴史を紐解きながら考えてみることにしたい。

伝説の女芸人「ミスワカナ」

「お笑い」をどう定義するかにもよるが、お笑いの歴史の始まる頃にすでに女性芸人は存在していた。戦前で最も有名な女性芸人の1人がミスワカナである。彼女は夫の玉松一郎とコンビを組み、夫婦漫才を披露していた。

「しゃべくり漫才の祖」と言われる横山エンタツ・花菱アチャコと同時期に活動していたミスワカナは、軽妙なしゃべりと歌の上手さで人気を博していた。戦時中に中国大陸への慰問に行った芸人集団「わらわし隊」の一員でもあった。

ちなみに、吉本興業をベースにした架空のお笑い事務所を舞台にしたNHKの朝ドラ『わろてんか』で広瀬アリスが演じていた女性芸人リリコのモデルと言われているのがミスワカナである。

漫才ブームで女性コンビも注目された

戦後に入ると、夫婦漫才は漫才の一つのジャンルとして確立された。ミヤコ蝶々・南都雄二、鳳啓助・京唄子、人生幸朗・生恵幸子などが夫婦漫才で人気を博した。

一方、海原お浜・小浜、内海桂子・好江、かしまし娘のように、女性だけのコンビやトリオで活動する芸人も少数ながら存在していた。

関西の女性漫才師が全国区で認知されるきっかけになったのが、1980年に起こった漫才ブームである。フジテレビの『THE MANZAI』という番組を中心にして、新進気鋭の若手漫才師たちが爆発的な人気を得た。その中に今いくよ・くるよ、春やすこ・けいこという女性コンビがいた。

いくよ・くるよは互いの体型や容姿をイジり合い、やすこ・けいこはアイドルや芸能人を厳しくこき下ろしていた。自分たちの見た目を利用する「自虐ネタ」と、他人にキツい言葉を浴びせる「毒舌ネタ」。今も女性芸人がしばしば用いる2つの典型的な笑いの手法が、この時点ですでに確立していたのだ。

天下を取った2人の女性芸人

女性芸人で初めて「天下を取った」と言える存在にまで上り詰めたのは、西の上沼恵美子、東の山田邦子の2人である。長い間、男性芸人の引き立て役に甘んじていた女性芸人が、このとき初めてテレビの中心に立ったのだ。

上沼恵美子は姉妹漫才コンビ「海原千里・万里」の海原千里としてデビュー。高校生とは思えない巧みな話術で瞬く間に人気者になり、「お笑い界の白雪姫」と呼ばれた。

関西ではテレビ・ラジオのレギュラー番組十数本を抱え、歌手として1976年にリリースした『大阪ラプソディー』は40万枚を超える大ヒットを記録。1994年、1995年には『NHK紅白歌合戦』の紅組司会を務めた。

一方、山田邦子は素人参加型のお笑いオーディション番組の常連として活躍していたのをきっかけに芸能界に入った。『オレたちひょうきん族』(フジテレビ)にレギュラー出演してその人気を不動のものにした。80年代後半から90年代前半にかけて数多くのレギュラー番組を抱える大スターになった。

特に、1989年に始まった『邦ちゃんのやまだかつてないテレビ』(フジテレビ)は、ゴールデンタイムに放送された女性芸人の名が冠されたコントバラエティ番組として唯一無二のものであると言っていい。この番組からは『愛は勝つ』『それが大事』などのヒット曲も生まれている。

山田は1989年から1996年までNHKの「好きなタレント調査」で8年連続の1位を獲得していた。これほど圧倒的な大衆からの支持を得た女性芸人は後にも先にも存在していない。

90年代前半には、清水ミチコ、野沢直子、久本雅美、柴田理恵などがバラエティ番組に出るようになっていた。彼女たちは自分たちがお笑い出身であることをそれほど強くアピールしようとはしなかった。

当時は森口博子、井森美幸、山瀬まみなどの「バラドル(バラエティアイドル)」が全盛の時代。アイドルがバラエティに進出した結果、女性アイドルと女性芸人はそれほど厳密に区別されず、横並びで「女性タレント」として世間には認知されていた。

お笑いブームで女性芸人も台頭

テレビに出る女性芸人の数が一気に増えたのは、2000年以降のお笑いブームがきっかけだ。『爆笑オンエアバトル』『エンタの神様』『爆笑レッドカーペット』などのネタ番組が注目されるようになり、そこから新しい若手芸人が続々と現れるようになった。

その流れの中で、北陽、ハリセンボン、友近、青木さやか、にしおかすみこ、いとうあさこなど、女性芸人の新鋭たちが続々とテレビになだれ込んできた。

また、近年に入って、女性芸人はますますテレビで重宝されるようになっている。なぜなら、テレビ制作者が今まで以上に女性視聴者の目線を意識するようになっているからだ。

スポンサー企業は自社の商品宣伝のためにテレビにCMを出す。そこで広告効果が最も高いとされているターゲットが「F1層」と呼ばれる20~34歳の女性である。彼女たちは一様に好奇心旺盛で購買意欲が強い。スポンサーにとって最も重視すべき「お客さん」なのだ。

だからこそ、テレビ制作者も女性の視聴者を意識して番組を作ることになる。数多くのタレントが出ているバラエティ番組では、必ずと言っていいほどアラフォー世代の女性芸人がひな壇の一角を占めている。彼女たちは、F1層の女性たちの気持ちを代弁するようなコメントをしてくれる貴重な存在なのだ。

女性芸人を分類する

現在、テレビで活躍する女性芸人はいくつかの種類に大別できる。体を張ったロケやグルメ企画などで重宝される「王道型」。森三中、3時のヒロイン、ぼる塾などがこのタイプに属する。

次に、30~40代の主婦や働く女性たちの本音を面白おかしく代弁して共感を得る「アラフォー型」。光浦靖子、大久保佳代子、いとうあさこなどがこのタイプだ。

また、鋭いセンスで独創的なネタを演じて爆笑を取り、同業者の男性芸人からも一目置かれるような「天才型」もいる。友近、ゆりやんレトリィバァなどはこのタイプである。

さらに、夫婦漫才などの従来の形に囚われない「新感覚男女コンビ型」もいる。この先駆けとなったのは南海キャンディーズだろう。カップルでも夫婦でもない関係の男女コンビは当時は珍しがられたものだ。最近では、メイプル超合金、相席スタート、納言、ラランドなど、ビジネスライクな男女コンビはもはや珍しいものではなくなった。

若者のカリスマになった渡辺直美

また、若い女性を中心に熱狂的な支持を得る「カリスマ型」というのも存在する。渡辺直美がその典型である。

渡辺直美はもともとビヨンセの口パクものまねでテレビに出始めた。巨体を揺らして切れのあるダンスを堂々と披露する姿が印象的だった。その後、コント番組『ピカルの定理』(フジテレビ)にレギュラー出演して、若者からの支持を獲得。

さらに、インスタグラムでお洒落な私服姿を披露したり、笑える写真や動画をアップし続けたことで、若い女性のファンが急増していった。現在、インスタグラムのフォロワー数では日本一を誇る。

2016年にはニューヨーク、ロサンゼルス、台北(台湾)を回るワールドツアーを敢行して、2017年には『カンナさーん!』でドラマ主演を果たした。また、渡辺は持ち前のファッションセンスを生かしてブランド「Punyus」のプロデュースも手がけている。渡辺の体型にも合う大きめのサイズでお洒落なデザインの服が揃っているのが売りだ。

渡辺は世の女性たちに向けて「太っていても自信を持ってお洒落を楽しめばいい」という前向きなメッセージを送っている。彼女はいまや芸人の枠を超えたファッションリーダー的な存在になりつつある。

上下関係に縛られないのが強み

実は、女性芸人には男性芸人と比べて有利な点が1つある。それは、上下関係にあまり縛られないことだ。男性芸人はどうしてもピラミッド型の権力構造から逃れられない。後輩が先輩に逆らうことは許されない。駆け出しの若い男性芸人が先輩芸人に少しでも生意気な口を利いたりしたら、その場の空気が悪くなるのは間違いない。

しかし、若い女性芸人が先輩に噛みついても、それほど嫌な印象を与えないことが多い。女性芸人は男性社会の規律に縛られず、のびのびと行動することが認められている。

だからこそ、芸歴2年目で売れたブルゾンちえみのように、女性芸人は芸歴や年齢に関係なく即戦力となる可能性を秘めている。異色のYouTuber芸人のフワちゃんが大ブレークしたのも、上下関係に縛られないタメ口キャラが斬新だったからだ。

また、マイノリティであるという特権を最大限に生かして、男性芸人の間に割って入ることもできる。友近やゆりやんレトリィバァなどは、実力もさることながら、目上の芸人を相手にしても堂々と自分のペースを貫くその度胸が業界人から称賛されることが多い。

一般社会における女性の地位向上の動きと共に、女性芸人のあり方も変わってきた。女性芸人全盛の今があるのは、ピュアに笑いに打ち込んできた先人たちが苦労を重ねてきたおかげなのだ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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