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『霜降り明星のオールナイトニッポン0』で新たな伝説! 霜降り明星が「超一流」である理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

6月19日深夜放送の『霜降り明星のオールナイトニッポン0』(ニッポン放送)は、どういう内容になるのかオンエア前から注目されていた。なぜなら、その直前の6月18日に『文春オンライン』で、霜降り明星のせいやによる一般人女性へのセクハラ疑惑が報じられていたからだ。

記事によると、せいやはウェブアプリ「zoom」で女性に対して下半身を露出するセクハラ行為に及んでいたのだという。ラジオの生放送ではこの件について何らかの言及をするだろうと思われていた。テレビやラジオでの芸能人の発言を書き起こして記事を作成するネットニュース記者たちも、この日の放送に耳を傾けていたはずだ。

そんな中で意外なことが起こった。冒頭から、渦中の人であるせいやは「ポケットいっぱいの秘密」というコーナーを始めると宣言して、リスナーのメールを読みつつ1人で絶え間なくしゃべり始めた。相方の粗品もところどころで口を挟むのだが、せいやのしゃべりは止まる気配がない。そのまま何十分か経ったところで、多くのリスナーは異変に気付いたはずだ。

「ひょっとして、このまま最後まで行く気だろうか?」

普通に考えると、冒頭からせいやが話し続けるのは、自分のスキャンダルについて触れられたくないからだ。この後の段取りとしては、ある程度までしゃべらせたところで、ツッコミ担当の粗品が割って入り、無理矢理話を止める。そして、何とかごまかそうとするせいやを制して、みんなが気になっている報道内容についてじっくり話を聞くことにする。せいやは笑いを交えながらも必死に釈明をする。

最もオーソドックスに考えるなら、そんな展開が予想される場面である。多くの芸人は、こういう事態のときにはこれに近い対応を行っている。

実際、1年前に粗品が週刊誌で熱愛報道をされたときには、彼らはもっと赤裸々にそのことについてラジオで語っていた。口ごもる粗品に対して、せいやが週刊誌の記事を読み上げながら話を聞いていくのが面白かった。

だが、今回の霜降り明星は、そんな大方の予想を大きく覆した。せいやはひたすらしゃべり続け、ボケ続けることだけで2時間の生放送を駆け抜けた。出てくる話題もその都度バラバラだった。キーワードから連想したことを口にすることもあれば、テレビや映画のワンシーンをものまねを交えて細かく再現するくだりもあった。さらに、粗品と一緒に漫才を演じる一幕もあった。せいやの脳みそというおもちゃ箱をそのままひっくり返したような内容だった。

粗品はそれにツッコミをいれたり、リスナーからの感想メールを読み上げたりしながらも、せいやを無理に止めることはなかった。むしろ、要所要所で合いの手を入れながらも自由に走らせていた。

スキャンダラスな内容を期待していたネットニュース記者にとっては、とんだ拍子抜けだっただろう。書き起こすべき情報はゼロ。ただ1人の芸人が2時間かけて好き放題にボケ続けただけだった。そこには謝罪も反省も釈明も何もなかった。

霜降り明星の2人は、普段のラジオのときには私服を着ているが、この日は漫才を演じるときの衣装を着て生放送に臨んでいた。そこにも彼らの並々ならぬ決意と意気込みが感じられる。

人々の期待に応えるのが「一流」だとすれば、人々の期待を超えるのが「超一流」だ。歴代最年少で『M-1グランプリ』を制し、名実ともに「お笑い第七世代」のリーダーである霜降り明星は、自分たちが超一流の芸人であることを改めて世間に知らしめた。

個人的にも、今回の彼らのパフォーマンスには度肝を抜かれた。霜降り明星が才能豊かな面白い芸人であることは知っていたが、それ以上に彼らは存在として「強い」芸人であると感じた。彼らはスキャンダルをネタにするのではなく、腕力だけでそれをはねのけた。

お笑いの世界でのし上がっていく芸人は、例外なくこの強さを持っている。お笑い界に燦然と輝く一等星・霜降り明星の今後をわくわくしながら見守りたい。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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