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サイコパス芸人!? バイきんぐ・西村瑞樹の魅力

ラリー遠田作家・お笑い評論家

本日4月23日は、バイきんぐの西村瑞樹の誕生日である。バイきんぐは2012年にコント日本一を決める『キングオブコント』で優勝して一躍その名を全国にとどろかせた。この年の決勝は、8組中6組が初の決勝進出という本命不在の大混戦だった。バイきんぐは小峠英二と西村の2人から成る。坊主頭の小峠とガッシリ体型の西村。無骨な外見の2人が演じた2本のコントはこの日一番の爆笑を巻き起こし、彼らは栄冠をもぎ取った。

バイきんぐのコントは、ボケとツッコミの役割が明確に分かれている。西村がボケで小峠がツッコミだ。コントの設定は比較的オーソドックスなものが多い。彼らのネタに特徴的なのはボケとツッコミの力加減だ。西村が演じる人物は、どこかとぼけていておかしいところがある。本人は普通と思ってやっていることが常識から外れていたりする。

ツッコミ役の小峠は、話が進むにつれて少しずつそれに違和感を抱き、ツッコミの口調がだんだん強くなっていく。西村はいかにもという感じで露骨にボケたりはせず、あくまでも奇妙な人物を演じているだけ。小峠はそんな西村に驚き、戸惑いながら、その困惑を「ツッコミフレーズの絶叫」という形で表現する。

彼らのネタのクライマックスでは、小峠のツッコミの言葉の切れ味も最高潮に達する。『キングオブコント』の決勝1本目のネタの後半では、小峠は「なんて言えばいい!」と叫んだ。西村が突然切り出した何とも言いようがないどうでもいい話題に対して、二の句が継げなくなり、言葉に出せないこと自体を言葉にして叫んだのだ。ここで大きな笑いが起こった。

また、2本目の山場では、小峠は「なんて日だ!」と叫んだ。西村の突然の来訪により、小峠の身に不幸なことが一度に2つ降りかかったことが明らかになり、言葉にできない言葉がこぼれ落ちたのだ。いずれも、言い方が強いし、言葉自体も強い。小峠はこの決めフレーズを発するとき、全身の筋肉を使って会場全体にとどろくように声を振り絞る。その必死な姿がさらに笑いを増幅していく。

強いボケに強いツッコミを重ねる、というコンビはたまにいる。だが、バイきんぐのように弱くぼんやりしたボケに強いツッコミをぶつける形のコンビは割と珍しい。小峠は、観客に自分の言葉が届くことを信じて、のどを振り絞って全力でつっこむ。そこに見る者はひきつけられて、いつのまにか笑わずにはいられなくなるのだ。

優勝してからのバイきんぐは、すさまじい勢いで数々のテレビ番組に出演した。小峠はいまやMCとして番組を仕切る存在にもなっている。

一方の西村も、何を考えているのか分からない飄々としたキャラクターで人気を博している。「サイコパス芸人」などと言われ、数々の奇人エピソードを持っている。独身時代には家を片付けるのが面倒臭かったため、ゴミ屋敷のように散らかった部屋に住んでいた。来客があったときに片付けるのも面倒なので、ゴミの山にブルーシートをかぶせていたら、家に来た友人に「殺人現場みたいだな」と言われたこともあったという。

そんな西村はテレビの企画でも予測のつかない行動をするのが面白い。過酷なロケのときにもあまり弱音を吐かず、いつもマイペースで悠々自適に人生を楽しんでいる姿も好感を持たれているのだろう。「サイコ西村」には、サイコだけでは片付けられない得体の知れない魅力がある。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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