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【対談・東野幸治×佐久間宣行】素晴らしき芸人の世界を語る

ラリー遠田作家・お笑い評論家
佐久間宣行(左)と東野幸治(右)のトークショーの模様(撮影:山田渡)

2月27日、東野幸治の著書『この素晴らしき世界』(新潮社)の出版を記念して、八重洲ブックセンター本店でトークショーが開催された。ゲストはテレビ東京のプロデューサーの佐久間宣行。お笑いやテレビについて彼らがじっくり語り合った。

藤井健太郎と佐久間宣行の演出の違い

東野:芸人を仕事で使う上で、(オードリーの)春日(俊彰)くんとか大西ライオンとか、興味があってイジりたい人を使うタイプかどうかって分かれるやないですか。

佐久間:僕だったら例えば、麒麟の川島(明)さんとか、ちゃんとできる人がいたら、(そうではない人も)1人いた方がいいだろうなというので入れるんですけど。だいたい結果はそんなに出ないですね(笑)。

東野:ひどい! でも、TBSの藤井健太郎(『水曜日のダウンタウン』演出)だったら、川島を入れずに大西ライオンと春日を入れるでしょ。

佐久間:入れますね。

東野:そこはまた演出の仕方が違うんですよね。

佐久間:藤井くんは最終的に編集で何とかする人なんで。あと、藤井くんの番組は最終的にダウンタウンさんがサブ出し(スタジオで流すVTR)で見るじゃないですか。だから何とでもなるんですよ。

東野:松本(人志)さんや浜田(雅功)さんが面白コメント言ってくれるんで、オチるんや。

佐久間:あと、あの悪意のあるナレーション。

東野:『水曜日のダウンタウン』でワイプに全然笑ってへん松本さんの画が5秒くらい映ることがあるでしょ。あれ、わざとでしょ?

佐久間:はい、そうだと思います。あと、人が本当にビビってるときの浜田さんの笑顔。

東野:そういう意味では確かに(ダウンタウンは)面白い人やし。芸能人でもタイプ分かれるんですよね。僕はどっちかというと表に出ていくタイプの人間じゃないので、この本も何となくスタッフ目線で書いてると思う。

佐久間:これ、そういう意味ですごい面白いですね。リットン調査団がネタ中に女子高生に「おもんない!」って言われた話、最高です。

東野:それ、最高じゃないですよ。僕、若いときにその光景を泣きながら見ていたんですから。生放送中に「おもんない!」とか「か・え・れ!」とか(笑)。なんでそんなこと言われなあかんねんって。今はバイトしてがんばってますからね。

佐久間:そうですよね。

東野:これ、本には書かなかったんですけど、リットン(調査団)の藤原(光博)さんが前の奥さんと別れたときの話があるんですよ。藤原さんが前の奥さんと晩ご飯を食べているときに、お金がないからおかずが6本のウインナーしかなかったんです。で、藤原さんはお腹が空いていたからウインナーを1本食べて、2本目、3本目も食べて、4本目も食べたんですよ。

ほんなら奥さんが「もう嫌や!」って言うたんですよ。4本目を食べたときに「これ、私のやん」って思ってカーッてなった。そんな自分の状況がもう嫌やって。この話、僕はめちゃめちゃ好きなんですよ。切ない話なんですけども。現在は藤原さんは機嫌よく清掃のアルバイトをしております。

佐久間:本の中でも結構切ないのはありましたよ。あと、なんでこんなことを書くんだろうなと思ったのは、ダイノジの大谷(ノブ彦)さんが、東野さんのコラムの後に自分の近況を書いているんですけど、そこで「息子が登校拒否になっちゃいました」って。こんなこと普通書きます? どういう気持ちで読めばいいんだよ、と思って。

東野:あれは、僕がLINEで本人に対して「こういう原稿になりました。どうですか?」みたいなことを書いたんですよ。ほんなら、こっちは先輩やし、てっきり「ありがとうございます」みたいなのが来ると思っていたら、「本当に影響力があるのでやめていただきたいです。息子が登校拒否になりました」って返ってきて(笑)。申し訳ないけど、めちゃめちゃ笑ってもうたんですよ。

佐久間:あと、トミーズ健さんのホノルルマラソンのエピソードは腹を抱えて笑っちゃいました。スタート地点で3万人が集まっているときに、靴ひもがほどけていて、しゃがんで靴ひもを結ぼうと思ったら、後ろから走り始めた何千人もの人に踏みつぶされて、膝を割ってしまったっていう。

東野:関西のレジェンド芸人って愛されてるんですよね。『ゴットタン』でも取り上げてくださいよ。僕の希望としては、これの第2弾、第3弾として、また違う人がいろんな吉本芸人のことを書いてくれたらいいと思うんですよね。面白い会社やな、エンターテインメントの会社やな、というのが皆さんに提示できたらいいのかなと思ってます。

ナベプロは大学のサークルっぽい

佐久間:やっぱり事務所ごとにカラーが違いますもんね。

東野:そう! だから、人力舎でもこういうのを書いてほしいですよね。それぞれの事務所で書いていただいたらありがたいかな、と。

佐久間:僕はこの間、ナベプロ(ワタナベエンターテインメント)の「ワタナベお笑いNo.1決定戦」っていうのに審査員として出たんですよ。そしたら、ナベプロの若手がみんな大学のサークルくらい仲がいいんですよ。「お前、あのネタ面白いな!」みたいな。爽やかにネタを褒め合ったりしていて。

東野:ですよね。だから、あの世代の四千頭身とか、アキコとか。

佐久間:ああ、ハナコですね。(会場笑)

東野:僕もう、わかれへんから。みんな仲いいですもんね。

佐久間:で、最後に僕は別の仕事でちょっと早く出ないといけなかったんですけど、そしたらナベプロの社長が「みんな、佐久間さん出るよー! 佐久間さんと写真撮りたい人いるー?」って。それでみんなワーッと集まってきて。本当にすげえ仲いいな、っていう。

東野:僕らのときはもう全員にらみつけてましたもんね。だから、吉本芸人って本当に感じ悪かったでしょう?

佐久間:そうですね、それは間違いないと思います。だから僕、東京芸人で番組を始めたんです。(吉本芸人は)怖すぎて。

東野:でしょうね。だからそこは申し訳ないなあと思います。今の世代は吉本芸人でも本当にみんな優しいし、他人の邪魔をしてまで前に出ようっていう人がいないでしょう。

佐久間:いないですね。

東野:ほんこんさんなんか一時期、若手がしゃべろうとしたら、テーブルの下でヒザをグッとつかんでましたからね。我々はそういう世代の人間ですから。

佐久間:それの最後の方が品川(祐)さんくらいですか?

東野:あー、そうですね。品川はいつもギスギスしてて。その後はみんな仲がいいというか、あんまりお酒も飲めへんし、喧嘩もせえへんし、あとはゲームしてるっていう。だから、一時期、浅草花月でゲーム禁止になったんです。

佐久間:どういうことですか?

東野:浅草花月って古い寄席やから、大阪から師匠も出て来ていたんです。ほんなら、東京の若手の芸人とかは、もうずっとゲームしてるんですよ。大阪から来た師匠たちはみんなおしゃべり好きじゃないですか。全然しゃべりにも寄ってこうへんし、なかなか話もせえへんから、マネージャーにキレて「若手全員ゲーム禁止や!」って。で、ゲーム禁止になったっていう。やっぱりベテランとか我々の世代はしゃべりたいんですよ。

吉村はいつもがんばっている

佐久間:第7世代は特にそうですよね。EXITとかはもう、パッと見ると別にお笑いのことを考えているんじゃなくて、ネットで服を見てたりしますからね。

東野:これを書いていたときは、EXITとかそんなに出てませんでしたからね。もうちょっと遅かったら書いたのに。

佐久間:『ゴッドタン』の芸人マジ歌選手権のリハーサルをするために、EXITと(ダイノジの)大地(洋輔)さんのスケジュールを合わせるんですけど、EXITの方に大地さんを合わせようとすると、全部合うんですよ。で、テレ東に入るときに、EXITは普通に入れたんですけど、大地さんは警備員に止められたんです。マジ歌に出るの5回目ぐらいなんですけど。

東野:大地は腐らずやりますよね。だからみんなに愛されてるし。なんかほんとにもう芸人のいい香りがするでしょう。

佐久間:する、する。

東野:ああいう人がもっと何かフィーチャーされてほしいなと思うんです。でも、書き手としては、やっぱり大谷くんの方を書きたくなるんです。なんかこうペンが走るというか、(スマホで書く)親指が踊り出すというか(笑)。

佐久間:あと、この本を読んでいて、東野さんは(平成ノブシコブシの)吉村(崇)のこと好きだなあって感じましたね。僕も吉村好きなんです。

東野:吉村はいつもがんばってるますよね。昨日、吉村と仕事が一緒だったんです。TBSの深夜の番組で、最終回の収録をしたんですよ。で、吉村にあいさつしたらちょっと元気なくて。「どうしたんや?」って言ったら「今日、自分の番組終わるの2本目なんです」って。さっき撮った番組が終わり、これも終わり、明日の番組も終わりますかね、って。ちょっと今、あんまり指名が来てないみたいで。今度また電話してあげてください。

佐久間:吉村さんはお笑いじゃないところでがんばっているんですよね。情報番組とかでちょっとお笑い要素が欲しいっていうところでがんばってくれるから。もしかしたらそれが最近求められていないのかもしれない。

東野:我々というのは本当にもう風俗嬢ですから、電話一本かかってくるのを待つだけなんですよ。僕の場合はアナルもディープキスもNGなんですけど、吉村は今のところアナルOK、ディープキスOK、聖水OKですから。

佐久間:確かに『あちこちオードリー』でも、(オードリーの)若林(正恭)くんが「これは自分では答えたくないな」っていうときに吉村に振るって言ってました。

東野:ヨゴレ役とかゲスいこともやってくれるっていう立ち回りですから。そういう意味ではありがたい存在ですよね。

佐久間:いや、本当にありがたいですよ。僕はすごく助かるんですけど。

佐久間Pがいま気になる芸人は?

東野:逆に聞きたいんですけど。吉本芸人の中で佐久間さんがいま気になる人って誰なんですか? ちょっと仕事してみたいな、っていう人。

佐久間:もちろん僕は東野さん、加藤(浩次)さんがすごく好きでお仕事したいんですけど、ちゃんとハマってお互いにいい仕事したね、って思ったことがないのが、(南海キャンディーズの)山里(亮太)なんですよ。

東野:ああ、なるほど。

佐久間:山ちゃんは『ゴッドタン』に出てもらったときにすごい面白かったですけど、あの頃の妬み嫉みって、今の山ちゃんとはまた違うんですよね。

東野:確かに今、山ちゃんと何かやるとして、企画を考えるのが難しいですよね。

佐久間:そうなんですよ。山ちゃんは完璧すぎるから。

東野:佐久間さん、東野幸治はどうなんですか? どういう仕事をしていけばいいですか?

佐久間:いや、東野さんはどんな番組でもできるでしょ。でも、ラジオに近いけど、好き勝手に言える番組を持ったら面白そうだなと思います。

東野:今めちゃめちゃいいこと言ってくれましたね。俺、YouTubeを始めたんですよ。家で1人で録音していて。

佐久間:東野さんのそういうトークが聞きたいんですよね。自由にしゃべるっていうのがこれから求められていくような気がしますね。

東野:じゃあ、また企画書を書いてくださいよ。書いてくれてるんでしょ、俺の企画書。

佐久間:書いてるけど、全然通んないんですよ。(会場笑)

東野:そういう企画書を今後も書いていただくということで。本当に今日はお忙しい中、佐久間さん、どうもありがとうございました。

佐久間:ありがとうございました。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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