Yahoo!ニュース

【対談・室木おすし×ラリー遠田】ドリフ、ウンナン、ダウンタウン……79年世代がお笑いの原体験を語る

ラリー遠田作家・お笑い評論家
室木おすし氏(撮影:ラリー遠田)

2019年12月25日、イラストレーターの室木おすしさんの著書『君たちが子供であるのと同じく』(双葉社)が出版されました。この本では、おすしさんの少年時代の思い出がエッセイ漫画として描かれています。

私(ラリー遠田)はおすしさんと同じ1979年生まれです。本作を読んでいても同世代だからこそ刺さるような表現が多く、とても面白かったです。そこで、友人でもあるおすしさんとの対談を行うことにしました。同世代として、どんなお笑い番組を見てきたのか、どんな芸人が好きだったのか、といったことを中心にして、自分たちの子供時代のことを振り返ってみたいと思います。

【注:子供の頃の気持ちを思い出して語っているため、一部の人名をあえて敬称略にしています。】

室木おすし著『君たちが子供であるのと同じく』(双葉社)
室木おすし著『君たちが子供であるのと同じく』(双葉社)

すべてはドリフから始まった

ラリー:『君たちが子供であるのと同じく』を読ませていただきました。やっぱり同世代として「これ、分かるわー」と思うところが多くて、そういう意味でも面白かったです。

おすし:ありがとうございます。

ラリー:たぶんほかの世代の人が読んでも面白いと思うけど、79年世代が読むと特に刺さるというところも多い。

おすし:そうなんですよね。79年じゃなくても近い年の人だったら小学校時代のときの感じが同じ空気だと思う。

ラリー:やっぱり「昭和」ってことですよね。ギリギリ昭和の子供たちの感覚というか。

おすし:そうですね。昭和になっちゃいましたね。

ラリー:そんな79年世代の僕たちがどんなお笑い番組を見て育ってきたのか、っていう話をしたいんですけど。最初はドリフですよね。『8時だョ!全員集合』(TBS系)は見ていましたか?

おすし:見てましたよ。やっぱりドリフですよね。

ラリー:80年代前半って『全員集合』があって、その裏で『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系)が始まったじゃないですか。でも、この79年世代は、どっちかというと『全員集合』を見ていたと思うんですよ。『ひょうきん族』はもうちょっと上の世代じゃないと楽しめないところがあって。

おすし:たぶん5歳ぐらい上からだと思うんですよね。3歳上の兄がいるんですけど、そんなに『ひょうきん族』派っていう感じではなくて、一緒にドリフを見ていました。『全員集合』が終わった後の『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』(TBS系)も見てました。

ラリー:僕らの最初のカリスマって志村(けん)ですよね。

おすし:志村ですね。完全に志村。

ラリー:もうちょっと上の世代だと、加トちゃん(加藤茶)がエースだった時代のドリフの印象が強いらしいんですけど、僕らの時代は完全に志村がエースだったじゃないですか。

おすし:もうワントップみたいな感じでしたよね。

ラリー:『全員集合』が終わって加トちゃんと志村というドリフのエース2人が独立して番組をやるっていうので、すごいワクワクしたのを覚えてます。

おすし:めちゃくちゃワクワクしましたね。

ラリー:で、実際めちゃくちゃ面白かったですよね。

おすし:面白い。あれは『ドラゴンボール』で言うと、悟空とピッコロが組んだみたいな感覚ですよね。

ラリー:そうですね。ラディッツと戦うときの。子供の頃、志村のものまねとかやってなかったですか?

おすし:覚えていないけど、してたのかな。

ラリー:僕はものまねというか、当時お笑い好きの友達がいたので、そいつと架空のコンビを組んで『加トケン』ごっこ的なことをやってました。2人が探偵役になってボスからの電話に出る、っていう。

おすし:あった、あった。で、電話の線がつながってないっていう。

ラリー:加トちゃんだけ受話器で出るんだけど、志村は受話器がなくて、聴診器を電話に当てて電話に出るとか。

おすし:あれ、めっちゃ面白かった。でも、それだと、どっちが志村をやるかで揉めないですか?

ラリー:あれはいま思えば、どっちも自分は志村だと思っていたんじゃないかという気がする。

おすし:なるほど!

ラリー:小1から小2ぐらいの時期はとにかくそれを毎日延々とやっていました。

おすし:それって、割とませているというか、大人びた楽しみ方な気がしますね。僕はもう真似ようとも思わなかったかもしれないな。

ラリー:僕らの世代にとって『加トケン』の何が衝撃的だったかと言うと、ちょっとおしゃれだったんですよ。2人が探偵の設定のコントが毎回あって、あの2人が同じ事務所にいて、2段ベッドみたいなのに寝て暮らしているんですよ。あの生活にちょっと憧れていたんです。

おすし:分かる! ちょっと上の世代が『傷だらけの天使』(日本テレビ系)に憧れたみたいな感覚が、『加トケン』のあの部屋にもあったんですよね。

ラリー:たぶんあれ自体が『探偵物語』(日本テレビ系)のパロディだから格好いいのは当たり前なんだけどね。

おすし:確かに何か良かったよね。最先端の感じがあそこにあった。

ラリー:今でこそ志村さんって、どっちかと言うと古典的なコントをやる人みたいに思われているでしょう。でも、当時は新しかったですよね。

おすし:確かに志村は最先端だったもん。

ラリー:あと、志村さんは『加トケン』をやる一方で『志村けんのだいじょうぶだぁ』(フジテレビ系)もやっていたんですよ。それがまたすごかった。

おすし:『だいじょうぶだぁ』の方がさらに志村感が強くなっていたよね。

ラリー:小学生の頃にドリフとか志村に触れた経験が、今となってはすごく良かったと思うんですよね。あれが笑いの基本みたいなところがあるじゃないですか。あれを経てからのダウンタウンとかウッチャンナンチャンだったと思うんです。

おすし:確かにそこを経ないと、ダウンタウンのすごさに気付けないかもしれないですね。でも、いま自分の子供にドリフを見せられるかと言われたら、見せらんねえなと思いますよ。当時、『全員集合』ってPTAからも苦情が来ていて「子供に見せたくない番組」の1位になっていたじゃないですか。で、自分が子供の頃は「ドリフの何がそんなにダメなんだよ」って思ってたけど、親の立場になったらすげえ分かるんですよ。

ラリー:分かる、分かる。めちゃくちゃ暴力的だし。

おすし:エロいこともすぐやるし。

ラリー:ギャグもきついですよね。志村が「死ね」とか言って、いかりや長介の葬式の写真がドーンと出てくるみたいなのがあるんですよ。ブラックなギャグが今の感覚で言うと明らかに度を過ぎている。でも、だからこそやっぱり、お笑いの振り幅としてあれをあの時期に知っておいて良かったな、というのはありますね。

おすし:確かにそうかもしれないですね。タライが落ちてくるとか、リアクション芸みたいなところも多かったじゃないですか。ああいう面白さって普遍的なものですよね。

79年世代が見るビートたけし

ラリー:ビートたけしとかはどうでしたか?

おすし:好きは好きだったけれども、たけしを面白いと認識し始めたのは『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)を見始めた小学校高学年ぐらいで。それまではちょっと怖い人というイメージが強くて。たけしって見てましたか?

ラリー:僕も全く同じですよ。『風雲!たけし城』(TBS系)とか『ビートたけしのスポーツ大将』(テレビ朝日系)は見ていたんですけど、あれってそんなにたけしが前に出る番組じゃないから、そこまで良さが分からないんですよね。

おすし:『たけし城』では本当に悪役でしたよね。

ラリー:最終決戦のところでたけしが一般人と戦うんですけど、そこで一般人をボロボロにするんですよね。たけしだけがいい装備の車に乗っていて。

おすし:そうそう、子供心に「マジかよ、こいつ、ふざけんなよ」と思ってたもん。

ラリー:いま考えたら、めちゃくちゃ面白い番組ですよね。すごくお金がかかっているし。『SASUKE』(TBS系)の元祖ですもんね。

おすし:確かにそうだ。綱渡りしているところに、めちゃくちゃ勢いのあるバレーボールがボーンと飛んできて、足に当たるけど歩かなきゃいけない、みたいなやつがあったじゃないですか。みんなが一生懸命、痛いはずなのに我慢して狭いところを歩いているのが、すごいアホ臭いな、と思って。あれは面白かったですね。

ラリー:最近『たけし城』のDVDを見たことがあるんですけど、やっぱりいま見てもめっちゃ面白いんですよ。今の感覚だと、一般人に対する扱いがひどいんです。でも、それが面白い。

おすし:そういうのを求めて若者たちが集まってきていたからね。たけしにひどい扱いを受けたい、と思って。

ラリー:今はそれがダメな時代だから、『SASUKE』とかもちょっとアスリートみたいなスポーツ感覚になっているじゃないですか。真剣にやっているんだぞ、みたいな。でも、『たけし城』では単なる悪ふざけだけでひどいことをするっていうのが、いい時代だな、っていう。

おすし:そうなんですよね。

ラリー:僕らは世代的に、たけしの芸人としてのど真ん中は通っていないんですよね。『ビートたけしのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)とか『ひょうきん族』とか。

おすし:確かにその2つに触れていないから、もうちょっと一線を退いている感のあるたけししか見ていないのかもしれない。

ラリー:でも、僕は昔から好きは好きでしたよ。やっぱりたけしは面白いな、みたいな。『たけし城』『スポーツ大将』『元気が出るテレビ』を見ていて、その後で『平成教育委員会』(フジテレビ系)とか『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日系)も見るようになるんだけど。

おすし:確かに、何かもう面白いのが当たり前の人みたいになっていたよね。だから改めて「この人、面白いなあ」みたいに思うことすらなかった気がする。

ラリー:あんまりコントとかやっているイメージはないですもんね。

おすし:全くないです。

ラリー:だから僕らの世代の王道はドリフからですよね。ドリフからの志村があって、そこからもうダウンタウンに行っちゃうんですよね。

おすし:志村の後はダウンタウンなんだけど、ウッチャンナンチャンをちょっと挟むかどうかっていうのもありましたよね。

ラリー:挟んで、そこでウンナン派になる人もたぶんいるんですよ。

おすし:ああ、いるかもしれないけど。ただ、ウッチャンナンチャンには悪いけれども、俺としてはダウンタウンに入るためのハシゴになっている感じがあったと思う。ウッチャンナンチャンを見たことによってダウンタウンに入れた、みたいな。当時の少年からすると、いきなりダウンタウンは激しすぎる感じがあって。

ラリー:分かります。あと、やっぱり僕らは両方とも関西出身じゃないですからね。たぶん関西出身だとそこはまたルートが違うんですよ。ダウンタウンの存在感が最初からもっと大きかったと思う。

少年が「志村離れ」をする日

おすし:あ、でも、ウンナンもそうだけど、『邦ちゃんのやまだかつてないテレビ』(フジテレビ系)の山田邦子とか、あの番組に出ていた所ジョージとか、そこら辺でバラエティ番組の洗礼を受けてから、ウンナンとかダウンタウンに行った気がする。まず山田邦子を挟んでいるんです。

ラリー:確かに、世代的には『やまかつ』の影響は大きいよね。

おすし:『やまかつ』は割と平和的だったから、親が見せてくれる感じがあったんですよね。

ラリー:子供の頃ってそれがあるんですよね。親が見せてくれるかどうかというのが大きくて。

おすし:その家庭によってだいぶ変わってくるんですよね。だから、この漫画でも描いたけど、小3ぐらいで『とんねるずのみなさんのおかげです』(フジテレビ系)が始まっているんだけど、夜9時からの番組だったから俺の家では見せてもらえなかった。それで、小5ぐらいでようやく夜9時からの『やまかつ』だけは見ることを許されたんです。あれで大人のバラエティが面白いと思って、ドリフ以外の芸人の面白さを知ってから、ウンナンにも手を広げたんですよね。

引用元:室木おすし著『君たちが子供であるのと同じく』(双葉社)25ページ
引用元:室木おすし著『君たちが子供であるのと同じく』(双葉社)25ページ

ラリー:それで言うと、僕は『やまかつ』は見ていなかったんですけど、周りでめちゃくちゃ流行っていた記憶はある。『それが大事』とか『愛は勝つ』とか「やまかつWink」とか、めっちゃ聴いてましたよね。あと、誰の家に行ってもスイカ柄の『やまかつ』のCDがあった。

おすし:あれ、すげえ売れたんだろうな。

ラリー:『愛は勝つ』の替え歌があったじゃないですか。フレーズの最後が全部食べ物になるっていう。

おすし:「心配ない唐揚げ~♪」ですか?

ラリー:そうそう、あれを友達がめっちゃ歌っていた記憶があって。

おすし:いま思えば、めちゃくちゃくだらないよね。

ラリー:でも、やっぱり小学生はああいうのが好きだよね。『やまかつ』ってたぶん結構おしゃれな番組だったんですよ。本物のミュージシャンとかもいっぱい出ていたりして。やっぱりあれは邦ちゃんのセンスだと思う。邦ちゃんってイラストとかも自分で描いていたんですよね。

おすし:そういえば描いていたかもしれない。

ラリー:小説もエッセイも書いていたし、多才なんですよ。その流れで言うと、『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』(フジテレビ系)は僕もすごい好きだった。あれが『加トケン』の裏だったんですよ。

おすし:あ、そうだったっけ。じゃあ、その頃には『加トケン』は見ていなかったんだな。

ラリー:もともとは『加トケン』の人気が出て『ひょうきん族』が終わったんですよ。それで、『やるやら』になったらそっちが人気が出てきて、今度は『加トケン』が衰退していくんですよ。

おすし:なるほど。そうか、確かにそうだよな。

ラリー:すごく覚えているのは、ウンナンの『やるやら』を見始めて、ちょっと自分も成長してきて小6か中1ぐらいになっていて、『加トケン』がダサいなと思い始めるんですよ。

おすし:そうなんです。本当に、あんなにお世話になって申し訳ない話ですけどね。やっぱり中学ぐらいになると格好つけたがるんですよね。

ラリー:ウンナンの方が何か格好良かったんですよね。おしゃれだし、最新の流行を取り入れたネタをやるじゃないですか。ドラマのパロディとか、流行っている歌手のパロディみたいなのをやっていて。

その頃、家にビデオがあったんですよ。それで、ある時期までは『加トケン』を録画してウンナンをリアルタイムで見て、後から『加トケン』をビデオで見ていたんです。でも、だんだん『加トケン』を録画はするんだけど、ビデオで見なくなるんですよ。で、あるときに「もう見なくてもいいかな」と思っちゃうんですよね。

おすし:めっちゃ悲しい話ですよ。

ラリー:でも、これってたぶん同世代ぐらいの人は結構共感すると思います。この世代は大人になると「志村離れ」をするんですよ。志村を手放す日が来るのよ。

おすし:そこはもうしょうがないんだよね。確かに志村けんに対してはすごい信頼感があったというか、めちゃくちゃ大好きだったから、あれから離れるというのは自分の父親から離れるみたいな感覚はちょっとあったかもしれない。

ラリー:それでいうと今、千鳥の大悟さんがめちゃくちゃ志村さんと仲がいいじゃないですか。大悟さんはまさに79年世代なんです(1980年3月生まれ)。

おすし:そうか、やっぱりめちゃくちゃ見てたんだ。

ラリー:だから、大悟さんには志村さんへの根本的なリスペクトがあるんですよ。その前提での志村イジりみたいなのがあるんです。その辺のニュアンスがたぶん下の世代にはそこまで伝わっていないと思う。

おすし:絶対伝わってないでしょ。

ラリー:でも、違うんだよ、っていう。志村はすごかったんだよ、っていうあの頃の感じは分からないと思う。

ダウンタウンの衝撃

ラリー:それで、そのぐらいの時期からダウンタウンを見るようになるでしょ。その影響がやっぱり一番大きくないですか?

おすし:大きいですね。本当に僕らの世代はみんなダウンタウンに影響されていますもんね。

ラリー:たまに同世代でダウンタウンがそこまで好きじゃないっていう人がいるんですよ。なんか「マジかよ!?」って言いたくなるんです。

おすし:分かる。ウソつけ、と思いますね。何を斜に構えているんだよ、みたいな。

ラリー:この世代でダウンタウンをスルーできる感じが、ちょっと変わっているなあと思ってしまう。いいか悪いかじゃなくて、存在としてスルーできないと思うんですよね。

おすし:そうですね。度合いの違いはあるけど、普通に女の子も含めてみんなダウンタウンが好きでしたもんね。

ラリー:とにかく新しかったですよね。志村ともたけしともウンナンとも違う新しい笑いをやっていた。

おすし:本当に新しいと思う。こういうのがあるんだ、っていうふうに衝撃を受けたという記憶がある。何を見たときに一番思いました?

ラリー:僕は全部好きだけど、『ガキの使いやあらへんで!!』(日本テレビ系)のフリートークとかすごい好きだったんですよね。あれで出てくる松本(人志)さんの発想のすごさが。「シャンプーをしているとき、後ろに誰か人がいるような気配がして、振り返ると誰もいません。本当は誰がいるのですか?」という質問ハガキに対して、松本さんの答えが「リンスです」っていう。今でこそ「シュール」ってよく使われる言葉ですけど、それの元祖っていうか。

おすし:そうですね。だから、本当にベタなものだけがお笑いだと思っていたけれども、意味が分かんないことが面白いんだというような感覚を初めて知ったという。僕は『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)のコントで普通に笑っていたんですけど。キャシィ塚本っていう料理の先生のコントとかで、本当に死ぬんじゃないかってぐらい笑っていて。

ラリー:キャシィはすごかったですね。

おすし:あれが出てきたときはめちゃくちゃ衝撃的じゃなかったですか? 使っていた食材を外に放り投げるとか、マジで考えもしなかったことをやる人間がいるというか。俺、熱を出して学校を休んだ日にも『ごっつ』だけは見たいと思って見ていて。それが初めてキャシィ塚本が出たときだったんですよ。本当に高熱と笑いで気を失うと思って。笑いってすげえってそのときに思ったんですよね。

ラリー:確かに『ごっつ』は何があっても絶対に毎週見たいと思ってたもん。

おすし:うん、そう思った初めての番組かもしれない。

ラリー:ダウンタウンって単なるお笑いじゃなくて、「写真で一言」みたいな、お笑いのルールを作った感じがあるじゃないですか。今はもうそれより下の世代の全芸人がそういう大喜利的な感覚でお笑いをやっている。だから、番組の中のちょっとしたコメントとかも全部面白いですよね。すごい時代になったなと。

おすし:そういう影響があるんですね。

ラリー:それ以前の芸人ってもうちょっとゆるかったですよね。昔はそこまで厳しく一言一言が面白いっていうのを求められていなかった。

おすし:そうか、そうか。今は受け答えが大喜利的な感じになるんですね。

ラリー:よく言われる話ですけど、志村さんとかは動きの笑いじゃないですか。松本さんが言葉の笑いの面白さを広めちゃったから、それ以降の世代は全部そっちが基準になってきている。

おすし:でも、ずっとダウンタウンを追いかけていられなくないですか? どこかで違う自分なりの道を見つけないといけないな、とか考えたりしませんでした?

ラリー:自分が、ですか?

おすし:はい。

ラリー:自分は別に芸人じゃないから、そういう感覚はないかな。おすしさんはやっぱり人を笑わせるような仕事もしているから、そういう感覚があるんですかね。

おすし:僕も芸人じゃないから、そこまでじゃないですけれども、好きなお笑いの本質というのは常に考えたりしていて。それは漫画を描くときとかも必要なので。で、ダウンタウンは大好きだけれども、途中から「逆にもっとベタな方が自分は好きだな」と思い始めて、ダチョウ倶楽部とかも好きだわ、というふうになりました。途中と言っても、もう学生時代は終わったぐらいだったかな。20代前半ぐらいに。

ラリー:確かに、ダウンタウンは感染力の強いウィルスだから、影響力が大きすぎるんですよね。思春期の多感な時期にあれに触れると、一度はあれに染まっちゃうんですよね。染まった上で、あとになってからそこを抜け出して、自分が面白いと思うものは何なのかっていうところに行けるんですよね。

おすし:あの時代、あの時期に染まっちゃうのはしょうがないですよね。

ラリー:時代の移り変わりで言うと、志村からウンナンで、ウンナンからダウンタウンとかはあるけど、ダウンタウンの次ってそこまではっきりしたものがもうないですよね。

おすし:ないです。もう幅が広くなりすぎちゃっているから。

ラリー:いま面白い芸人っていっぱいいるじゃないですか。別にそれが悪いわけじゃなくて、それも大好きだけれども、ダウンタウンが出てきたみたいな意味での価値観の転換みたいなのがこの後あるのかというと分からないですよね。

おすし:それを見たいですよね。「えーっ!?」ていう。

ラリー:それは今後あるのかもしれないし、あるいはもうそれは起こっているんだけれども、もう我々の感性では気付けないのかもしれない。

おすし:ああ、そうか。

ラリー:自分たちが理解できないだけで、全然知らないYouTuberとかがめちゃくちゃ面白いのかもしれない。

おすし:確かに若い子が笑っているのとか、よく分からないもんな。

ラリー:最近、本当に分からないっていうときがありますよね。

おすし:ある、ある。え、ウソだろ、っていう。

ラリー:悲しいけど、考えてみたらやっぱりそうじゃないですか。自分が中2ぐらいのときに『ごっつ』とかで笑っていて、これを40~50代の人が理解できるわけがないよな、と思っていた気がする。

おすし:確かに思っていた。親の世代が見ても絶対面白くないものを見ているという感覚はあったよね。

子育てを通して子供時代に立ち返る

ラリー:この本の話に戻ると、やっぱり子供の頃の感覚って忘れちゃうと思うんですよ。でも、おすしさんは子供の頃に感じていたこととかをすごい覚えていますよね。

おすし:そうですね。覚えていることしか描けないから、覚えているように思われるかもしれないけれども、やっぱり描いているやつって覚えているぐらいだから、印象に残っているやつなんですよね。そういうのは人に言いたい感じがあるので漫画に描いているんです。

ラリー:あと、今のおすしさんにはお子さんがいるじゃないですか。自分の子供との生活の中でいろいろ思い出すことはありますよね。

おすし:あります、あります。それで思い出したというのも結構あります。

ラリー:子育てってそういうところが面白いですよね。自分の子供時代をもう1回体験するみたいな。

おすし:そうなんですよ。子供を持つと自分の記憶が蘇るというのが割といいな、と思いましたね。

ラリー:世間では「子育ては大変だ」とか「子育ては子供がかわいいから楽しい」とかっていう話が多いですけど、そっちじゃない別の楽しさがありますよね。

おすし:あと、子育てって結局、自分の子供時代を愛せるかどうかというところが肝のような気がしていて。自分が子供だったときに何をしてもらったら良かったかなということを考えると、あれをやってあげたいとか思ったりする。その感覚が楽しいし、子供にとってもそれがいいような気がするんですよね。

ラリー:子供の頃って、親が自分の子供をこういうふうに思っているなんて全然知らなかったですもんね。この本では、子供特有の変に遠慮したりする感じとかも描かれているじゃないですか。親からしたら、やりたいことを好きに言ってくれていいのに、子供側が勝手に遠慮したりするんですよね。

おすし:そうなんですよ。だから、自分の子にはそうならないようにしてほしいっていう気持ちがあるから、そのためにはどうしたらいいんだろうって考えますね。

ラリー:でもたぶん、それを今まで自分の親も思ってきたんでしょうね。

おすし:そうなのかもな、って。だから、両方に思うんですよね。あのときの自分の親のことを振り返りつつ、あのときの自分のことを子供に投影するという。未来と過去がぐちゃぐちゃになっているような感覚です。

ラリー:この本を読んで、やっぱり昔を振り返るノスタルジーって、いろんな意味で面白いなと思いました。単に懐かしいというだけじゃなくて、それを通してお笑いの歴史について考えたりとか、自分の親のことを考えたりするじゃないですか。

おすし:それは嬉しい意見です。あと、今が昔のことを振り返って発表してもいいギリギリの世代の気がしていて。この時期にやっておいて良かったなという気はしますね。

ラリー:もうちょっと上の世代になったらできないですか?

おすし:できなくはないけれども、過去にも新鮮さがあるような気がして。50~60歳ぐらいの人が昔話をすると、昔すぎるという感じになっちゃうじゃないですか。

ラリー:確かに、この本で描かれていることって、今の20代だったらリアルタイムではピンと来ないかもしれないけれども、まだ何となく分かりますもんね。

おすし:もっと上の世代に行くと、戦争もののフィクションみたいな感覚になっちゃうから。

ラリー:実際、僕らの親世代でもビックリするぐらい古いですよね。親が生まれたときって、家に水道もガスも通ってなくて、井戸で水をくんで、お風呂は薪で沸かして、暖房器具は火鉢だけ、みたいな感じだったらしいんですよ。もう昔話の世界じゃないですか。

おすし:桃太郎に出てくるやつじゃん、ってなる。

ラリー:今は僕らですらそう思われてるでしょうね。おじさんが子供の頃にはインターネットがまだなかったんだよ、っていう話をするとして、10代の子とかにとっては、たぶん意味が分からないんじゃないかと思う。

おすし:だから、ここで描いたことももう数年したら古すぎる感じになっちゃう気もするんですよね。30代前半とかの人が昔を振り返っても、そんなに昔じゃないからまだ振り返らなくてもいいよ、っていう感じもあるじゃないですか。だから、やっぱり40がベストなんですよね。

ラリー:なるほど。じゃあ、僕も振り返ろうかな。結論としては、40のこの年に何か書きます。

おすし:おっ、何を書くんですか?

ラリー:エッセイか小説か分からないけれども、何かこういうのは確かにいいんだな、と思った。たぶん書き始めるとまたいろいろ思い出すだろうし。

おすし:そうそう。結構、書いていて号泣したりすることもあるかもしれないですよ。

ラリー:ありそう。夜中とかに昔のことを思い出して「あーっ!」ってなるときとかありますよね。

おすし:そうでしょ。それを出しておかないと忘れるだけだから。1回出しておけば、後で思い出せるし。

ラリー:確かに。そうしようと思いました。

おすし:やりましょう!

室木おすし氏(本人撮影)
室木おすし氏(本人撮影)

●プロフィール

室木おすし(むろき・おすし)

1979年、神奈川県生まれ。16歳のころから寿司屋のアルバイトを転々とし、建築家という響きに憧れ建築の大学に入学するも、直線がうまく引けないため挫折。卒業後は渋谷アートスクールへ入学、24歳の時、フリーイラストレーターに。主な著作に『悲しみゴリラ川柳』(朝日新聞出版)がある

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

ラリー遠田の最近の記事