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アンダー170(cm)人権否定~プロゲーマー「たぬかな選手」つまずきの蹉跌

黒川文雄メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/ジャーナリスト
(提供:イメージマート)

CYCLOPS athlete gamingとたぬかな選手とは?

現在、新型コロナウイルス感染症と、亜種オミクロン株によってオフラインでのeスポーツ大会開催が壊滅的な状況にあるが、その救いとなっているはずのオンライン配信によって、今回の暴言騒動が起こったのは皮肉なことだ。と同時に起こるべくして起こったこととも言えるのではないだろうか。

たぬかな選手は、CYCLOPS athlete gaming格闘部門「鉄拳」の主要プロゲーマーとして活躍していた。

2018年からは、戦歴や活動功績がレッドブル社に認められ、eスポーツ分野において、日本ではウメハラ(梅原大吾)選手、ボンちゃん(高橋正人)選手に次いでレッドブル社からスポンサードを受けるeスポーツアストリート3人目として活動をしていた。女性プロゲーマーとして初めてレッドブル・アスリートとして認められた実力と容姿を兼ね備えた稀有な存在で、男女問わずファンも多い実力派eスポーツアスリートだ。

ただし彼女の配信を良く知る人々からは「日ごろから過激な発言が多かった」、「勢いはあるが、ある意味、上から目線もスゴかった」「下ネタが多かった」などと今回の暴言騒動の予兆を感じさせる声もあった。

ちなみにCYCLOPS athlete gamingは、ゲームのクラウド配信や映像製作、映画配給などのコンテンツ事業社である株式会社ブロードメディアの子会社で、2020年2月に創業したブロードメディアeスポーツ株式会社が運営する出自の明確なゲームチームでもある。

暴言騒動の経緯 発端はUberEats配達員のナンパ行為

そんな、たぬかな選手の暴言騒動は、2月15日の自身のゲ-ム配信のなかで、UberEatsを頼んだ際のエピソードを披露したことから始まる。

配信内容を抜粋すると…。

発端は、デリバリーに来たUberEatsの配達員氏に連絡先を聞かれたことだという。

まず、この配達員も本来は断罪されるべきだろう。配達した先の女性が可愛かったから、連絡先を教えて…とたぬかな選手に聞いてみたということだ。今回が初めてではないことは想像に難くない。過去にもやっているから、軽い気持ちでやってみた…ということではないだろうか。この部分ではたぬかな選手への同情の余地はある。

※UberEats配達員氏には交通ルール以前に、守るべきルールがあることを改めて認識して欲しい。

しかし、このあと、その恐怖心の裏返しともとれるような発言を続けていく…。

「165(cm)はちっちゃいね。ダメですね…。170(cm)ないと、正直、人権ないんで。170センチない方は俺って人権無いんだって思いながら、生きていって下さい。骨延長の手術を検討してください。骨延長手術で調べてください」と続いた。(cmは筆者補足)

さらには自身の発言にエキサイト要素が増したのか…、

「170(cm)あったら、人権がちゃんと生まれてくるんで、骨延長でよろしくお願いします」「ほんま、ちっちゃい男に人権あるわけないだろお前、調子のんな」「コッチはチビにはきちい(※きつい)んだよ」と配達員氏を対象にした発言を配信中に行った。その際には「デブとハゲにはやさしい」という発言もなされていた。

しかし、当然ながら、その配信を観ている男子のなかにも身長が170センチに満たない視聴者もいたはずで、この発言が配達員氏のみならず、対象とされる人権と人格の否定、さらにはヘイトスピーチではないということで、炎上を招いてしまったのだ。

当日深夜になって、たぬかな選手は自身のツイッターで謝罪したが…

「配信の内容をヘイトスピーチだと指摘されました。そういう意図ではありませんでしたが、不快に思われた方が多いようなので撤回します、すみませんでした」

また「いつもの配信の身内ノリで言葉が悪くなっちゃいました、ごめんなさい~…」(※現在はこれらのツイートは削除されている)

という、わりと軽め?の表面的な謝罪ツイートと受け取られたため、さらに炎上に燃焼添加剤がブチまかれてしまったのだ。

もちろん、自身の恐怖心が初期動機にあったにせよ、配信という通常のeスポーツ大会におけるプレイとは異なる個人のキャラクターを全面に押し出した状態で公開配信してしまった以上、もう後戻りはできない。

所属チームCYCLOPS athlete gamingは敏感に反応した

これらのネット上の炎上と延焼を受けて、翌16日にCYCLOPS athlete gamingは公式サイトで「所属選手による配信中の不適切な発言につきまして」という内容の書面を公開し、ファン、スポンサーに対して謝罪、たぬかな選手の発言を「自身のプロ選手としての立場に対する自覚と責任に欠けた発言であったと、重く受け止めております。該当選手の今後の処分に関しまして厳重に対処いたします」、「改めて、当チーム全体におけるコンプライアンス研修等を実施するとともに管理体制を強化し、再発防止を徹底」するとしたが、最終的には、17日にCYCLOPS athlete gamingはたぬかな選手との契約を解除したことを発表した。このあたりは親会社のブロードメディアがジャスダックで株式公開をしてることもあり、コンプライアンスに厳しく、さらに人権問題に配慮したうえでの早急な判断を下したのだろう。

初動が早かった Sponsored by レッドブル

16日の夜にはレッドブル社のたぬかな選手の紹介ページが削除(閲覧不能-現在に至る)になっていたことから、レッドブルからも契約を解除されたとみるべきだろう。

レッドブルのeスポーツアスリートは成りたくも成れないアスリートの方が多い、名誉ステイタスともいえるもので、女性eスポーツアスリートして日本で初めて選出されたにも拘わらず削除されてしまうという不名誉を負ってしまった。

(C)レッドブル たぬかな選手紹介ページだったURLで表宇治されるスクリーンショット
(C)レッドブル たぬかな選手紹介ページだったURLで表宇治されるスクリーンショット

おそらく、今後、たぬかな選手が再びスポットライトを浴びるには、単独で実績を積んで、さらには自身の発言や行動に注意してやり直すしか道はなさそうだ。

今回の問題点と今後のたぬかな選手に期待すること

今回の暴言騒動から感じることは、たぬかな選手がプロゲーマーだからという以前に、生きていくうえで、想像力や感性や経験を積んで、それらをさらに磨いていくしかないだろう。おそらくたぬかな選手に限らず、勝った、負けたを繰り返すeスポーツという競技に身を投じている選手たちは自身の強さに自信を持っていることだろう。

そう、プロの世界は勝ってこそナンボの世界、むしろ水面下の対戦相手のクセや心情分析から始まり、勝つためには手段を択ばないと公言するプロスポーツ選手もいる。しかし、それはゲームタイトル、対戦相手やチームを対象にしたもので、相手の人権や人格を踏みにじるようなものであってはならない。

おそらく、たぬかな選手の周りのスタッフやチームメイトにも身長170センチ以下の男性の「仲間」がいたのではないだろうか?

たぬかな選手自身が彼らを「仲間」と思っているかどうは別にしても、今回の発言を受けて、お世話になっているスポンサーやファン、チームメイトはどんな気持ちだろうか?そして一番重要なのはずっとフォローしてくれたファンのなかにも「アンダー170(cm)」はたくさんいたはずだ。

自身も女性プロゲーマーの容姿への誹謗中傷と女性蔑視と戦っていたというが

ちなみに、ちょっと古いネット記事を検索すれば、たぬかな選手自身が、過去に自身が被害者として、女性プロゲーマーの容姿への誹謗中傷と女性蔑視と常に戦ってきたということを訴えていたのだ。

自身が言われて侮辱と感じたことを、今回の暴言騒動は、同等かそれ以上のことを不特定多数に配信というパブリックな手法を用いて発信してしまったことの代償は大きかった。自身がされてきたことを、他の人にもしてしまったという点でも許されないことだろう。

eスポーツの未来に向けて

eスポーツはジェンダーを問わず、老若問わず、健常者、障がい者の隔てもなく多くの人々が、今までも、これからもプレイし続けるものだと考えている。

そこには参加者の多様性、コンテンツやプレイ・スタイルの多様性が存在する。

たぬかな選手にとっては、自身が招いた発言により厳しい局面になったかもしれないが、eスポーツ同様にピンチはチャンスに変えることができるはずだ。これからさらに発展する可能性を秘めたeスポーツの未来のためにも、真摯な気持ちと高い視座を持ってプロとしてリトライしてほしいと願う。

了)黒川文雄

Twitter ku6kawa230

Voicy 黒川塾エンタメ事情通@Voicy

参考関連書籍

eスポーツのすべてがわかる本 プロゲーマー、業界のしくみからお金の話まで

メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/ジャーナリスト

黒川文雄 メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/株式会社ジェミニエンタテインメント代表 アポロン音楽工業、ギャガ、セガ、デジキューブを経て、デックスエンタテインメント創業、ブシロード、コナミデジタルエンタテインメント、NHN Japan (現在のLINE、NHN PlayArt)などでゲームビジネスに携わる。現在はエンタテインメント関連企業を中心にコンサルティング業務を行うとともに、精力的に取材活動も行う。2019年に書籍「プロゲーマー、業界のしくみからお金の話まで eスポーツのすべてがわかる本」を上梓、重版出来。エンタテインメント系勉強会の黒川塾を主宰し「オンラインサロン黒川塾」も展開中。

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