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エピック・ゲームズVSアップルは氷山の一角 キミはあの事件を覚えているか?

黒川文雄メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/ジャーナリスト
2017年7月18日 Yahoo!ゲーム ゲームプラス 発表会 筆者撮影

日本人はアップル製品が大好き…!?

実際にアップル製品の売り上げの5割がiPhoneで、圧倒的に北米市場での販売実績が多いのはもちろんだが、約17%が中国、日本が約7%の販売比率を占めている。

そういうことを冒頭から書いている筆者も、iPhoneを利用し、アップルウォッチを併用している。

それらは掌(てのひら)のなかのコンピュータとして、メール、メッセンジャー、カレンダー、健康管理、その他ゲーム系アプリまで、パソコンを持って歩かなくても、仕事に支障がないと思えるほど優秀なデバイスである。

日本人に限らず世界の人々がアップルを好きな理由はなぜだろうか?

個人的に推察するに、アップルという会社の歴史的なものへの共感があると思う。

アップル(当時はアップルコンピュータ)は、今は亡きスティーブ・ジョブズが1977年1月に法人化し、同年4月には「Apple2(※)」を導入、「Apple2」は大きな利益を生んだ。現在、アップル自身が肥大化、権力の塊の様相を呈しているが、コンピュータ産業の巨人だったIBMとの軋轢はこの頃に端を発している。「Apple2」の成功をホップとすれば、アップルはさらなる高みにジャンプすべく、マーケティング面の強化を図るために、1983年、ペプシコーラのCEOで、マイケルジャクソンを起用したコマーシャルやコカコーラとの比較広告など過激かつダイレクトな手法を取り入れたジョン・スカリーをジョブズ自身がヘッドハントした逸話も有名だ。

そのときジョブズはスカリーにこう言ったという…。

「残りの人生でずっと砂糖水を売り続けたいのか、それとも私と一緒に世界を変えたいのか?」

原文

Do you want to sell sugared water for the rest of your life, or do you want to come with me and change the world?

そりゃ、ここまで言われたら、これから先、砂糖水は売らないよ…という…ぐぅの音も出ないほどの恐ろしい口説き文句だろう。

しかし、このとき絶頂のジョブズは想像だにしなかったことだろう。

1984年にIBMに対抗すべく導入した「マッキントッシュ」が惨敗に終わると、今度は自分が招聘したスカリーにアップルを追われることになる。

おそらく、アップル創業、ジョブズが勝ちとった成功、放追、そしてカムバックという…ある種の英雄譚、物語性は、デュマ原作の「モンテ・クリスト伯(巌窟王)」にも匹敵する波乱めいたエピソードで、それらはジョブズやアップルを神格化してきた要因と思われる。

このあたりのある種の日本人が好きそうな人生を賭けた復讐劇と成功劇がドラマチックに映るからではないだろうか。

(※本来はローマ数字の2ですが仕様上表記できないため「2」と表記しました。)

確かにスティーブ・ジョブズはすごかった……

よく一般に言われるのが…、

「アメリカにはジョブズや(ジェフ・)ペゾス、(イーロン・)マスクがいるが日本にはそういう経営者がいない」という人がいるが、アメリカにだって、彼らはたった一人の存在で、そんなのケタ外れの経営者がたくさんいるワケないだろう…という笑い話がある。

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なかでもジョブズがすごいと思えるのは、自身が起業したアップルへの執着と、ものづくりへの執念である。

失意のうちのアップルから放追されたジョブズは、1996年に12月20日に自身が立ち上げたNeXT社をアップルが買収するかたちでアップルに復帰を果たす。

ここからジョブズのアップルでの復讐が始まった。1998年にはiMac、2000年にはMacOS、2001年にはiPod、2007年にはiPhone、2010年にはiPadを導入。

そこにはジョブズ独自のハードウェアに対する美学と、マーケティングにおける独自性が窺える商品がラインナップした。

それはあたかも失った12年のアップルでの空白を埋めようとして命の炎をもやしているかのような時間だったに違いない。アップルは元来、ジョブズのエゴとその独自性によって成立していた会社であり、パブリックイメージとしての清廉潔白な組織とは真逆な部分を内包している組織なのだ。

前段が長くなってしまったが、アップルはジョブズであり、ジョブズはアップルだったのである。それはジョブズの人生と同じように、誰に頼るわけでもなく、自社ですべてを完結するスタイルを持った唯一無二の組織、それがアップルだ。

ジョブズの腹心、ティム・クックを甘く見るなかれ

2011年1月18日、重病のジョブズが休職することになり、ティム・クックに権限を委譲、そして同年10月5日、56歳で成功を手にしたジョブズは静かに息を引き取った。そして、ジョブズが目指したナンバーワン、オンリーワン企業は現実のものとなった。

しかし、それはかつて自分たちが忌み嫌ったコンピュータ界の巨人「IBM」と同じポジションに立つことを意味する。

たとえようもない地位と大きな権力、それはかつて挑戦者だったものが玉座につき、今度は挑戦者が生まれる前からそれらを排除するような動きを見せている。それが現在のアップルの姿ではないだろうか。

アップルのプレゼンテーションで見せるティム・クックの柔らかそうな物腰、特に日本人にとっては世界最高齢のプログラマー若宮正子氏(hinadan開発者)をアップルに招待し、やさしく談笑する姿に好感をもった人は多いことだろう。

それもティム・クックの一面だろうが、やはりアップルという組織を守り、それを成長させるという使命に関しては冷徹極まりない判断をすることだろう。ジョブズのアップルを引き継いだティム・クックはアップルをさらに強大な王国にすることこそが大きな使命だからだ。

エピック・ゲームズだけのことにとどまらない、日本でもあった同じような事象

前回の記事(https://news.yahoo.co.jp/byline/kurokawafumio/20200824-00194751/)を書いたあとも、エピック・ゲームズとアップルの双方から情報がリークされている。

それらは、まるでロビー活動にように、今日はアップル、明日はエピック・ゲームズからというように、それぞれにとって、プラスの情報もあればマイナスの情報もある。

一方が自分たちに有利という情報を流せば、翌日にはそうじゃないという反証めいた記事がリークされることになっている。

現時点で、どちらに分があるかということを語るのは難しい。しかし、日本人として忘れてはいけないのは同じような事象が日本でもアップルとヤフージャパンの間にあったことだ。

「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」でのアップルとの秘密裏のやりとりがあった

2017年7月18日、ヤフーはかねてから温めてきたHTML5とクラウドを活用するブラウザゲームのプラットホーム、「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」のサービスを開始した。スクウェア・エニックス、コーエーテクモゲームス、タイトー、角川ゲームスなど合計52社がゲームタイトルを導入するサービスを開始した。それは日の丸のもとに集まったゲーム志士らの思いで実現した座組であることは明らかだ。

そのコンセプトは「すべてのゲームはWebでやれ!」というものだ。

このサービスはHTML5とクラウドを利用するため、端末を選ばないという利点があった。

またクラウドゲームとしてもヤフージャパンが乗り出すこともあり、期待の大きいサービスだった。これらに関して、私の記憶が鮮明なのは、ちょうど7月18日に、この発表会と同じ会場で、HTML5とクラウドゲームに関する勉強会という位置づけの黒川塾51(回目)として「HTML5ゲームとクラウドゲームでゲームコンテンツはどうなる?」という内容でトークセッションを行ったからである。ちなみに、黒川塾51のセッションでは、アップルの手数料によって、販売ポータル(アップストア)が健全に保たれているし、それをパブリッシャーが自社で賄うのは至難の業だという発言もヤフー幹部からもあったのも事実だ。

しかし、ヤフージャパンと関連するパブリッシャーのなかには、アップストアやグーグルプレイへの2極集中の懸念、クラウドゲームによりデバイスに依らないゲームプレイの自由度など、ゲームを開放するという大義があったということだろう。

その「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」発表会の前後に、アップルがヤフージャパンに圧力をかけ取引を妨害した疑いがあるという報道がなされた。その報道内容は「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」がアップルのゲーム権益を損なうと判断し、ヤフージャパンにアップルから非公式の圧力があり、アップストアにあるヤフージャパン関連の全アプリを削除するという秘密裏の打診があったという。

もちろん、関係者のだれ一人もが、それを公式には認めないが、それを明確に否定する人はいなかった。アップルとしては、まだ芽が小さくとも、後々の大きくなる可能性のあるものは、影響の少ない時点で、全部摘んでしまおうということに違いない。

結果的には「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」は1年後には大型のタイトル終焉を迎え事実上のサービス休止になり、2020年9月23日に完全終了する。

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また、もう一つ印象に残ることを明示しておかなければならない、それは2018年11月、LINEが導入したアプリダウンロード不要の「クイックゲーム」においてもアップルの審査という問題でサービス導入が停止になったという事実がある。こちらもアプリダウンロード不要というLINEの施策に関してアップルが待ったをかけたものと言われている。

今回のエピック・ゲームズとのスケールの違いはあれども、アップルにとってはどんな大きさのものでも、それが帝国の牙城を崩す可能性を感じるものに対しては徹底的にそれらの芽を摘むことに躊躇がない。

アップルはあなたのポケットの中や腕にまとわりつく現代の天使か悪魔か、悪魔か天使か、今回のエピック・ゲームズと世界のゲームファンを巻き込んだ闘争で、その真の姿が明らかになるのかもしれない。

しかし、それすらもジョブズが邁進し、ティム・クックが受け継いだアップルのアップルたる所以なのかもしれない。

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(C)ヤフーゲーム 写真はすべて筆者撮影

メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/ジャーナリスト

黒川文雄 メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/株式会社ジェミニエンタテインメント代表 アポロン音楽工業、ギャガ、セガ、デジキューブを経て、デックスエンタテインメント創業、ブシロード、コナミデジタルエンタテインメント、NHN Japan (現在のLINE、NHN PlayArt)などでゲームビジネスに携わる。現在はエンタテインメント関連企業を中心にコンサルティング業務を行うとともに、精力的に取材活動も行う。2019年に書籍「プロゲーマー、業界のしくみからお金の話まで eスポーツのすべてがわかる本」を上梓、重版出来。エンタテインメント系勉強会の黒川塾を主宰し「オンラインサロン黒川塾」も展開中。

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