中裕司と大島直人の新作「バランワンダーワールド」には注目すべき理由がある!!

バランワンダーワールド メインビジュアル (c)2020 SQUARE ENIX

個人の可処分所得はそれぞれ異なれども、時間は誰にでも平等に時を刻んでいく。

サラリーマンであれ、アーチストであれ、ゲームクリエーターであれ、その平等な時をどのように有効に活かすか…ということが人生の可処分所得にもつながるのではないかと思うことがある。時は平等であり、そして時には残酷だが、時が経つことによって許されるものもある。

ゲームビジネスでも時は同じように過ぎ去り、また新しい時を迎える。まずは、記憶の片隅の時をすこし遡ってみよう。

次世代ゲーム機の導入で開いたパンドラの箱……

メディアによって命名された「次世代ゲーム機戦争」の口火を切ったのは、1994年11月22日、株式会社セガ・エンタープライゼス(現在の株式会社セガ)からセガ・サターンが発売されたことによって始まった。そして、翌12月3日には、株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント/SCE(現在の株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント/SIE)から初代プレイステーションが発売された。

それらの発売までのゲームビジネスは任天堂の独占状態で、2D(2次元)のグラフィックス表現とデータ容量制限が大きな足かせとなっていた。次世代ゲーム機は、それらの制限から大きく解き放たれたコンテンツの幕開けだった。

しかし、一方で、従来は業務用(ゲームセンター用)と呼ばれたゴージャスな画像やリッチな表現、大型の体感筐体に、それらに奢ってきたアーケード向けゲームビジネスの終焉への扉を開けてしまうことになった。いわば業務用と家庭用ゲームの差別化というパンドラの箱を開けてしまったことだ。

次世代ゲーム機戦争は、セガ陣営の初動の健闘も空しく、初代プレイステーションに完敗した。リッチでゴージャスな業務用ソフトの家庭用移植でリリースの布陣を組んだセガよりも、一般からのエントリーも厭わない「プレイステーション・ドリーム」と銘打った、広く一般にアイディアを求め、斬新さ、一般ウケを主眼にした、いわばセガや任天堂が素人集団と白眼視したSCE独特のマーケティング手法とソフト戦略に完膚なきまでに叩きのめされたといっても過言ではないだろう。

セガ陣営は、セガ・サターンビジネスの撤退後、ドリームキャストに最後の命運を賭け、ソニー陣営はプレイステーション2、3、4へと進化を遂げていった。むろん、今ではその結果は歴史を見るまでもなく、ソニー陣営の勝利をおさめ、四半世紀を経た今も変わりはない。そして今年度中にはプレイステーション5が導入されるという。おそらくプレイステーション5もプレイステーション4同様に売れることだろう。

SIEはソフトラインナップでも、日本のパブリッシャーへの依存度も徐々に軽減しつつあり、アメリカを中心にしたAAA(トリプルA)タイトルを生み出すことのできるパブリッシャーとのコンソーシアムを推進している。

その一例が大ヒットを記録した「ゴースト・オブ・ツシマ」であり、企業体としてはマイクロソフトとの提携、7月に発表されたソニー本体とエピックゲームスの資本提携が今後大きな変化をもたらすことだろう。

ゲームの作り方と遊び方が変わったタイミングはガラケー(携帯)ゲーム

さて、ゲームの作り方と遊び方が変わった時(タイミング)はいつなのか?…と考えることがある。

個人的な見解としては家庭用ゲームとスマホゲームのはざまにあったドコモを中心にしたガラケー(携帯)ゲームというものがそれにあたると思っている。当時、大手ゲームメーカーの開発者たちのほとんどが…「ああ、あのポチポチゲームねw」という…ある種の偏見と軽視を含んだまなざしでそれを見ていた時期がそれにあたる。

2006年のモバゲータウン開始、グリーが「釣り☆スタ」などを導入し始めたのが2007年ごろで、その潜在的なユーザー数とポテンシャルに目を付けたのが、家庭用ゲームを中心に開発してきたコナミデジタルエンタテインメントの「ドラゴンコレクション」がその先鞭を付けた。

それまでは家庭用ゲーム開発に3-5年、数十億円の開発費を投じてきたビジネスモデルが当たり前だったが、それらを根本からひっくり返すように、開発費は数千万円規模で、月額で数億円の売り上げをたたき出す、新しい鉱脈をゲームパブリッシャーが見つけたことによって、ゲーム開発環境における優先順位が大きく変わった。

さらにそれらが加速度を増すのは、スマートフォンの出現と、2006年11月11日発売のプレイステーション3の導入が大きく影響している。もちろん、プレイステーション3の発売の以前から開発は進んでいたと思うが、大掛かりなハコ庭タイプのゲーム、そして海外の大きなゲーム開発スタジオが大きな予算を投入してAAA(トリプルA)と呼ばれるゲーム開発を大きく推進したからだ。

スマートフォンアプリも、その導入初期には低予算にもかかわらず成功した奇跡のようなアプリもあったが、それも3年くらいで淘汰されてしまった。そして、残ったのは、二桁億円をかけたような本格的なRPGゲームや、家庭用ゲームの移植作品やオマージュ作品だった。

これによって、その規模の予算投下ができないパブリッシャーの多くが脱落していった。

それでも運よく生存競争を残ったパブリッシャーや開発者のなかには、3年から5年くらいの開発期間、自分がどこのパートをやっているかわからないまま、3Dコンピュータグラフィックスのマップを描いていたという開発者もいるという。

ゲームの開発サイクルも大きく変わった

よく宣伝惹句に使われる開発予算50億円とか100億円とかいうのは、シンプルに言えば、そのソフト開発にかかった時間とスタッフの人件費の合計で、そのゲーム開発者のライフタイムも大きく変わった。

以前は1-2年に1作品に掛かって導入していたものが、大作化が進むと、開発期間は早くて3年、長いものは5年、名だたるナンバリングタイトルのなかには2から3に至るのに、10年以上かかった作品もある。赤ん坊だった我が子がいつのまにか小学校高学年生になっていたというわけである。すでに人生を共にしていると同じだ。

もちろん直接的にゲーム開発に関わっているものにとっては、その年月の過程そのものが人生だろうが、間接職のものにとっては「その10年はどのように考えればいいのか…」というのは、とあるマーケティング担当者の独り言だ。

このように、自身がゲーム開発やその周辺ビジネスに関わると考えたとき、世にいう定年60歳をひとつの岐路と考えたときに「あと何作品に関われるのか?」ということを自問自答せざるを得なくなる。

現役オヤジクリエーターの熱量に期待するファンは多い

もちろん、ゲーム開発者に決まった定年はない。

それは先駆者である鈴木裕氏が長年構想を温めた「シェンムーIII」にチャレンジしクラウドファンドに成功し販売に漕ぎつけたこと、元カプコンの岡本吉起氏のようにミクシィと組んで「モンスターストライク」をヒットに導き、さらに輝きを増すクリエーターもたくさんいる。

そのようななかで、7月24日に株式会社スクウェア・エニックス社から喜ばしいニュースリリースが発信された。

それはセガの看板キャラクターとして有名な「ソニック」をゲームとして世に送り出した天才プログラマー中裕司氏と、天性のキャラクターデザイナー大島直人(株式会社アーゼスト取締役)氏が再びタッグを組んでゲームをリリースするという喜ばしい内容だ。

バランワンダーワールド スペクタクルトレーラー

中裕司氏が中心になり、主にアクションゲームを中心に開発を行う「バランカンパニー」の発表、現在はブランドのみというスタンスなのだろうが、いずれは法人化も視野に入れたものかも知れない。そのバランカンパニーから、舞台ミュージカルをモチーフとした3Dアクションゲーム「バランワンダーワールド」というソフトをリリースするという。

バランワンダーワールド 開発メッセージ映像

「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のメインプログラムとディレクションを務めたのは中裕司氏、キャラクターデザインとゲームデザインは大島直人氏が担当したが、2000年代の前半に、それぞれの道を歩むことになり、ご存じのように、中氏、大島氏が、それぞれがソニックの生みの親として評価を高めたことは言うまでもない。

あくまでも噂にすぎないだろうが、それぞれが「ソニック」に対する思い入れが強いばかりに、中氏と大島氏が距離を置いていた時期もあるという。そのため、二人が再びタッグを組み、開発をともにすることはないかもしれない……と思ったのは私だけではないだろう。

今回、20年ぶりに手を組んだ「バランワンダーワールド」は株式会社スクウェア・エニックスと株式会社アーゼストという会社同士の利益のための座組とも受け取れかねないが、恩讐を超えたふたりの邂逅は黄昏どきに観る再現性のない美しい夕陽のように輝く時をもたらしてくれるはずだろう。

中氏と大島氏がこのようなかたちで同じ作品で双方の力量を確かめあうという背景に感銘と共感を覚えたゲームファンは多いと思う。

「バランワンダーワールド」の詳細は今後追って紹介されるだろう。そして、ふたりのクリエーターの邂逅とともに、かつて「ソニック」に狂喜したファンと新しいファンに愛されることを私は心から望んでいる。

ソフト情報)「バランワンダーワールド」の発売は2021年春予定で、プレイステーション5(PS5)、プレイステーション4(PS4)、Xbox Series X(XSX)、Xbox One、Nintendo Switch、Steamに対応している。

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9月1日 誤字脱字修正 (c)表記を追記しました。