追記:本記事公開後に出願を取り下げたようです(参照記事)。商標登録するのはビジネスに活用するためですが、そもそも消費者に受け入れられなければ意味はありませんので、経営判断として取り下げたのは賢明と言えます。ただし、電通以外の誰かが出願したらどうなるのかという問題は残ります。

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疫病を防ぐ妖怪として広く知られるようになった「アマビエ」を文字商標として電通が出願したことが話題になっています。

より詳しい内容が特許情報プラットフォームから見られます(商願2020-73403)。

9類(コンピューター関係)、35類(広告、小売関係)、38類(放送関係)、42類(情報通信系サービス)で広範囲に出願しています。過去記事に書いたようにアマビエの元絵についてはとっくにパブリックドメインの状態になっており、特定の人が権利を主張することはできず、アマビエという名称についてもそれだけでは著作物とはみなされないので著作権は生じませんが、商標についてはまた別です。出願して登録されれば「アマビエ」という言葉を、商品やサービスの標識として独占的に使用できる権利が得られます。この出願は登録されるでしょうか?

一般に商標登録出願が拒絶される理由としては、識別性欠如(普通名称等)、類似先登録、他人の業務との混同等があります。この出願は、これらのいずれにも当たらないので拒絶する理由がないと思われます。

ただ、法文上具体的な拒絶の規定がなくても、この商標を登録してしまうと競業秩序維持の観点から問題が多そうだと審査官が判断した場合には、公序良俗違反(商標法4条1項7号)で拒絶することはあります。このような例としては、歴史上の有名人物の名前(たとえば、ダリ)などがあります。とは言え、この拒絶理由も乱発することは好ましくないとされている(俗に、「伝家の宝刀」とも呼ばれます)ので、今回、発動される可能性は低いのではと思います。

そもそも、広く知られた妖怪の名称を商標として使うのがアウトであるならば「かっぱ寿司」もアウトになってしまいます。(追記:ツイッター等で「かっぱ」+「寿司」だから登録されたのではと言っている人がいますが「かっぱ寿司」が例としてわかりやすいので挙げただけで、他にも「カッパ」「天狗」「かまいたち」等、有名な妖怪名単独での登録例は数多くあります。また、「かっぱ寿司」については指定役務が「寿司を中心とした飲食物の提供」なので「寿司」部分は識別力がなく、あってもなくても登録可能性には影響を与えません)。

ということで、登録されるか否かという観点から言えば登録される可能性が大でしょう。査定が出るのは通常1年以上先です。なお、企業イメージの観点から登録すべきかどうかという話はまた別です。

追記:と言いつつ、「大迫半端ないって」「そだねー」等インターネット・ミーム化した言葉が、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」(商標法3条1項6号)として拒絶された事例が最近見られます。「アマビエ」がこのパターンに当てはまるかはちょっと微妙かと思いますが別記事で検討します。

ところで、「アマビエ」(およびそれを含む商標)を出願したのは電通が初めてというわけはありません。既に多くの会社が出願中です(下図参照、Yahoo! News個人のオーサリングシステムの制限で表組みが作れないのでイメージで貼り付けました)(これ以外にも「アマビエ~」というタイプの商標も何件か出願されています)。

出典:特許情報プラットフォーム
出典:特許情報プラットフォーム

出願一番乗りは、「株式会社お菓子のさかい」によるものです(商願2020-040835)。指定商品は30類の菓子類です。早期審査請求が出されているので数カ月で査定が出るかもしれません。既に商品を販売していることから、早期審査請求を行なったものと思われます。

では、この商標が登録されたとして、他社はアマビエの形状のお菓子をアマビエという名前で販売できなくなるかというと必ずしもそうとも言えません。商標法26条2項に商品の特徴を普通に用いられる方法で表示する商標には商標権が及ばないとの規定があるからです。

商標法26条2項 当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標

なお、電通の出願の方は、指定商品・指定役務との関係から言って、26条が適用される余地はあまりないと思われます。