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新型コロナ「肺炎」が再増加 「5類」移行後で感染者数は最多

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

「5類感染症」に移行してから、新型コロナの定点医療機関あたりの感染者数は20.5人と最多を更新しています。沖縄県に端を発した今回の波は徐々に北上し、現在本州を縦断しています。入院を要する新型コロナ患者さんで「ウイルス性肺炎」のみられる頻度が再び増加しています。また、これまでの波と同様、救急医療の逼迫が続いています。

「ウイルス性肺炎」が再び増加

新型コロナが「5類」に移行したことで、「これまでの生活が戻ってきた」と感じる人がいる一方、医療従事者としてはまだ医療がうまく回っていない感覚があり、ギャップがあります。

それを見透かすかのように、新型コロナの定点医療機関あたりの感染者数は増え続け、「5類」移行後最多の20.5人となっています(図1)。これまでより検査数が減っていることから、実際にはかなりの感染者数が存在すると思われます。

図1.定点医療機関あたりの新型コロナ感染者数(参考資料1より引用)
図1.定点医療機関あたりの新型コロナ感染者数(参考資料1より引用)

デルタ株の頃と比べると肺炎の頻度はかなり減りました。しかし、直近の第8波と比較すると、当院では「ウイルス性肺炎」が増えています

細菌性肺炎とは違って、うっすらぼんやりと白くなるのがウイルス性肺炎の特徴です(図2)。ワクチン接種がすすめられる過程で、現場から目にすることが急激に減ったのが、このウイルス性肺炎です。

当院のウイルス性肺炎の合併頻度は8~10%にまで減っていたのですが、「5類感染症」に移行してからじわじわと増え、現在18~20%の頻度となっています。

図2.新型コロナ性肺炎(白いところが肺炎、患者の同意を得て掲載)
図2.新型コロナ性肺炎(白いところが肺炎、患者の同意を得て掲載)

インフルエンザではウイルス性肺炎を起こすことは多くないので、同じ「5類」でも、両者は全く異なるウイルスだと実感しています。本当にやっかいなウイルスです。

では、なぜこのような現象が起こるのでしょうか。

1つは感染者数が多いためです。どの波でも経験されたことですが、感染者数が多いと、それに引っ張られるように中等症や重症も増えます。ただ、以前よりも医療機関を受診する閾値が高くなり、極期ほど入院医療は逼迫していません。

もう1つがワクチンの効果切れの懸念です。ウイルスの毒性はそこまで変わっていないのにウイルス性肺炎をみかけることが増えたのは、感染予防効果だけでなく重症化予防効果が落ちてきているのかもしれません。

特にリスクが高い人は、9月20日から始まる「秋開始接種」での接種を検討ください。

救急医療は相変わらず逼迫

過去経験してきた新型コロナの波ほど逼迫はしていませんが、救急医療はいつも真っ先に逼迫します。

急性期病院では、発熱者を新型コロナだと思って対応しなければいけませんので、平時よりもこのフェーズがボトルネックになります。また、先日記事に書いたように、入院を要する新型コロナの患者さんは地域の中核病院に集まる傾向にあります(2)。

新型コロナの救急医療と入院医療の両方をみている医療機関はかなりしんどいでしょう。

自分自身が医療にかかる局面になると、「こうも医療は逼迫しているものか」とビックリされることが多い印象です。

この構図は、東京オリンピックの頃を彷彿させます。華々しい祭典の裏で厳しい医療逼迫が到来し、医療現場の現状は当時なかなか報道されませんでした。

119番、複数の電話からかけないで

私自身がもっとも参考にしているのが、総務省消防庁の救急搬送困難件数です。これは、医療逼迫をはかる指標として定期的に報告されています。

グラフにあるように、過去の波に近い件数を記録しています(図3)。

図3.救急搬送困難事案数(参考資料3より引用)
図3.救急搬送困難事案数(参考資料3より引用)

東京消防庁は、「119番がつながりにくい」と警鐘を鳴らしています。また、同庁は「複数の電話から通報しない」ことを求めています(図4)。人気アーティストのコンサートチケットのように、複数の電話からかけると回線がパンクしてしまいます。重症の患者さんに回線が回せるよう、ご配慮ください。

図4.東京消防庁の啓発(参考資料4より引用)
図4.東京消防庁の啓発(参考資料4より引用)

また、救急車を呼ぶか迷ったときには、かかりつけ医に相談するか、自治体の所定の相談窓口、「救急安心センター(#7119)」や「子ども医療電話相談(#8000)」(厚生労働省サイトはこちら)などの活用を検討してください(図5)。

図5. 「救急安心センター」と「子ども医療電話相談」(筆者作成、イラストは看護roo!より使用)
図5. 「救急安心センター」と「子ども医療電話相談」(筆者作成、イラストは看護roo!より使用)

まとめ

「5類」になったとはいえ、新型コロナは一筋縄ではいかない感染症だと思います。

アメリカでは先週と比べて新型コロナの入院や救急受診は3~4倍に増加し、死亡者数も増えています。

不幸な転帰を減らすためにも、基本的な感染対策とワクチン接種の呼びかけが求められます。

(参考)

(1) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況等について(令和5年9月8日)(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/001144212.pdf

(2) 高止まりの新型コロナ 「空床補償」縮小で懸念されること(URL:https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/9b4a20b67156e6db8186e7ea2a1be86221422b4c

(3) 各消防本部からの救急搬送困難事案に係る状況調査(抽出)の結果(URL:https://www.fdma.go.jp/disaster/coronavirus/items/coronavirus_kekka.pdf

(4) 東京消防庁.「119番通報が大変混みあっています!!」(URL:https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/hp-setagaya/

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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