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結核のBCGワクチンはなぜ針が9つもある? 大人になったら効果は切れる?

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

3月24日は世界結核デーです。結核は年々減少し、現在日本は低まん延国となっていますが、世界的にはたくさんの感染者が報告されています。結核の現状と、感染予防のために子どもへ定期接種されているBCGワクチンが果たす役割についてお伝えしたいと思います。

日本は現在低まん延国

疫病の原因であった結核菌がコッホによって1882年に同定され、ベルリンの学会で発表されたのが3月24日で、この日を「世界結核デー」と定めています。

一時は「亡国病」とまで言われた日本の結核も、ずいぶん減少しました。2022年には10万人あたりの感染者数は8.2人と、結核の「低まん延国」の基準を満たすほどに減っています(図1)。

図1.日本の新たな結核報告数(結核の統計2023をもとに筆者作成)
図1.日本の新たな結核報告数(結核の統計2023をもとに筆者作成)

結核を予防するBCGワクチン

現在、日本では1歳未満の子どもに対してBCGワクチンが定期接種されています。これは、乳幼児が結核を発病した場合に比較的重症化しやすいことから、幼少期の結核感染を予防するために投与されるものです。

アメリカを含めた欧米では、BCGワクチンが接種されていない国も多いです。この理由は、結核罹患率が低いためです。日本は低まん延国入りを果たしたとはいえ、まだ少なくなってから日が浅いという現状があります。

とはいえ、年々罹患率が低下しているので、いつか日本でもBCGワクチンを接種しなくてもよい日がやって来るかもしれません。

BCGワクチンを接種すると、ツベルクリン反応が陽性になるので、ツベルクリン反応を結核検査に用いている国では「結核に感染しているのではないか」と誤解されることもあります。

BCGワクチンにはなぜ9つも針がついている?

BCGワクチンを開発したのは、フランス人のカルメット氏とゲラン氏で、「カルメットとゲランの菌: acille de almette et uérin」の頭文字をとってBCGと名付けられました。

BCGワクチンは「ハンコ注射」という別名があるように、きわめて特殊な形状です。針は9つ付いており、これを縦に2回接種するわけですが、なぜこのような奇妙な見た目をしているのでしょうか?(図2

図2.BCGワクチンの形状(筆者作成、イラストはいらすとやより使用)
図2.BCGワクチンの形状(筆者作成、イラストはいらすとやより使用)

初期は経口投与のワクチンだったのですが、効果がいまいちであったため、注射のワクチンに切り替えられました。皮下注射すると、皮膚に潰瘍ができてしまうことが分かり、より安全な皮内注射に改良されました。それでも1か所に全量接種すると、痕が残ってしまうことが分かり、針を分散させるという方法に改良されました。

効果はいつまで続くのか?

BCGワクチンの効果は、10~15年でなくなると言われています(図3)(1)。

図3.BCGワクチンの効果(参考資料1をもとに筆者作成)
図3.BCGワクチンの効果(参考資料1をもとに筆者作成)

そのため、BCGワクチンを幼少期に接種していたとしても、残念ながら成人の結核を予防することはできません。

また、大人に接種しても効果はありません。実際に、医療従事者の大人にBCGワクチンを接種した研究では、接種しない場合と比べて、結核の感染を予防する効果はみられなかったとされています(2)。

ですから、あくまで乳幼児期における髄膜炎などの重症結核を予防するためのワクチンと考えていただいてよいでしょう。

現在、いろいろな研究グループが成人結核を予防するワクチンを開発しています。

世界が直面する結核のリバウンド

さて、コロナ禍で受診控えがすすんだこともあって、一時期減少した結核患者数がリバウンドにさらされています。2022年の新規結核報告数は、約750万人とコロナ禍前よりもはるかに多い数値です(図4)(3)。実際には毎年約1,000万人が結核に罹患していると推察されています。

図4.世界の新規結核報告数(参考資料3より引用)
図4.世界の新規結核報告数(参考資料3より引用)

世界三大感染症の中でも最多の死亡者数を出し続け、現在も年間約130万人が亡くなっています。

患者数が減少しているとはいえ、日本でも年間約1万人が結核を発症しています。

2週間以上続く咳や喀痰など、症状が長いなと思われたら、早めに医療機関を受診しましょう。

(参考)
(1) Andersen P, et al. Nat Rev Microbiol. 2005 Aug;3(8):656-62.

(2) Dos Santos P, et al. Lancet Infect Dis. 2024 Feb 26:S1473-3099(23)00818-6.

(3) WHO:Global tuberculosis report 2023. (URL:https://www.who.int/teams/global-tuberculosis-programme/tb-reports/global-tuberculosis-report-2023

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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