高止まりの新型コロナ 「空床補償」縮小で懸念されること
「5類感染症」に移行してから、新型コロナのニュースは随分減りました。地域によって差がありますが、全国的に救急医療が再び逼迫しています。現在の医療逼迫度、および10月から縮小される見込みの新型コロナの「空床補償」について解説させていただきます。
現在の医療逼迫はどのくらいか
現在、波を数えるなら新型コロナの第9波になります。「5類感染症」に移行してから、全数把握ではなく定点医療機関あたりの感染者数をカウントしています。
インフルエンザの場合、定点医療機関あたりの感染者数が20~30人の水準になると医療現場が大変な思いをしますが、新型コロナについても似たような印象を持っています。
定点医療機関あたりの新型コロナ感染者数は、21県で20人を超えており、全国平均で19.07人となっています(図1)(1)。
現在、北陸~東北地方が特に多く、石川県小松市の下水中の新型コロナウイルス量は、過去に類を見ない数値となっています(図2)。下水サーベイランスは、「5類」移行や病院受診の影響を受けることがないため、地域の感染者数を反映する指標として活用されています。
総務省消防庁によると、「救急車を呼んでも搬送されない」救急搬送困難事案数は第6~8波と同じくらいです(3)(図3)。
「5類」移行後、「新型コロナを特別扱いしない」ということになっていますが、医療機関では年に何度もインフルエンザシーズンがやって来るような感覚が続いています。
地域の中核病院へ負担が集中
感染者数が多くなると、重症化率が低くても必然的に入院を要する患者さんの絶対数が増えます。医療行為ができない高齢者施設も多く、急性期病院に紹介されることが多いです。
大部屋が多い療養型病院に急性期の患者さんの入院を依頼することは、なかなか難しいです。これは、療養型病院がそもそも急性期疾患を診る医療機関ではないこと、満床に近い状態で運用しているため隔離する部屋が準備しにくいことが理由です(※)。
※新型コロナはインフルエンザと同じように他の患者さんと隔離して対応している。
となると、入院を要する新型コロナの患者さんは地域の中核病院に集まることになります。
ゆえに、地域の中核病院は現在進行形で疲弊しており、世間とのギャップにジレンマを抱えています。
「空床補償」は10月以降縮小か
病院が赤字運営にならないためには、できるだけ全てのベッドを稼働させる必要があります。
地域の中核病院は、数十床以上の新型コロナ用の病床を確保していることが多いですが、流行は急にやってくるためベッドを準備しておく必要があります。「5類」移行後、病床の確保は決して義務ではないのですが、自治体からの依頼もあって、各医療機関は常に病床を準備しているわけです。
確保病床に患者さんが入院していなくても、「逸失利益を支払う」というのが「空床補償」です(図4)。これは、「対価は支払うので新型コロナの患者さんが確実に入院できるようにしてください」と同義です。もしこの補償がない場合、空床は病院の減収に直結するのです。
まだ具体的な運用法は確定していませんが、10月以降、「空床補償」が縮小される見通しです。実は「5類」移行時も、この補償は半減しました。それをさらに厳格化するというものです。
これまで組まれた予算が大きかったことから、「空床補償」自体に批判的な見解もあります。「新型コロナを特別扱いしない」ため、今後減額していくのは当然でしょう。
しかし、現場で懸念されるのは、「新型コロナのために病床を確保しても補償が出ないなら、空床は確保できない」という医療機関が増えることです。
空いている大部屋に飛び込みで入院するわけにはいきませんので、新規の新型コロナの入院依頼は断らざるを得ない、という本末転倒な事案を生みかねません。
新型コロナを診療した場合に、相応の診療報酬や補助金を支払う事後評価を取り入れるなど弾力的な運用を検討いただき、入院を要する患者さんが行き場を失うということは避けてほしいと切に願います。
(参考)
(1) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況等について(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/001140810.pdf)
(2) 下水モニタリング(小松市)(URL:https://www.city.komatsu.lg.jp/soshiki/jougesuidoukanri/surveillance/14588.html)
(3) 各消防本部からの救急搬送困難事案に係る状況調査(抽出)の結果(URL:https://www.fdma.go.jp/disaster/coronavirus/items/coronavirus_kekka.pdf)