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帰る目途が立たず目詰まり 「寝たきり高齢者」であふれる第8波コロナ病棟

倉原優呼吸器内科医
photoACより使用

現在、コロナ病棟に入院してくる患者さんのほとんどが高齢者です。特に第8波は、寝たきりの高齢者が多い状況です。新型コロナ以外のさまざまな理由で、入院期間が長くなっています。

80歳以上が半数を占める

当院は新型コロナの軽症中等症病床を運用していますが、第8波以降に入院した患者さんの9割以上が高齢者施設クラスター由来です。現在入院している人のほとんどが認知症などで寝たきりになった高齢者で、第1~7波のどの波よりも平均年齢が高いです。

12月15日に開かれた東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料でも、80歳以上が入院の過半数を占めることが分かっています(図1)。

図1. 東京都における入院患者の年代別割合(参考資料1より引用し一部改変)
図1. 東京都における入院患者の年代別割合(参考資料1より引用し一部改変)

アルファ株やデルタ株の頃は、糖尿病や肥満がある中高年層が肺炎を起こして入院になることが多かったのですが、現在は若い人は軽症ゆえ自宅療養となっています。しかし、高齢者は付随するさまざまな理由でコロナ病棟に入院してくるという構図になっています。

きっかけは高齢者施設クラスター

高齢者施設で新型コロナの陽性者が出ると、あっという間に施設全体に感染が広がることがあります。いわゆる、施設クラスターです。

高齢者施設には、クラスターを起こしやすい脆弱な要因がたくさんあります(図2)。

図2. 高齢者施設で感染対策が困難な要因(筆者作成、イラストはピクトアーツ、イラストACより使用)
図2. 高齢者施設で感染対策が困難な要因(筆者作成、イラストはピクトアーツ、イラストACより使用)

1人が感染していることに気づいたときには、もうフロア全体にウイルスがまん延しているということがよくあります。感染者と非感染者を分けるゾーニングもできなくなり、フロアを丸ごと閉鎖してしまうという施設も少なくありません。

誤嚥(ごえん)性肺炎の合併が多い

食事などが誤って肺に入って起こる肺炎を誤嚥(ごえん)性肺炎といいます。第8波で多いのは、新型コロナによるウイルス性肺炎よりも、誤嚥性肺炎です。

もともと食事摂取がギリギリラインだった寝たきりに近い患者さんが、新型コロナによる発熱などで食事をうまく飲み込めなくなり(図3)、誤嚥性肺炎を併発して来院されるのでしょう。

図3. 誤嚥性肺炎(看護roo!より使用)
図3. 誤嚥性肺炎(看護roo!より使用)

誤嚥性肺炎は、すんなりとよくならないことが多いです。長期にリハビリが必要になったり、点滴を併用しなければいけなかったりします。場合によっては、徐々に状態が悪化して、亡くなることもあります。

人工呼吸器や集中治療室の適応にならず、「重症」の定義に該当しないまま亡くなられるのは、実はこういった方々なのです。

一人ひとりにかけるマンパワーが大きくなる

コロナ病棟の全員が歩ける患者さんだと、看護師の業務は比較的スムーズにすすみます。反面、寝たきりの高齢患者さんが大半だと、オムツ交換や食事介助などの身の回りのケアで、相当なマンパワーが必要になります。

90歳を超えている患者さんでも、「人生の最期」について話し合ったことがある家族は決して多くなく、人工呼吸器や延命処置などの取り決めがないまま入院するケースもあります。

話し合いによって、多くの場合、回復が難しければ自然な形での看取りを希望されますが、「亡くなったときのことは考えたこともない」というご家族もおられます。

新型コロナ患者さんが入院してきたとき、高齢者医療の概略について一から話し合う必要があるケースもよくあります。そのため、できるだけ元気なうちから「人生会議」を開いておいていただきたいと思います。

帰る目途が立たない

新型コロナや誤嚥性肺炎の治療が終わったとき、施設で暮らしていた頃よりもさらに日常動作レベルが落ちてしまい、施設としても「その状態で戻ってくるのは難しい」という回答をいただくことがあります。

上述したように、誤嚥性肺炎を起こして食事が十分に摂取できない場合、しばらく点滴が必要になることがあります。また、痰が多くて頻回に吸引を要することもあります。施設によっては、こうした医療行為が難しいなどの制限があります(図4)。

図4. コロナ病棟から高齢者施設に戻ることが難しい理由(筆者作成、イラストはピクトアーツ、イラストACより使用)
図4. コロナ病棟から高齢者施設に戻ることが難しい理由(筆者作成、イラストはピクトアーツ、イラストACより使用)

そのため、改めてコロナ病棟から別の療養型病院などを探すことになります。

自治体によっては、新型コロナ治療後の後方支援病院を準備しているところもありますが、受け皿として大きいとは決して言えない状況です。

転院の決定までに1週間以上かかってしまうこともザラにあります。

まとめ

コロナ禍前から、日本では高齢者医療に関してさまざまな問題や障壁があります。

元気になるために入院してもらうわけですが、ベッド上で生活する時間が長くなるため、逆に足腰が弱ってしまうこともあります。

新型コロナも同じで、若い患者さんよりコロナ病棟の入院期間が長くなってしまい、結果的に治療が終わった後に目詰まり起こす光景は、コロナ禍初期の頃からあまり変わっていません。

「5類感染症」にすることで解決すればよいですが、後方支援病院などへの転院に関して自治体から強い要請は出せなくなりますので、かえって目詰まりが悪化しないだろうかという懸念もあります。

(参考)

(1) (第109回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和4年12月15日)(URL:https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/saigai/1021348/1022727.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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