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「ルルレモン」の強さの源泉とコミュニティ形成の極意 独自のエコシステムの秘密を探る

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
ガレス・ポープ アジア太平洋地域シニアバイスプレジデント。六本木店で筆者撮影

 世界的なインフレによる消費抑制などの逆風が吹く中で、力強く成長を続けているのが、ヨガウエアからスタートした“アスレジャーブランド”の先駆者「ルルレモン・アスレティカ」(LULULEMON ATHLETICA)だ。

 米国のアパレル・小売市場でディスラプション(崩壊)が起こり、店舗やブランド、企業などが淘汰されつつある中で、「ルルレモン」はウエルネス志向の高まりや、アスレジャーブームなどによって、急成長を遂げた。2017年度の売上高は26億4900万ドル(約3576億円)で前期比13%増、2018年度が24%増の32億8800万ドル(約4438億円)、2019年度も21%増の39億7900万ドル(約5371億円)という状況だった。

 それが、コロナ禍が追い風となり、2020年度に10%伸びて44億100万ドル(約5941億円)、2021年度には42%伸びて62億5600万ドル(約8445億円)、2022年度はさらに30%伸長して81億1000万ドル(約1兆948億円)へと急成長を遂げた。これは2017年度からわずか5年で3倍以上伸びたことになる。

 この間、「ASICS」(アシックス)や「NEW BALANCE」(ニューバランス)、「UNDER ARMOUR」(アンダーアーマー)や「PUMA」(プーマ)などのスポーツブランドを軒並み抜き去り、「NIKE」(ナイキ)、「ADIDAS」(アディダス)に次ぐ売上高となり、世界3大スポーツブランドの一つに台頭している。

 今後も高い成長性を継続することを示唆しているような調査結果もある。カンターが今年6月に発表した「世界で最も価値のあるブランドランキング2023」のアパレル部門で、「ルルレモン」は「アディダス」や「UNIQLO」(ユニクロ)を凌ぎ、「ナイキ」「SHEIN」(シーイン)、「ZARA」(ザラ)に続く世界4位にランクインしているのだ。

【世界で最も価値あるブランドランキング アパレルTOP10】

順位(前年):ブランド名、ブランド価値

1位(1位):NIKE(ナイキ)、748億9000万ドル

2位(-):SHEIN(シーイン)、242億5000万ドル

3位(2位):ZARA(ザラ)、183億9500万ドル

4位(4位):LULULEMON(ルルレモン)、165億6300万ドル

5位(5位):UNIQLO(ユニクロ)、121億100万ドル

6位(3位):ADIDAS(アディダス)、118億9600万ドル

7位(6位):H&M(エイチ&エム)、44億800万ドル

8位(8位):ANTA(アンタ)、31億6000万ドル

9位(9位):LI NING(リーニン)、30億6500万ドル

10位(7位):PUMA(プーマ)、29億8200万ドル

注:「世界で最も価値のあるブランドランキング」(正式名称はKantar BrandZ Most Valuable Global Brands)はイギリスの市場調査会社カンターが1998年から毎年発表するグローバル&ローカルブランドの評価ランキングで、厳格に分析した財務データと、広範なブランド・エクイティ・リサーチを組み合わせたもの。2023年版では世界54市場の2万ブランド、420万人の消費者インタビューに基づき、ランキングとレポートによって、ブランド構築に関する洞察を発信している。

 「ルルレモン」は今、2021年から2026年までの5年間で売上げを2倍の125億ドル(約1兆6875億円)とする中期成長戦略「Power of Three × 2」を掲げ、「製品イノベーションによるカテゴリーの拡大」や「ゲスト体験の向上」「海外やメンズなど、マーケットの拡大」に注力しているところだ。そして、「ゲストが汗をかくこと(スウェット)で、ハッピーでヘルシーな人生が過ごせるよう応援し続けるウェルネスブランド」というコンセプトを掲げ続けている。最近では、「身にまとうウェルネスブランド」とも称している。

 新規、既存、あるいは再開したフィットネス愛好家に向けた、コミュニティのためのプラットフォームとなるのが、「ルルレモン・スタジオ」だ。コロナ禍もあり、在宅でのトレーニングが広がりつつある中で、自宅やスタジオ、外出先などで気軽に継続的に運動できるようにと、「ルルレモン・スタジオ」アプリを通じて、1万以上のワークアウトと60以上のフィットネスカテゴリーを提供・更新している。北米全土の上質なスタジオと提携し、業界をリードするトレーナーと共にワークアウトするハードルを下げている。

 そんな「ルルレモン」のガレス・ポープ(Gareth Pope)アジア太平洋地域シニアバイスプレジデントが昨年来日した際のインタビューの中から、この成長戦略と、ロイヤリティの高い顧客の開拓・育成方法や、強い商品を開発する方法など、「成長を続けられる独自のエコシステム」について解き明かしたい。

――コロナ禍以前から、デジタル化やサステナビリティの必要性が高まっていましたが、コロナ禍によりその重要性が増すとともに、市場環境も生活者のライフスタイルも変化しました。「ルルレモン」を取り巻く状況や、人々の意識や行動はどう変化しているととらえていますか? 逆に変わらない価値観やファッションビジネスに大切なことは何だと思いますか?

 デジタライゼーションとサステナビリティという2つの大きな流れに加えて、「ウェルビーイングへの関心の高まり」が大きな潮流になっています。フィジカル、肉体的に健康でありたいということはもちろんのこと、メンタル、精神的にも社会的にも健康であることがますます大事な価値観になっています。

 また、サステナビリティにも通じることですが、かつてはファストファッションに関心を寄せている人が多かったのですが、最近は、品質や、どれだけロングアクティビティか(長持ちするのか、製品寿命が長いのか)というところに関心が向いていると思います。そしてそこは「ルルレモン」が強みを発揮できる部分だと思っています。

――「ナイキ」や「コンバース」など大手スポーツブランドに長年携わってきましたが、アスレジャーブランドとして知られる「ルルレモン」の強みや特異性は何だととらえていますか?

 私たちの特徴は、コミュニティを通じてゲスト(顧客)にアプローチをして、そこを起点にものづくりや事業や店舗、イベントなどすべてのものを開発していく点です。たとえば、現在のトレンドや、生活者が何を求めているのか、商品の使い心地や改良してほしいポイントなどについても、スタッフチームがゲストから直接インプットをもらい、ビジネスにフィードバックしていきます。それが日常的に行われ、エコシステムが確立できているということが、われわれの強みだと思っています。

 そして、私たちには素晴らしい商品があります。商品のクオリティを第一に考えたイノベーティブな商品開発を継続し続けています。マテリアル(素材)の研究開発にも投資していて、使用する素材はほぼ独自で自分たちで開発したものです。なので、他社との差別化ができるのです。そして、数カ月使ってダメになるようなものではなく、3年、5年と長期的に愛用いただけるロングアクティビティも重視しています。なかでもフィット感などの着心地と、パフォーマンスを向上させる機能性などについて、ゲストの方々がどう感じているのかを大切にしているのがユニークなポイントだと思っています。

 さらに人々に着ていただけている理由、選んでいただけている理由には2つあると思っています。一つは、アスレチックユースで、ヨガ、ランニング、トレーニングなどだけでなく、他のシーンでも使ってもらえているニーズをとらえて、テニスやゴルフ、ハイキング用の特別な商品ラインを用意して、さらに幅広いスポーツやカテゴリーを展開してきたことです。また、当初はウィメンズが主流でしたが、メンズ商材の拡充も行っており、男性客も増えています。これは今、中期成長戦略「Power of Three × 2」で商品カテゴリーの拡大を図っていることの一環でもあります。2022年にはスニーカーの展開を本格化しましたし、機能性とデザイン性を兼ね備えた日常着ライン“オン・ザ・ムーブ”も好評です。

 もう一つは、もともとアスレジャーブランドとして汎用性の高さがありましたが、とくにコロナになって、人々の生活様式が変わる中で、「毎日着られる」という点が、ビッグトレンドになっていることです。通勤と在宅勤務、自宅以外でのリモートワークなど、ハイブリッドで働く人が増えました。生活の合間にスポーツをする人も増えています。さらに、「着心地の良さ」について、以前よりも求めるレベルが上がってきていると感じています。それらが、日常性に溶け込むファッション性に自信を持った高機能ウエアを提供する私たちに大きな追い風になって好調を支えてくれている理由だと思っています。

――昨今、「コミュニティ型ブランド」と呼ばれるブランドが増えていますが、その先駆的ブランドと言われる「ルルレモン」が考える、コミュニティ型ブランドをうまく機能させ、成長・拡大につなげる秘訣とは何でしょうか?

 コミュニティ型ブランドという意味では、私たちの成り立ちに深くかかわっています。「ルルレモン」は1998年にカナダのバンクーバーで創業した当初から、「店舗」と、昼はデザインスタジオ、夜はヨガスタジオになる「スタジオ」とが一体になった形でスタートしています。お店とスタジオを作ることでコミュニティが醸成されていくモデルとして最初からブランドとして構築してきました。この思想から組織が徐々に出来上がり、さまざまなプロセスを経て、25年も継続してきました。他が追随しよう、真似をしようとしても、なかなかできない部分であり、それが私たちのキーポイントでもあります。それを世界中でグローバルに、そして、各市場や地域のローカルに合わせた形や人々で根付くように形成しているのが特徴です。

 お店で働いてくれるチームのスタッフは、ヨガやフィットネスなどの愛好者であり、無料でレッスンを受けられるようにすることで、コミュニティの核となるいい人材が集まってきてくれています。そして、すでにレッスンや生徒を持ったり、影響力があり、自らの活動を発信しているような方々にアンバサダーになっていただき、スポークスパーソンとして活動していただきながら、パートナーとしてコミュニティのサポートをしていただき、チームと一体となってコミュニティを運営していきます。それを、1店舗1店舗で行っていくことによって、店舗とスタジオを中心としたコミュニティが出来上がり、広がっていくというモデルです。実際に2016年に日本に今の経営体制で進出した際にも、原宿の路面店をオープンする前にスタジオを開いてレッスンを開始するなど、コミュニティ作りから入っていきました。

――ゲストや買い物客からの相談にのったり、ときには自らレッスンも行う「エデュケーター」と呼ぶスタッフ陣や、アンバサダー制度などよって、コミュニティが形成され、広がり、ゲストが商品を購入したり、彼らの意見が商品やビジネスにフィードバックされるエコシステムはよく理解できました。ただ、コミュニティ内だけの需要・購買だけでは、売上げは限定されます。大きな売上げにどう寄与するのか、もう少し説明いただけますか?

 やはりブランドにはブランド・アウェアネス(ブランド認知)が必要です。ブランドを知ってもらうためには、「『ルルレモン』というブランドを聞いたことがある」、というところから始まって、どんどんかかわり、エンゲージメントを深めていただき、さらに理解度が高まる、ということが大切になります。また、アンバサダー制度では、実際にスタジオでクラスに参加していただくことを通じて、「ルルレモン」の良さを実感し、ご自身のコミュニティの方々を含めて、多くの方々にその認知を広げ、理解を深めていただくことにつながります。いわゆる伝統的なマーケティング手法でムービーやイメージを訴求するだけでなく、クラスに参加したり、実際に着てみて、知ってもらい、理解してもらうことはとても重要です。

 そこから波及して、友達や同僚などから「ルルレモン」のブランドを知っていただく方も多いのですが、親しい人を通じて知ることによって非常にブランドロイヤリティが高いお客さまになっていただくことができます。自分自身がクラスに参加してなくても、知り合いの「良い」という話や評判を聞くことで、1人から10人に広がり、その10人がさらに10人ずつに伝えていくことで100人に口コミで広がっていきます。実際にこれはとても大切なことなのです。

 生活者やゲストの方々は、もう十分にエデュケーションされた方々なので、たとえば単に有名な方がオススメしたとしても、本気で良いと思っているか、それとも単にお金をもらって宣伝のために良いと言ってススメているのかはわかってしまうものです。一般的に有名なスポークスパーソンよりも、コミュニティの中にいる人、自分が信頼している人の発言のほうが、本当にそれが好きだからススメているのだと信用ができて、影響力が大きいと考えています。

 そして、クラスやイベントを通じて、楽しくエキサイティングに汗を流すことはもちろんのこと、周りとつながり、自らの新しい成長を発見するということは、今の時代にますます重要になっています。最高のパフォーマンスは最高の気分になったときに発揮されますし、感情のニーズに応えることはとても大切なことだと思っています。アンバサダーやゲストのグローバルネットワークと協力してフィードバックを収集し、スポーツアパレル市場の限界を押し上げるイノベーションの機会を創出し続けようとしています。

人・コミュニティ・地球を軸にサステナビリティを推進、2025年に75%、2030年には100%を持続可能な素材へ

 ルルレモンはサステナビリティへの取り組みにも熱心なブランドだ。健全な地球の回復に貢献する、新しい素材、デザイン、製造方法の開発を主導するよう努めているという。長く使えるように耐久性を高め、環境負荷を最小限に抑え、むしろ回復に貢献するソリューションを開発し、高性能で美しい商品の提供を推進中だ。「ピープル(人)、コミュニティ、プラネット(地球)をサポートするために業界を変えるイノベーションを生み出すことに情熱を持っています。当社の成長は、商品や素材からゲスト向けの体験やデジタル・テクノロジーの提供に至るまで、ビジネス全体に組み込まれたイノベーションのエコシステムによって促進されています」とサステナビリティのメッセージを発信したりもしている。

 具体的には、2025年までに少なくとも商品の75%を、2030年までに全商品を持続可能な素材に切り替えていく。再生可能なバイオ素材の開発・導入をスピードアップするために、投資や協業も強化している。マッシュルームレザー「マイロ」を開発する米ボルトスレッズ社にも出資。2021年8月には、革新的なサステナブル素材の開発をリードする米バイオテクノロジー企業ジェノマティカとの提携を発表した。環境インパクトが低い植物由来ナイロンを共同開発し、従来型ナイロンと置き換えていく。Higg MSI(サステナブルアパレル連合のHigg素材サステナビリティインデックス)を使用して影響を評価し、ライフサイクル分析手法によって、すべての素材を追跡可能な供給源から調達しようとしている。

 さらに、新たにゲスト(顧客)を巻き込み、使用後の商品の買取・修理・リサイクル・再販などによる循環型モデルを開発。再販プログラム「Like New」(ライクニュー)を立ち上げ、北米から実験を始動。2001年に米国カリフォルニア州とテキサス州で試験的運用を開始。2022年4月に全米に広げたところ好調で、すでに黒字化を達成した。2030年までの開発目標として、全商品の使用後のソリューションと定め、買取・再販をグローバルでの優先課題として拡充する。

 これにより、使用済みの商品が売買されることによって商品寿命そのものが伸びるとともに、既存顧客だけでなく新規顧客にも手に取りやすい価格で「ルルレモン」商品を手に入れられることになり、ゲスト(顧客)のすそ野を広げることにもつながっている。今後はこの取り組みで得られた利益の100%、または売上高の2%のいずれか高い金額を、サステナビリティに再投資していくとしている。

 前述したカンターの「世界で最も価値のあるブランドランキング アパレルTOP10」では、天候不順や異常気象など、気候変動がアパレルビジネスの大きなリスクになるという可能性を示唆したうえで、気候変動や局所気候に対応した商品・デザインの拡充や、天候に左右されない方法を探すことが必要だと指摘している。その意味でも、アスレジャーブランドとして知られる「ルルレモン」は当面、競争優位性の高い状況が続きそうだ。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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